第10話

 よく眠れるよう睡眠関係の魔法をかけられたまま宿のベッドで眠る、サスの顔を見ている。

 まだ幼さの残る少年の顔。普通の、少年の顔だ。


「…………なぁ、二人とも。

 サスは、ここで置いていこうか」


 どこか空虚なままでそう呟くと、二人は揃って目を見開いた。


「……それって、どういうこと……?」

「そのままの意味だ。パーティを追放する」


 カズラに返した言葉を聞いて、オフモードであることを加味しても低い声でルメスが俺に問いかける。


「……サスの意見を聞いてから決めるべきじゃねぇのか」


 ……ルメスの言っていることは正しい。

 こんなことは当人であるサスと話し合って決めるべき内容に決まっている。……けど。


「サスは絶対に納得しないだろうから、話し合うつもりはない」

「ちょっ、ちょっと待ってよ!なんで突然そういう話になったのか説明して!!」

「……今回のことでハッとしたんだよ。これは命の危険を伴う旅だ。楽しいからとか、そうしたいからって我が儘で子どもを連れ回すわけ、にッ!!?!?」


 理由を話している途中で思い切り頬を殴り飛ばされて、一瞬視界がちかちかと光る。何とか倒れないよう踏ん張って前を見ると、俺を殴ったらしいルメスがこちらを睨み付けながら口を開いた。


「次俺たち相手に建前で答えようとしてみろ。次はカズラに殴らせる」

「……サスはまだ若い。クラス適性のせいで苦労もあるかもしれないが、それでも俺たちの一本道に巻き込むよりはよっぽどマシだ。

 サスは、サスだけは、ちゃんと普通に生きることが出来るんだ。……だから……」

「それだけじゃねぇだろ」

「!」


 ──あぁ全く、敵わない。

 俺は、観念して全てを白状することにした。


「…………恐く、なったんだ」


 敵の前にサスが飛び出したのだと分かった時。

 血塗れのサスを見た時。

 サスの行動を見て。サスの目を見て。サスの言葉を聞いて。

 俺は、怖じ気づいてしまったのだ。


「このままじゃ、サスの“生”への執着を奪うことになるんじゃないかって」


 まっすぐなままだったサスを、俺という存在が壊してしまうのではないかと思った。

 「生きたい」という強い意思を持っていたサスが、いつか俺の為に死ぬ未来を想像してしまった。『お前を守れて良かった』と言って、笑って死んでしまいそうだと思ってしまった。


 話しながら、足が震えているのに気が付く。

 これまでどんな敵と対峙した時も、ここまで震えることはなかったのに。



 ──彼の生が、彼の生への執着が。いつか俺の未来の続きを綴る代償となってしまうことが、今は何よりも恐ろしかった。


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たとえ仲間じゃなくなっても 湊賀藁友 @Ichougayowai

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