誰にも愛されなかった超能力少女、自分を愛してくれる少女の為に魔法少女になる

ミレニあん

1章 不幸な超能力少女から幸福な魔法少女に

第1話 プロローグ

「気を付けろよ、藍奈。いきなり襲いかかってくるってのもあるからな。用心に越した事はないぜ」


「ん、分かった」


 とある廃倉庫。

 そこに1人の女の子と黒く小さいドラゴンが入り込み、辺りを見回していた。


 女の子の名前は波野藍奈はのあいな

 ドラゴンはギャルンと言う。

 

 2人が廃倉庫に入ったのは、とある目標を見つけるという目的があっての事。

 そうして倉庫の真ん中に立った後、藍奈がギャルンへと小声で話しかけた。


「ギャルン」


「おっと、それじゃあ一発やりますか!」


「うん、ディスガイズ」


 藍奈が唱えた瞬間、ギャルンの全身が光に包まれる。

 やがて彼の姿が形を変え、魔法使いの杖とも先端に斧が付いた槍とも言える黒い武器――『ハルバード』へと変わった。


 それを藍奈が握った直後、


 バアアアアアンン!!


 いきなり爆弾が落ちたかのように天井が吹き飛ぶ。


「……!」


 すぐさまハルバードを振るう藍奈。

 傍から見れば素振りのように見えるが、しかしハルバードに何かが当たり、段ボールの山が吹き飛んだ。


 その理由は藍奈自身よく分かっている。


「見え見え。いくら透明化していても手に取るように分かるよ」


『そうそう、藍奈にはがあるんだからよ。いい加減姿を現しな、スカタン』


 ハルバードに変化したギャルンが煽ると、段ボールの山から少しずつ何かが現れてくる。

 さながらフィクションにおける光学式迷彩のようだ。


 ――グルウウウウ……。


 そうして姿を見せてきたのは、カメレオンを二足歩行させたような異形の怪物。

 特撮で言う『怪人』を思わせる出で立ちである。


『どうもこのキメラ、体色変化と光の屈折を利用して姿を隠してやがるな。カメレオンタイプらしい特技だぜ』


「と言っても、私の前では無意味だけどね」


『キメラ』と呼ばれた怪物。

 これこそが、藍奈達が討伐対象と定めている存在なのだ。


 そして藍奈の発言は、誇張表現ではなく事実通り。

 彼女は持っているのだ。普通の人間にはない人知を超えた力を。


 ――グオオオオオオオオ!!!


『来たぜ藍奈! いつも通り頼んだぞ!!』


「分かってるって。《流星群の剣ソード・ミーティア》」


 咆哮を上げながら向かって来るカメレオン型キメラ。


 対し藍奈がハルバードの先端を中心に、複数の光の刃を形成。

 ハルバードを振るい、キメラに目掛けて光の刃を射出していった。


 ――ガアアアアアア!!!


 回避を取ろうとしたキメラだが、何本かがその肩や足などに直撃した。

 それでも執念深く口から舌を伸ばしてくるので、藍奈がそれをかわしつつ再び《流星群の剣ソード・ミーティア》を放つ。


 ――ギイアアア!!


 今度はキメラの目や首元に直撃。

 さすがにこれにはもだえ苦しむものの、すぐに体制を整えたばかりか体色を変化させて姿を消してしまう。


 直後に響く足音らしきもの。

 四方八方に聞こえる事から、透明化を利用した撹乱かくらんをしているのだろう。


『オイラ達精霊はな、お前らの居場所までは感知できるんだが、正確な位置までは把握できないんでね。魔法少女にも指示できないから、かなり不利になるんよ』


 藍奈が警戒している横で、ハルバードになったギャルンが言い出す。

 その言葉にはかなりの自信があった。


『が、それは普通の「魔法少女」における話だ。この藍奈って子は違う。例え姿を消そうが撹乱しようが……』


「――フン!」


 藍奈が虚空に向けてハルバードを突き出す。

 その瞬間、彼女へと感じる明らかな手応え。


『この通り、見事にカウンター決めれるって訳よ』

 

 ハルバード周辺に体表が現れていき、やがてキメラの姿を形取る。

 すなわちその個体が、ハルバードに串刺しにされている事を意味していた。


 ――ガアア……ゴオ……。


 腹を刺されて、ついに力尽きるキメラ。

 その身体が粉のように崩れていったかと思えば、中から普通のカメレオンが現れてハルバードにしがみついた。


『ひとまず状況終了クリア……ってところだな』


「そうだね」


 先ほどの異形の姿は、実は「『キメラという敵対存在』が生物に取り憑いた」ものでしかない。

 キメラという本体が倒された影響で、取り憑かれた生物が元に戻ったという訳だ。


「このカメレオン、リボン付けてる。もしかしたら逃げ出したペットか何かかも」


『じゃあ、飼い主の元に返さないとなぁ。にしても透明化したキメラを見極めるとは、ホント大したもんだよ。さすが超能力少女だぜ』


「その異名みたいなのやめてくれる?」


 ギャルンの言う通り、藍奈には透明になったキメラの姿が見えていたのだ。

 クッキリハッキリと。


 それこそが、彼女が生来持っている……いわゆる『超能力』というもの。

 彼女はその力を利用して、今日まで人類の敵であるキメラと戦い続けていたのだ。


「それに、これはあの人の為にやっているだけで……って、それよりも電話しなきゃ」


 思い出したように、藍奈がスマホを取り出して電話する。

 プルルル……という音が鳴り響いてから、聞こえてきたのは女性の声だ。


『もしもし藍奈ちゃん、そっちはどう?』


「うん、倒した。こっちの心配はしなくて大丈夫だから。そういう彩香さやかさんは?」


『こっちも終わったところ。藍奈ちゃんがそちらを倒してくれたおかげで集中できたわ。ありがとうねほんと』


「……うん」


 その電話からの言葉を聞いて、満たされるような感覚を覚えた。

 

 こうしてから褒めてくれる。

 それだけでも、藍奈にとっては嬉しい気持ちだ。


『でもあんまり無茶しないでね。まだ魔法少女になってから、そんなに経ってないんだから』


「うん、分かってる。……あの彩香さん」


『ん?』


「私、ちゃんと魔法少女やってる? 彩香さんの為になってる?」


 期待を込めて尋ねてみると、電話の相手は少し間を空けてから、


『……ええ、もちろん。すっごく私の為になっていると思う。まだちょっと心配だけど、それだけでも嬉しいわ』


「……ありがとう。じゃあ、後で合流するから」


 電話を切った後、微かに頬が熱くなるのを藍奈は感じる。

 多分それは、自分を認めてもらえた事への喜び……。


 すぐに倉庫から出たいとウズウズして、ドラゴンの姿に戻ったギャルンへと振り向いた。


「行こうギャルン。もうここには用ないし」


「おう。しかしまぁ、お前ってちょっとネジ吹っ飛んでるよなぁ」


「はぁっ? ネジ?」


「いや何でもない。それよりも彩香と話しているお前からハート出てくんのがエモいんだよなぁ。めっちゃ百合百合してて俺得……あだ!?」


「百合とか意味分かんないから。下らない事言ってないで早く行くよ」


「ちぇー、スマホでチョップするとか扱い悪過ぎんだろ……おいちょっと待てよ~……」


 これが波野藍奈という1人の『魔法少女』の戦い。

 彼女がこうして異形と戦う道を選んだのは訳があった。

 

 それは、数日前にさかのぼる。

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