僕の中の黒いもの
潤
どろどろ
「死にたいんだ。」
いつも元気に笑う君は皆んなに振りまく笑顔が眩しかった。
僕はそんな真反対にいる君が羨ましく、それでいて大好きだった。
悩みなんてなさそうな天真爛漫に笑う君からそんな言葉が出るなんて思いもよらなかった。
死にたい、なんて相談僕だって生まれてこの方受けたことがない。
「一緒に死のうか。」
口をついて出た言葉、笑顔が消える君。
この世界から音がなくなったのかと錯覚する程何も聞こえなくなった。
ワァーン__と音が帰ってくる、まずい何か話さなくては。
「な、なん…」
「死のうか。」
え、聞き間違いではないか、今。
僕はずっと死にたかった。
朝起きても、ご飯食べても、仲のいい友達とゲームをしていても、学校で勉強していても、家族がいても。
断言できる、僕は恵まれている。こんなこと思ってはいけないとずっと自分に言い聞かせて生きてきた。
もっとしんどい人たちがいるはず、もっと辛い思いしている人がいる。
僕は幸せ、僕は幸せ、僕は幸せ。
そう自らに思い込ませるほど、僕の心の中の黒いものは肥大化していった。
慢性的な希死念慮。
相談できる人もいないわけではない、相談すればきちんと聞いてくれるだろう。
でも違う、何かが違う、そうではないのだ。
はっきりとした理由を説明しろと言われてもわからない。
ただ違う、そうじゃないと自分自身が言っているのだ。
どうすればいいのか自分でもわからない気持ちの悪さこれも僕の死にたいを加速させた。
僕が陰なら君は光。全く逆の人種。でも何故か君は僕と仲良くしてくれた。
悩んでも仕方ないのさとでもいうようなキッパリとした性格、それでいて面倒見もいい。
君は人気者だったね、話す相手なんて掃いて捨てるほどいるだろうに。
僕の元に来て、たわいない話をしにくる。
内心とても嬉しかった、それ以上に自分の価値が君がいるから付与されているんじゃないかと自分の自信が無くなっていくのを感じた。
僕には友達と言える友達が君しかいなかった。
もともとの僕の性格の事だからあまり友達を作るのが上手くなかったと言うのもあるが、友達ができなかった。
僕は君になりたかった、何もしなくても話しかけてくる友達がたくさんいる君。
羨ましかった。君を殺して君の皮をかぶって君として生活をすることができたらどれだけ人生が楽しいだろうか。
そんな眩しい君が死にたいと言った、僕と似ても似つかない、真反対の君。
そんな君が僕と同じ事を考えていると思うと、なんとも言えない気持ちになった。
嬉しいと、驚きと、嫉みが入り混じった汚い感情だ。
君のような出来上がった人間がなぜ?
生きていて苦しいことなんて無いだろうが。
君より僕の方が、僕だって、僕にも。
僕の中の汚い感情が溢れ出てくる、言葉にするのも憚られるような汚い気持ち。口にするだけで傷つけてしまうような鋭利な言葉。
言いたかった。君の心をズタズタに傷つけて殺してしまいたかった。
できなかった、君のことが好きだから。なんていい性格なのだろうか僕は。
だから一緒に死のうかって提案した、君を殺して僕も死にたかった。
何にも君に勝てるところがなかった。
僕には何もない、勝てるところがない僕が君を殺す。
興奮した、何もかも負けてる相手に殺される気分はどんなのだろうか。
いつも考えてる事の真逆じゃないか、なんて楽しいんだ。
でも多分君はこんなこと一歳も考えていないだろう、僕を一人の仲の良い友人として見ているだろう。
それを君に直接聞いたわけでは無いのに僕は余計負けた気がするんだ。
君がいなければ友達のありがたさには気づけなかった、君がいなければこんな思いも抱くことはなかった。
僕は小心者だから、人殺しができない。
だけど君の死ぬ理由くらいは、作れるんじゃないかな。
完全に僕のエゴだ、自己満足だ。
なんて言ってるけど僕は君に生きていてほしいよ、君が乗り越えることを祈ってるよ。
思い返せば自分のことしか考えてないなんて思いながら縄に手をかけた。
さようなら、僕の愛した君。
僕の中の黒いもの 潤 @Uxuki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます