専属メイドって話だったはずが、蓋を開けてみれば、食堂のおばちゃんだった。

@ikie

第1話 出会い

振り返ってみれば、寂しい人生だ。


貧乏な幼少期を過ごし、金がないと幸せになれないことを知った私は、

家族も友情も恋も青春も捨てて金を稼いだ。冷や汗をかきながらグレーな仕事もやり切った。


使い切れない金と自由な時間を手に入れた頃、金だけでは幸せになれないことを知った。

齢45歳。家族も友情も恋も青春も捨ててしまった。もう一度拾い集めるには年老いすぎた。


寂しい中年と噂にでもなっているのか、胡散臭い人材派遣業者から、専属メイド派遣の話を持ちかけられた。

家事くらい自分でできるので、メイドを雇う必要もないのだが、『貴方の夢を叶えます』という言葉に惹かれた。

金と時間があることを言い訳に、ほんの気まぐれで一人頼んでしまった。

どうせ下品な若い女を斡旋する業者だろう。家事の腕前に難癖を付けて辞めさせればいい。


メイドの配属当日。

金が余って仕方ないからスーツを新調し、時間が余って仕方ないから玄関の覗き穴からメイドが来るのを息をひそめて待っている。


---あいつか? 金髪が気に入らないが及第点だな。

---あいつか? ネイルなど言語道断だが仕方ない。私が教育してやろう。

---あいつか? スマホを見ながら歩くなど、常識がないのか?メイドも人材難だな。


覗き穴から通勤ラッシュの女性を観察していると、一人の人間が近づいてくる。

小柄で中肉中背、目は小さいが目力が強く、顔は自信に漲っている。

髪型はパンチパーマに近い、強めのパーマがあたっている。

子供の頃観た、ちび〇子ちゃんの母親のようだ。いや、それよりも忍〇乱太郎の食堂のおばちゃんに似ている。

確か「お残しは許しまへんでー!」が決め台詞だったな。

関西人だったのか。甲賀出身か?


そんなことを考えていると、食堂のおばちゃんがドアの前で立ち止まった。そしてインターホンを鳴らす。


「すいませーん!」


おばちゃんがピンポンの音をかき消すように叫ぶ。インターホンの効果を知らないのか?

コンマ数秒で玄関を開けることはできるが、待ち構えていたとバレたら恥ずかしいので、一度リビングにあるインターホンのマイクまでそーっと戻る。

足音に細心の注意を払う。相手は忍者の里から派遣された猛者だ。おばちゃんの大声を背中に受けながら、時間をかけてリビングに戻る。


マイクをオンにする。


「どなたかね?」


「うちは専属メイドだっちゃ!よろしゅうに!にしても広い家だっちゃ!うちのボロ屋とは大違いよガッハッハッハ」


「と、取り敢えず開けるので待ちたまえ。。。」


再度玄関に戻る。戻りながら考える。

ラムちゃん要素もあるのかい。電気属性メイド助かる。


玄関のドアを開ける。


「わざわざすまないね。さあ、中へどうぞ」


「ああ、ありがとっちゃ!」


とっちゃ?無理してないか?

中に入ろうとして、私の顔を見て立ち止まる。


「どうかしたかね?」


「あなた、、、ぼんびっちゃま?」


「なぜそのあだ名を...?」


「やっぱりそうだっちゃ!懐かしいっちゃねぇ~」


「おまえまさか、、、ラム肉か?」


「そうだっちゃ!憶えていてくれて嬉しいっちゃ」


小学校の頃、ラムちゃんの口調を真似たデブがいた。

実家が貧乏なことを弄られてぼんびっちゃまというあだ名をつけられていた私は、彼女と共にクラスの弄られ二大巨頭を担っていた。

弄られることが嫌で人を避けていた私とは違い、彼女は笑顔を絶やさなかったし、口調を変えることもなかった。

決して友達ではなく、こいつとは違うという同族嫌悪を募らせていたので、小学生当時は私の方から避けていた。なのに彼女は憶えていてくれたようだ。


熟成されたラム肉をリビングに通す。もちろんいただくつもりはない。

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