第1話 選ばれし者 前半

西暦2050年4月23日、この日俺の運命が大きく動き出した。


「ピヨピヨ、ピヨピヨ」


外から小鳥のさえずりと共に、窓から日が差す。


「眩しい」と寝ぼけながら、布団を被ろうとした。


目覚まし時計が鳴り始め、部屋中に大きく響き渡る。


「うるさいなー」と言いながらもベッドから起き上がり、大きく響いている目覚まし時計を止めて、あくびをしながらまだ開き切っていない目をこする。


「ねむい・・・」


パジャマから私服に着替えて、大学に行く準備をして身支度を整える。


冷蔵庫に入っているカフェオレを出してテーブルに置いてあるクロワッサンを食べながら動画サイトで配信しているリアタイニュースを見る。


「この3日間で死亡者は分かっているだけでも10人、行方不明者は20人を超えています。金品などは盗まれておらず被害者の体の一部や大量の血痕が散乱していました。警察は無差別殺人として捜査をしていますが、未だに手がかりが掴めていません。犯人について心当たりがある方は情報提供をお願い致します。」


「朝から物騒なニュースだな」と思いながら、朝食を済ませ同じワッペンが5つ付いているリュックを背負って部屋から出る。


アパートの駐輪場に向かうと、先日買った新品のマウンテンバイクで大学へ向かう。




星宮誠司、20歳、男、彼女なし。

大学2年


12年前に宇宙で起きたスペースシャトル爆発事故で父親を亡くす。

高校卒業までは母親と田舎で暮らして、卒業後は幼馴染と共に同じ大学に進学しに東京へ移住。


そんな俺の夢は、父親の様な立派な宇宙飛行士になって多くの謎を解明して新たな発見をすること。その為に、体作りや英会話をするのは毎日の習慣となっている。大学教授の紹介もあって、今年の冬にはアメリカ留学も決定している。

宇宙飛行士になるのはとても大変だ。英語を話せるのは当たり前で、様々な試験等を突破する必要がある。それに加えて、提視力は両眼共に矯正視力1,0以上は絶対だし、高い協調性も兼ね備えながらどんなトラブルが起きても冷静な判断を下す精神力が必要になる。


誰にでも出来る仕事じゃないし、なりたくてもなれない人の方が多い。


大抵の事は努力と実力でどうにかなるもんだけど、スポーツ選手、指のモデル、画家、F1レーサーこの辺りは宇宙飛行士と同様に生まれ持った才能や形が関係して来るだろう。


あの時、スペースシャトルに入る時の父とそのチームの勇敢な後ろ姿を間近で見て誓った。


自分も父と同じ様に、未来を繋ぐバトンを渡す人になろうと・・・。





 横断歩道の信号が赤になってマウンテンバイクを一時停止していると、自動車と同じ位のスピードで女の子が横から走って来た。


「ほらほら、そこのお兄さん危ないよー」


声が聞こえる方向に顔を向けると、スニーカーの靴底が勢い良く誠司の顔面に直撃する。


鼻血を出しながら思いっきりマウンテンバイクから転倒して倒れる。


「ごめんね。今、ヒーローになって悪い奴ら懲らしめようとしているんだ。」

「これで鼻血拭いといて~~~」


女の子は、ポケットティッシュを出すと、そのまま走り去ってしまう。


転倒してはっきり覚えていないが、綺麗な紺色のポニーテールに整った顔立ちで可愛らしいおてんば娘だった。


なんか、胸が揺れていたな・・・


「ポケットティッシュかよ。どうせだったらいい匂いがするハンカチとかだったら泣いて喜ぶのに」


冗談を言いながら鼻血止めて転倒したマウンテンバイクを起こすと、あることに気付く。


「俺の相棒が~~~!!!」


思わず心の声が大きく漏れてしまった。


新品のマウンテンバイクのハンドルバーが、大きく変形してしまっている。


しかも、気づいたら大学の講義の時間が迫っている。


「やばい、遅刻する!!!」


変形してしまったハンドルバーを持ちながらも急いで大学へ向かった。


近くの木で立っている、丸っこい小さく可愛らしい不思議な生き物が誠司を見ている。


「全く、相変わらずなんだから・・・ それよりも見つけちゃった。」


ニヤニヤしながら可愛らしい不思議な生き物は、おてんば娘が走り去った方向へ向かった。





 午前の講義が終わって、昼食を食べに大学の施設内にある食堂へ向かう。


幼馴染と食事をしながら今朝遭った事を話した。


「あ~~~ひゃひゃひゃ~~~ なんだよ、その一昔前にやっていたアニメの1話的な展開の奴~~~。あ~~~腹いて~~~」


高らかに大爆笑しながらテーブルを叩いている金髪のツンツン頭こそが俺の幼馴染だ。


名前は、藤本弦貴

いつも、笑っていて明るい奴だ。

周囲に溶け込むのが得意で、いつも場を和ませてくれる。

昔から思っていた事だが、コミュ力お化けってこいつの為に作られた言葉なんじゃないのだろうか。


俺は、弦貴のおかげで何度も救われて来た。


12年前のスペースシャトルの爆破事故で、父を亡くしてから母は酷く落ち込んでいた。


宇宙飛行士になりたいって夢も、当時は否定的だった母を説得してくれたのも弦貴だ。


「胸も俺らの学科にいる女の子より大きいし顔も可愛いんだろ~~~。今度会ったら、連絡先聞いてくれよ~~~。」


弦貴が、目を輝かせながら顔を近づけて来る。


「絶対嫌だ。また、マウンテンバイク壊されたら溜まったもんじゃない。」

「はぁ、、、買ったばかりなのに。俺の相棒が・・・。」


お茶を飲みながらマウンテンバイクのハンドルバーのことを思い出し大きなため息を吐く。


「何言っているんだ。相棒ならここにいるだろう。イケメンでモテモテの最高な相棒がここにさ。」


弦貴が笑いながら誠司の肩を組んで、親指を立てながら爽やかな笑顔で言う。

本当に良い奴なのに、無駄にお喋りなのがたまに傷だ。


「そういえば、今年の冬にアメリカ留学が決まったんだっけ?」

「この前の英検1級の試験も1発で合格だったよな。着実に宇宙飛行士の夢に近づいているし、本当に誠司は凄いな。」


誠司は、少し照れながら食べかけの唐揚げを口に入れた。


「そんなことないよ。俺一人だったら夢に近づけていなかったし、必ずつまずいていたに違いない。」

「俺は、宇宙飛行士。弦貴は、ロケット開発のエンジニア。少しずつだけどお互いの夢に近づけて嬉しいよ。」


弦貴は、ロケット開発を行っている企業と合同で、開発部の仲間と共に新しいロケットの開発を進めている。


「おうよ!!! 絶対に優秀なロケットエンジニアになって、誠司を宇宙へ連れて行ってやるからな!!!」


嬉しそうにガッツポーズをしながら、弦貴は食べかけのカツ丼を口の中に入れる。

誠司と弦貴が食堂で雑談をしていると、上機嫌なおじさんが微笑みながら話しかけて来た。


「相変わらず君達は、仲がいいね。」


目の前に現れたのは、誠司達のゼミの先生で斎藤教授である。


優しく言ってぽっちゃり体系で、普段から白衣と白シャツを着ていて白髭で白髪だから、生徒の間では『白じい』と言われている。ラーメンよりつけ麺が大好きで、野外活動の時は必ずラーメン屋へ連れて行ってくれる。


こう見えて、学内ではかなり上の地位にいるんだから凄い。


「今夜の野外活動は来るかい? ラーメン食べてから山道まで行って、星座や星を観察して帰ろう。」

「今の時期だったら、北斗七星や春の星座を代表するしし座が見れるよ。」


生徒と星を観察して一緒にラーメンを食べるのが、斎藤教授の楽しみでもあるのだ。

こんなお茶目な教授なんて、中々いないだろう。


「当り前じゃないですか!!! ラーメンごちになります!!!」


「教授、今日はラーメンの気分なんですね。」


きっと、美味しそうなラーメン屋を新しく見つけたのだろう。


早くラーメンを食べたいと顔に書いてあるのが分かる。


「それじゃあ5限の講義が終わったら、売店前に集合にしよう。佐藤くんと相澤さんも来るからよろしく。」


斎藤教授は、鼻歌を口ずさみながら次の講義の準備を整えに行った。


突然、弦貴が嬉しそうに誠司の方に振り向いた。


「なんだよ。」


「誠司、まじかよ!!! アイドル活動で忙しい相澤さんが来てくれるなんて最高じゃないか!!! やっぱ、可愛い女の子がいないと星も顔を出してくれないのかもしれないな。しかも、今日は天候的にも星が綺麗に見えるみたいだから、絶対相澤さんのおかげに違いない。」


「はいはい。去年は天候の悪い日が続いて、中々星が見れなかったから楽しみだ。」


「相澤さん、なにが好きかな? ちょっと、家まで戻って勝負服に着替えようかな?」


「5限終わるまで、そうしてな。」


誠司は、弦貴の妄想を華麗にスルーして昼食を食べ終えると、3限目の教室へ向かった。





 東京都内にある高級レストラン。


いつもは昼時になるとランチで賑わっているはずのレストランだが、今日は全く人の声が聞こえて来ない。


ランチを食べに来たOLの女性が店内に入ると、そこは見渡す限り血の海で、店内には人間の死体や体の一部らしきものが散乱していた。


眼球が飛び出て脳みその半分が食べられていたり、首を切られた状態で体を引き裂かれ臓器だけが食べられている。中には、バラバラになった骨だけを残して人間の死体なのか分からないもある。


「キャーーーーーー!!!」


女性が思わず悲鳴を上げると、厨房の方から木の根子の様な奇妙な物体が、女性の体を絡めて厨房の方へ引っ張られ始めた。


「なにこれ、キモイ。離してよ」

「やだ、やだよ。」

「やめて・・・」

「いやーーーーーー!!!」


女性の悲鳴が店内に響き渡ると共に、首から上が噛み千切られ血が辺りに飛び散る。


そこには、人でもなく動物でもない怪物なのかも分からない何かが話しているのが聞こえて来る。


「あーこの脳みそはまずいな。夢が叶っている人間の味だな。やっぱ、夢を追いかけている若者の脳みそが一番美味だな。」


「なにをいっているおまえ。よくぼうにあふれているにんげんののうみそのほうがもっとうまいぞ。ほら、このすーつのおとこはぞうきやちまでびみだ」


「てめぇとは、食の趣味が合わないな。まぁ、そっちの方がお互い美味い人間に出会えるからな。」


「よくぼうはいいぞ。おいしいぞ。ゆめとよくにている」


「知らんがな。さて、そろそろ移動するかな。今夜の晩飯はご馳走になりそうな予感がするな。」


木の根子の様な物を背中に付けながら、翼の形に変えた生物らしき奇妙な物体は山のある方向に飛んで行った

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