エピローグ「メビウスの輪の航路」Ⅲ

 いくつもの文明が人間の一生のように生まれて死に、生まれて死ぬ長い時間が流れた。


 ボクの魂は、その時間という海を渡っている。

 魂は肉体という帆船はんせんに乗り、人生という航路をたどり、時間という名の大海をく。


 どこへ向かうのか。

 たどり着くべき目的地があるのか。そもそもこの海の先に陸地はあるのか。


 多分、ない。


 ボクたちは時間の中を彷徨さまよい続ける。

 時に嵐にってを破られマストを折られ、鋭い波に舷側をつらぬかれて難破なんぱし、転覆てんぷくし、沈没したとしても。


 次の船に乗って、次の航路を往く。

 数え切れない自分の人生の堆積たいせきを振り返って、わかってきた。

 ボクたちは、陸地を目指すのではない。


 この大海原の中で、すれ違う別の船と出逢であうために、ボクたちは海を走るのだ。

 自分を孤独こどくにしないため。孤独なものは、生きられないから。

 自分を自分でいさせるために、他人を求めるのだ。


 そして、ボクは。

 ようやく、ようやく。

 無限の波を乗り越えて。


 答えのひとつに、めぐり逢おうとしていた――。

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