狐の宴~歌舞伎町怪奇譚

たきせあきひこ

プロローグ 『絶望の箱庭』

 華やかな街並みを彩る無数の提灯が、夜空を鮮やかに染め上げている。


 楽しげな笑い声と、陽気な音楽が辺りに響き渡る。


 集った妖狐たちは、心躍らせながら祝福のダンスを舞い踊っていた。


 異界の美しいお祭りだ。


 だが、その賑やかな喧噪からは離れた場所に、一つの箱が置かれていた。


 漆黒の闇に沈む小部屋の中に置かれた、不気味な輝きを放つその箱は、まるで生きているかのようにうごめいている。


 箱の中を覗き込むと、そこには砂漠が広がっていた。


 焼けつくような太陽の下、果てしなく続く砂丘。


 その砂漠の只中を、二人の人影がさまよっている。


「くそっ…出られない…」


 力なく呟くのは、疲労困憊の表情を浮かべた青年、隼人はやとだ。


「隼人、無理するな。砂漠は広すぎる…このままじゃ…」


 隣で、同じように疲れ切った様子の青年、つばさが忠告する。


 二人は、満身創痍の体を引きずりながら、砂漠をさまよい続けていた。


 絶望に満ちた表情で、砂丘を一つ一つ越えていく。


 だが、どれだけ歩いても、景色は変わらない。


 まるで、永遠に逃れられない迷宮に閉じ込められたかのようだ。


 箱の外から、妖狐たちが二人を覗き込んでいる。


「ふふふ、愚かな人間どもよ。その箱は、お前たちから希望を奪い、絶望だけを与えるためにある」


 妖狐たちは、嘲笑うように言う。


「『絶望の箱庭』から、お前たちに逃れるすべはない」


 隼人と翼は、絶望に打ちのめされそうになりながらも、なおも前に進もうとする。


「翼、俺は…母さんの事をもっと知りたい。そのために必ず、この砂漠から脱出してやる!」


「うん、隼人…僕も、君と一緒にここから出て、もっと真実を知りたいよ…!」


 二人は、かすかな希望を抱きながら、過酷な砂漠の旅を続ける。


 そんな中、ふと隼人がつぶやいた。


「翼…『狐の宴』のみんな、元気かな…」


「……うん、早く戻って、またみんなでお店を切り盛りしたいな」


 翼も、懐かしそうに呟く。


紅葉くれはに、響也きょうや銀次ぎんじあずさ朱璃あかり英嗣えいじさん、みお…俺は、みんなに笑顔で再会したいんだ」


「僕もだよ。この旅が終わったら、みんなで美味しい酒を飲もう。君の好きなトンカツも、英嗣さんに作ってもらおう」


「…ああ、楽しみだ」


 砂漠の中で、二人は切なく微笑み合う。


 大切な仲間との日々を思い出しながら、必死に歩みを進めていく。


 苦しくも、かけがえのない絆に支えられた日々。


 笑顔も、涙も、すべてを分かち合ってきた仲間たち。


 その思い出が、隼人と翼の心に灯りをともす。


「俺は…絶対にここから出てみせる…!」


「僕も…君と一緒に、必ず真実にたどり着く…!」


 仲間との再会を誓い合った二人は、希望の光を目指して、砂漠の旅を続けるのだった。


 はたして隼人と翼は、『絶望の箱庭』から脱出することができるのか。


 二人が辿り着く真実とは。


 異世界を旅する二人の物語は、まずは、新宿歌舞伎町の片隅にある、隼人と翼が切り盛りする高級キャバクラ『狐のうたげ』から始まるのだった──。

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