変身

雨世界

1 私はここにいるよ。

 変身


 私はここにいるよ。 


 ……今、私の隣にいてくれない、あなたのことを思い出しながら。


 君の瞳はいつもきらきらと輝いていた。あらゆる不可能なことを可能にすることができるような、そんな不思議な瞳をしていた。


 本編


 猫みたいだってよく言われてた。

 確かに私は猫によく似ているし、仕草も性格も顔も猫っぽかった。

 誰かにうまく甘えることもできなかった。

 一人が好きだった。

 気楽な生活が、毎日ごろごろしているだけの日常を宝物のように大切にしていた。

 いつまでもこんな暮らしを続けることはできないってわかっていた。

 どこかで必ず私は今の幸せのぶん、誰かのためになにかをしなくてはいけないのだとわかっていた。

 当たり前の毎日が当たり前ではないように、私は自分でも気がつかないうちに、ほかの名前も顔も知らない誰かの命によって守られているのだと知っていた。

 でも、まだもう少しだけこうしていたかった。

 幸せな家の中で、暖かい陽だまりの中で、時間を気にせずに、ただぼんやりと、眠り続けていたかったのだ。


 私が王子様と出会ったのは小学校五年生のときだった。

 王子様は頭が良くて、顔もかっこよくて、性格も良くて、人望もあって、誰にでも優しくて、先生たちからの信頼も厚くて、いつも教室の中心にいるような人だった。(私とは大違いだった)

「これからの人生において、もっとも僕たちが大切にしなければいけないことはなんだと思う?」

 ある放課後の日、そんなことを王子様は言った。

「大切にしなければならないこと?」

 私は言う。(王子様は『大切』と言う言葉をよく口にした)

「勉強して頭のいい高校や大学を目指すこと? それとも新しいアイデアや技術を考えてお金を稼いだり世の中の役に立つことかな? それとも自分自身を磨いて周囲の人たちから、あるいは自分自身から評価されることだろうか? 君はどう思う?」

 にっこりと笑って王子様はそう言った。

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