第3話 弟の為に 後半

 「落ち着いたみたいだね。」


拓也の病室周辺にいた宇宙人が、居なくなったのか静かになった。


先程の爆発で電線が切れて、非常用電源に切り替わったが長くは持たないだろう。


外の赤黒い結界の影響なのだろう。酸素も少しずつ、少なくなって来ている。


長期戦になったら、今生き残っている人がいたとしても時期に酸素が無くなり息絶える。

その前に、この環境に耐えきれず自ら命を落とすか、唯一の拠り所だと錯覚させてここを支配している宇宙人に食べられに行くかになるだろう。


人間を精神的に支配する事も出来るし、自分の分身を使って人間を襲うことも出来る。厄介な奴が出て来てしまった。


「壮也、会って早々で悪いんだけど僕達と一緒に戦ってくれないか?」


「いきなり過ぎるよ。戦うってこの状況にしている奴とってこと?」


「そうだよ。それだけじゃなくて、今この宇宙全体を滅ぼそうとしている奴らがいる。この状況を生み出している奴もきっと、そいつらの仲間なんだ。」


「そんなの嫌だよ。なんで、僕なのさ。」


「落ち着いて聞いて。今は、信じてもらえないかも知れないけど、壮也は星座に選ばれた星座人なんだ。」


「なんだよそれ。僕にそんな重い事出来る訳ないだろう。」


壮也は、何が何だか分からず動揺して震えている。


無理もない。いきなり、こんなこと言われて動揺しない方がおかしい。


元々、壮也はひ弱な性格なのだ。

何かするにしてもネガティブに考えてしまうことがあり、どうしても踏み出す一歩が出ない。


「正直、この状況を利用しているって思われても仕方ないかもしれない。でも、信じて欲しい。」


「この赤黒い結界は、人間にとってはマイナスな感情を増幅させる。このままだと、君の弟も危ない。」


ミョッチが話していると、拓也の様態が急変し苦しみ始めた。


床頭台に置いてあったカードケースを誤って床に思いっきり落としてしまう。その衝撃で、中に入っているカードが辺りに散らばる。


意識がもうろうとしていて呼吸が荒くなっている。それに加えて、頭痛も激しくなり自分ではどうしようもなくなっている。


少しでも楽になりたいのか、泣きながら壁に自分の頭を叩きつけた。


「痛い・・・ 辛い・・・ 痛い・・・ 辛い・・・ 痛い・・・ 辛い・・・」


「だめだよ。拓也。」


壮也が、拓也の体を抑え込む。


壁には叩き付けた後と血痕が付いている。


手足が動かない分、頭を抑える事が出来ない。だから、壁に頭を叩き付けて痛みを痛みで抑えているのだろう。


泣きながら、拓也が壮也の方に首を傾けて言った。


「お兄ちゃん・・・ 助けて・・・ 痛いよ・・・ 辛いよ・・・」


拓也の顔は、頭から出た血で真っ赤に染まっていた。それと同時に、目から大量の涙も流している。


壮也は、拓也の事を思いっきり抱きしめる。


「今年の夏は、横浜でモンスターパワードの世界大会なんだよ。抽選勝ち取って、一緒に観戦するんでしょ。だから、こんな所で怪我しちゃだめだよ。」


「お兄ちゃんも、拓也の為に頑張るから。」


壮也は、机から落ちたカードをそっと拓也の手のひらに置いて握りしめた。


拓也は、安心したからかそっと目を閉じながら眠りについた。


そのカードは、二人のお気に入りのレアカードで厚紙スリーブの中に厳重に入っていた。





 拓也を再びベッドに置く。


壮也は、自分の手を握りしめながら決意を固める。


「君と契約したら凄い力が手に入るんだよね?」


「うん。」


「いいよ。大切な弟を守れるなら、いくらでも戦うよ。」


「ありがとう。それと、君の望みたい願いを教えてくれ。一緒に戦うんだ。少し無茶な願い位、僕の力で叶えるよ。」


「そんな神様みたいな事してくれるんだ。それじゃあ、弟の病気を治して自由に動ける様にしてよ。」


「すぐには出来ないけど、お安い御用さ。」


壮也とミョッチが握手すると、手から光り輝き出し部屋全体が光に包まれる。


徐々に光が薄くなって消えていく。


ミョッチが壮也の方を見ると、壮也の手には、牡羊座の形をした杖を持っていた。先端には、牡羊座のマークが付いている。


「これで戦えるんだね。」


「そうだよ。弟君は僕が見てるから、誠司達と合流して元凶を倒して欲しい。」


「分かった。」


拓也をミョッチに託して、壮也は廊下に出た。





 「かっこつけて廊下に出たけど、やっぱ怖い。」


脚が震えているし心臓の鼓動もバクバクなっている。


少し、廊下を歩いていると複数のスライムの様な粘々と目が合ってしまう。


次の瞬間、壮也に襲い掛かって来た。


「ギャャャャャァァァァァァァァーーーー。」


「なんでスライムっぽいのに、目が気持ち悪くて顔も滲んでいるんだよ。」


「もうこれ宇宙人ってよりエイリアンじゃん。」


泣きながら、数分病院内を逃げ回る。


後ろを見て見ると、大量のスライムの様な粘々が追いかけている。


逃げていると、ふとある事を思いついた。


「あれ、羊ってめっちゃ毛が落ちるよね。これを無限に出せるならどうにかなるかも。」


急に立ち止まり、深呼吸をする。


右手に持っている杖の先っちょを床に叩く。


「羊毛ガード」


センスのない技名を出すと、杖から大量の羊毛が出て来て重なり始めた。


「なになに、何が起こっているの?」


何層にも固まった羊毛が重なり、壮也の周りを覆った。


驚いて動揺しているうちに、スライムの様な粘々が襲い掛かる。しかし、複雑に絡み合いながら出来上がった羊毛のバリアにくっついてしまい、壮也には到底届かない。


スライムの様な粘々は、身動きが出来ないのが理解したのか全て自爆をした。


「ギャァァァァァァーーー、爆発したーーーー。」


凄まじい爆発音が鳴り響く。


瞬時に、耳を抑えるがそれでも鼓膜が破れそうだ。


「怖すぎる・・・ 耳栓代わりに羊毛を耳に突っ込もうかな。杖から羊毛を出してるから、多分清潔だろうし。」


「てか、誠司と乱暴ちゃんはどこにいるのさ。」


ドッッッッカン!!!!!!


近くからさっきと違う爆発音が鳴り響いた。

「あーもうびっくりしたな!!! あそこに誠司達いるかな。」


壮也は、急いで爆発の所へ向かった。





 3階食堂。

「おいおい、まじかよ。どうやって倒せばいいんだよ。」


「人質ってことかしら? 卑怯ね。」


スライムの様な粘々が集合体の様になって固まっていた。


見た目は、様々な色が入り混じってドロドロしてて大きい。縦、横、共に5メートル位はあるだろう。


体内には、襲われて連れ去られた人達がいる。ざっと見ただけでも60~70人程いるだろう。


「あ、き、ら、め、ろ。こ、い、つ、ら、は、ど、う、や、っ、て、も、こ、こ、か、ら、で、ら、れ、な、い。お、れ、に、く、わ、れ、る、だ、け、だ。」


不気味な笑いを浮かべながら、誠司と美月を見下している。


体の一部から、様々な形をしたスライムの様な粘々が襲い掛かって来た。


誠司が、雷属性の矢を一発天井に放ち、襲い掛かって来たスライムの様な粘々が感電して自爆してしまう。


「それは、もう喰らわないっての。」


誠司が宇宙人の近くまで飛ぶと、鋭い矢を3つ同時に放ちドリルの様に回転しながらドロドロな体を貫く。


人の手や体が見えた。


次の瞬間、誠司と美月が素早く動いてドロドロから男性1人女性2人を取り除いて距離を取った。


「こいつ、口も目もないのにどうやって喋っているんだよ。」


「どうせ、その気持ち悪い粘々だかドロドロか分からない脂肪に埋もれているんでしょ。」


「偏見が酷いなーー。」


話しながら、取り除いた人を見て見ると目を疑った。


「なんだよこれ・・・」


「これじゃあ、もう・・・」


助けた人は、既に亡くなっていた。


助け出した時は、生きている様に見えたのにどうゆうことだ。


生気が吸い取られたのか、血が殆ど無くなり皮膚にはしわが広がり、骨が体内から浮かんでいた。


遺体は、腐敗が進み至る所からうじ虫が湧いている。


助け出したのは、30秒も経ってないんだぞ。


こんなにも、早く遺体が腐敗する訳がない。


こちらの反応を見ていた宇宙人が、笑いながら言い放つ。


「ば、か、だ、な。お、れ、の、た、い、な、い、に、は、い、っ、た、しゅ、ん、か、ん、か、ら、お、れ、が、え、い、よ、う、そ、な、ん、だ、よ。」

「お、れ、の、た、い、な、い、か、ら、で、た、ら、そ、と、は、も、う、ど、く、と、な、り、す、ぐ、に、し、が、お、と、ず、れ、る。つ、ま、り、お、れ、が、に、ん、げ、ん、の、え、い、よ、う、そ、を、く、っ、て、お、れ、の、え、い、よ、う、そ、を、に、ん、げ、ん、に、あ、た、え、る。そ、し、て、お、れ、な、し、じゃ、い、き、ら、れ、な、い、か、ら、だ、に、な、る、ん、だ、よ。」


この中に入っている人達は、もう助けられない・・・ 目の前に生きている人達がいるのに、俺達が助けようとした瞬間、命を絶ってしまうなんて・・・ こいつのやり方は、外道そのものだ。


悔しくて、言葉が出ないし立ち上がれない。


「誠司、立とう。こんな外道さっさと倒して、中の人達を苦しみから解放してあげよう。命を救う事だけが、救いじゃないんだよ。」


美月が先に立ち上がり、誠司を勇気づけた。


こういう時だけ、本当にいい事言うしお姉さんっぽくなるな・・・


誠司も立ち上がり、弓を構える。


「まずは、核がどこにあるかさがさないと。」


「とりあえず、あいつの体を穴だらけにしてやろうよ。」


「賛成。」


宇宙人の体中からスライムの様な粘々が出て来て、一斉に襲い掛かって来た。


誠司と美月がそれを避けながら、二手に分かれて反撃を開始する。


鼓膜が破れそうな爆発音がなっても、二人は気にせずに上に飛んで技を出す。


「ドリルアロー」

「双剣槍(ソウケンランス)」


同時に攻撃を行い、合計4箇所に穴を開けることに成功する。


誠司が中を覗いてみると、信じられない光景が広がっていた。


体内の中に口があり、取り込んだ人達を無残に食べているのを目撃する。特に、脳みそは跡形も亡く食べられていた。


穴は、すぐに塞がってしまう。


びっくりしながらも、床に着地する。


「誠司、核はあった?」


着地した美月が聞いて来た。見たままの事を伝えたら『そんな感じか。』と言う表情をした。


「多分、大きな穴をいくつも開けても核が見つからないって事は、口の中に核があるのかもしれない。」


「そこから直接、核に行って吸収するってことか。」


口の中に入れたとしても、あいつの体内に入ったら生きては帰れない。


せめて、バリアやあいつの体液に触れない様にすれば辿り着けるのに・・・


「誠司―――。」


後ろを振り返ると、食堂入り口から壮也が現れた。


壮也が、誠司と美月の所まで走って来た。


「壮也、その武器、もしかして・・・ 星座人になったのか・・・」


「まぁね。」


「意外ね・・・ 何が出来るの?」


「羊毛を出して盾やバリアとか出来るけど。契約したばかりだから、色々分からない事が多いんだ。」


「それだ!!!」


誠司が何か閃いた。


「俺が、あいつに再び穴を開ける。口を見つけたら合図をするから、壮也が美月に羊毛のバリアをかなり厚めに張るんだ。バリアを張った状態で体内に入り、口の前まで来たら強引に口の中に入って一撃で核を潰す。」


「良いけど、私より誠司の方が広範囲に攻撃出来るし、口の前で核に向かって攻撃出来そうじゃない?」


「確かにそれも可能だけど、相手の口が移動している可能性や3箇所同時に穴を開けて、広範囲に見た方が効率が良いと思う。それに、一撃性は美月の方が上だ。」


「そうゆうことね。それじゃあ、これ以上犠牲者が出ない様にさっさと片付けましょう。」


「おう。」


「うん。」


「ひ、と、り、ふ、え、た、と、こ、ろ、で、か、わ、ら、な、い、ん、だ、よ。や、れ、ぶ、ん、し、ん、よ。」


諦めない誠司達に、宇宙人がしびれを切らせてスライムの様な粘々が大軍勢で襲い掛かる。


しかし、壮也の分厚い羊毛バリアが、誠司達の周りを囲む。次々と、スライムの様な粘々が爆発するが羊毛が焦げるだけで、誠司達は無傷でいる。


爆発が収まると同時に、誠司は羊毛バリアを破り天井近くまで再び飛び上がり弓を構える。


「サンダーアロー」


弓を引いて矢を3つ同時に放つと、勢い良く雷が3箇所同時に落ちる。宇宙人に穴が3つ空き、口がある位置を確認して美月に合図を送る。


美月も飛び上がり、口のある所を確認して体内に入った。それと同時に、壮也が分厚い羊毛を美月の周りに張る。


美月が宇宙人の体内に入ると、囚われていた人達の遺体がそこら中に転がって血痕がそこら中に散らばっていた。体内は、スライムの様な粘々が虹みたいに美しい色合いをしている。それと同時に、不気味な赤黒いオーラが漂っている。


「悪趣味過ぎるでしょ。アイドルの表と裏の顔を表現してるみたいね。」


「に、ん、げ、ん、な、ん、て、こ、ん、な、も、ん、だ、ろ。お、れ、よ、り、よ、っ、ぽ、ど、あ、く、に、ん、だ、よ。に、ん、げ、ん、は。」


余裕を持っても30秒ちょっとかな。一撃で片を付けないと・・・ あの童貞が、羊毛を使って全身を鎧みたいに覆ってくれたから有難い。目元だけは、見えにくくなるからどうすることも出来ないけど。


正直、アニメのフォルムチェンジしたみたいでかっこいい・・・


唇を噛みしめながら、双剣を構える。


「悪いけど、一撃で片を付けるよ。」


「お、ま、え、に、お、れ、は、た、お、せ、な、い。」


美月が、双剣を振り出そうとした瞬間だった。

宇宙人は、取り込んだ老夫婦の体を閉めながら、口の前に出した。


「てめぇ・・・ どこまで腐ってるんだよ・・・」


「じ、こ、ぼ、う、え、い、っ、て、や、つ、だ。」


体の一部から、スライムの様な粘々が美月に襲い掛かって来ると、美月が装着している羊毛に付着しそのまま爆発する。


美月の頭から両腕まで、分厚い羊毛が剥がれ大量の血痕が飛び散り大怪我を負ってしまう。

「ハァ、ハァ・・・ ハァ、ハァ、・・・・・・」


「い、き、が、あ、が、っ、て、い、る、な。さ、ぁ、ど、う、す、る。」


美月が跪いていると、囚われている老夫婦が微笑みながら話しかけて来た。


「お嬢さん。私達の事は気にしないであの害虫を仕留めてくれないかい?」


「話は、ずっと聞いていたんだ。わしら含めて、ここにいる人はもう助からない。だから、わしらみたいな犠牲者が出ない様にここで奴を倒して欲しいんだ。それが、ここにいる全員の願いだから。」


「私なんて、この人とお天道様の所に行けるんだから寧ろラッキーと思っているんだよ。この人がいない人生なんて、考えられないからね。」


「わしもじゃよ、婆さん。いや、久美恵大好きじゃ。」


「お爺さんったらもう。茂さん大好きです。」


老夫婦の体が、感謝の言葉を言い合いながら涙を流している。


本当に幸せな夫婦だったんだなと分かる。


もう、とっくに30秒切っている。気合と根性で、この場を乗り切っているけどそろそろ限界だ。本当に、この一撃で決めないと私も危ない・・・


「お婆ちゃん、お爺ちゃん。安心してよ。痛みなんて与えないから。」


美月は、再び双剣を構えて思いっきり口元へ踏み込んだ。


宇宙人が、不気味な笑みで浮かべながら口を開いた。


「ち、ま、よ、っ、た、か。さ、き、に、お、ま、え、を・・・ あ、れ・・・」


気付いた時には、美月は宇宙人の口の中にいた。


そして、歯が1本ボロボロに欠けていた。


老夫婦は無事である。


「ど、う、ゆ、う、こ、と、だ・・・」


「私含めて、星座人ってね敵と決めた相手以外には、傷つける事が出来ないの。だから、てめぇがいくら人質を向けた所で、私には無意味な事なのよ。」


「それと、私は脚がめちゃくちゃ早いの。だからほら、核見つけちゃった。」


焦り始める宇宙人だがもう遅い。美月の目は、狂気その物だった。


両方の双剣を上げながら、白鳥のバレリーナの様に美しく舞い始めた。脚を華麗に動かしながら、リズムに合わせて双剣で核を深く無数に切りつけた。


「天舞白殺(てんまいはくさつ)」


それは、白鳥が天に昇りながら踊るかの様な美しい技だった。


核は、細かく粉々になり無残に散りとなっていく。


宇宙人は、訳も分からないまま消滅し始めた。体内も徐々に消滅すると同時に、外に張っている赤黒い結界も消滅する。囚われていた人も体の一部となってしまっているため、消滅し始めている。


「お嬢さんありがとうね。」

「幸せになるんだよ。」


美月にお礼を言うと、手を繋ぎながら老夫婦も消滅していった。美月も涙を流しながら、老夫婦を笑顔で見送った。


完全に宇宙人が消滅すると、体内から美月が現れる。


「美月大丈夫か? しっかりしろ。」


ほっとしたのか、美月は気を失ってしまった。

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