第28話 そこにいたのは……。

 巨大な図書館の辺境も辺境と言える場所に妙に大きい本棚が配置されていた。紛れもない。あれが恐らく河野の言っていた『扉』なのであろう。


 開け方は確か……。


「まずは、指定の図書にある一定の操作を与えるのだ」


 と河野が言っていた。

 その指定の図書は確か。

『私立梁団扇高等学校資料 第六十九巻』

『兵庫県民俗資料 下』

『大阪市史』

『西宮市史』

『姫路市史』

『尼崎市史』

『神戸市史』

『かわにし(川西市史) 6巻』


 この学校、市史多くね?

 一定の操作というのは、これらの本を全部奥に押し込むというものだ。

 正直、すごく骨の折れる作業だ、何せ資料本は無駄に大きく、重い。読ませる気がないだろと言うほどに。

 しかし、何とか全ての本を押し込んだ。すると本棚が忍者のどんでん返しさながらの動きをして、新たな空間の存在を示した。


「すごいカラクリだ……」


 これを本当に河野が仕掛けたのであろうか。


*****


 その空間を進むと、また一つ扉が現れた。そこには電卓を改造したようなものが壁に貼りつけられており、その上部には


『You need password!』


 と書かれていた。

 パスワードが必要……。問題ない。しっかりそれも河野から伝達されている。


 僕は無言でそこに『45451919315』と入力した。

 その後、電卓には『OK』の表示がされ、扉の施錠が解除された。


「よし、行くか」


 そして、僕は扉を開けた。


 瞬間、僕は目を疑った。

 そこに広がっていたのは楽園ヘブンだったから?

 否。


 そこに僕以外の人間がいたからだ。

 しかも、その人間が絶対にここにいないはずの人間であったからだ。


「あれ?宗太君、なんでここにいるの?」


 鈴川明日香の姿がそこにはあった。

 彼女の周りに広がっているのは無数の成人向け同人誌。


 何?この展開。


 無論、こんな展開、全く持って理解ができなかった。

 流石に恐怖を覚える。


「なんで、鈴川さんもここにいるの?」

「いやぁ、先生から教えてもらって……。ちょっと興味があって」


 興味あるの??!!


 いや、待てよ?明日香はさっき先生にこの場所を教えてもらったと言った。確かに彼女のコミュ力から見ればそんな情報を得られえるくらいまで教師からの信頼度を築くことは可能であろう。

 まず、前提として、この部屋は河野の管理下にある。それは確実だ。

 しかし、河野は果たして、ここの存在を教師を伝えるだろうか。

 どれだけ河野が信用できる相手であったとしても、教師に伝えるのはやはりリスクが生じる。それにもし河野が本当にある教師に言っていたとしても、僕の時と同じようにこう付け足すはずだ。


「これは口外禁止な」


 伝えられた時、僕は河野にそう言われたのだ。

 つまり、先生から聞いたという話は教師が裏切った。又は、教師にこの部屋の存在がバレたという可能性しかないのである。


 しかし、河野は言った。


「この部屋の入室記録には僕が存在を教えたやつしか入っていないから、まだ一般にはバレていないよ」


 続いて、また言っていた。


「私は人の見る目があるからね、バラしそうなやつには絶対にここの情報を渡さないのさ」


 確かに、彼の人の見る目はすごい。

 しかし、ともなると僕が導き出した二つの可能性は見事に打ちひしがれる。

 つまり、僕の論理上の結論は……。


 彼女は嘘をついている。


「本当は?」


 僕はそう問うた。


「え?それってどういう……」

「そんなことは多分ないんはずなんだけど」

「……」


 突如、明日香は黙った。そして……。


「ははは……。やっぱだめかぁ」


 そう、彼女は口にした。


「そう、私もここの存在は河野生徒会長に教えてもらったの。信用できるからって、あと、掃除を頼みたいって言われて」

「あ、そう」


 何だ、僕は試されていたのか。

 僕は彼女が何か陰謀を持っているんじゃないかと思っていたので、真実を知って安堵した。


「にしても、宗太君、下半身やばいことになっているけど、それって私か、周りの本、どっちのせい?」

「………………後者です……」

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