第2話 水野 乙葉の近因①
湊は昨日、憧れだった乙葉に会うことが出来た。しかし乙葉はその後友達らしき人と合流し、湊に手を振った後、校門を出て行ってしまった。
(まだ話したいことあったんだけどな…。でも話すのは緊張したな。)
湊はそんなことを考えながら、まだ慣れない通学路を歩いていた。
「湊君、おはよー。」
そう声を掛けてきたのは優菜だった。
「昨日の部活はどうだった?って言ってもまだ部活らしいことはしてないよね。説明しかしてないし…。」
「楽しかったですよ。中学にもない部活なので新鮮でした。」
湊は昨日の部活中、乙葉が辞めてしまったことがショックで説明など何も聞いてはいなかったが。
「昨日、湊君は乙葉について聞いてきたよね。なんで1年生なのに乙葉のこと知ってるの?」
優菜は視線を湊へ向け、答えるのを待っている。湊は視線に気づいたが目を合わせないで答えた。
「去年の文化祭で水野先輩のパフォーマンスを見たんです。それでその姿に惚れたというか…そんな感じです。」
「え、それって乙葉のことが好きってこと!?」
優菜の視線は強くなった。
(言い方ミスったなこれ。)
湊は優菜の発言を否定しようとするが優菜が割って入る。
「湊君は乙葉のことが好きなのか〜。乙葉可愛いもんね。乙葉って学校のマドンナ的存在だからな〜。結構厳しいかもね。乙葉のこと狙っている人たくさんいるし。でも乙葉はサーカス部入ってるし全然チャンス…あ。」
優菜は自分の発言の間違いに気づいた。顔を少し俯きながら発言を加えた。
「ごめんね。乙葉はもう辞めてるんだった。やっぱ慣れないな。」
湊は言おうとしていた言葉を引っ込めて、優菜に質問をした。
「水野先輩ってなんで部活辞めちゃったんですか?」
優菜は少し言いづらそうに答えた。
「…………」
放課後、湊は部活動が行われる場所にいた。ここは体育館のように広くはないが、サーカス部専用の空間である。マットやジャグリング道具などサーカスのための道具も端に置いてある。
「じゃあ今日は私がパフォーマンスをするから見ててね。」
優菜がそういうと部員全員が優菜に注目する。手にはボールを3つ持ち、それを回し始めた。
数十回回した後、右手で1つのボールを高く上げた。ボールが空中に滞在している間に右手に持っていたもう一つのボールを低く上げた。その時、優菜は回転しながら脇の後ろで低く上げたボールをキャッチし、高く上げたボールも右手でキャッチした。優菜が動きを止めると拍手が起こった。優菜は少し頬を赤らめたがすぐに切り替えて話し始めた。
「こういうことをできるようにするにはやっぱり練習しかないかな。だからみんな、頑張ろうね。」
その後、部員はそれぞれ優菜と新に教えてもらうことになった。湊は1年生部員である天野 律と共に新の話を聞こうとしていた。しかし、新は喋らない。ここで律が沈黙に耐えかねたのか湊に耳打ちをした。
「この人、大丈夫か?さっきからなんも喋んないんだけど。てか、君名前なんていうの?俺は天野 律。」
湊は耳打ちされ、少し目を開いたが、律の質問に答えた。
「僕は神木 湊。これからよろしく。」
律はイケメンと言われる部類の人間である。その上コミュニケーション能力に長けており、人と仲良くなるのがうまい。
「湊か。よろしくな。」
律が笑顔でそう言った後、新が湊と律にボールをそれぞれ3つ渡した。新はスマホを取り出し、湊と律にジャグリングを披露している人の動画を見せてきた。動画が終わると新はボソボソと喋った。
「これ……練習……してこい。一週間後……テスト……やるから。」
そう言うとそのまま帰ってしまった。湊は急な出来事にポカンとしていたが、律は湊にすぐ話しかけた。
「これって、今見せられた動画の内容を完璧にしろってこと?それはいいんだけどあの人適当すぎじゃね?やる気ないっていうか。」
律は素直に本音を話した。
「まあ、そうだな…。」
湊は自信がなかった。見せられた動画は明らかに優菜がやったパフォーマンスよりも動きが多く、難しい。不安を抱えながらも今日の部活が終わった。
「じゃ、俺先帰るから。じゃあな湊。」
「うん、じゃーね。」
律は急いで教室を出て行った。湊も数十分後、準備を整えて教室を出た。
(僕にあんなパフォーマンスできるのか。初心者には難しすぎないか?天野は余裕そうだったけど一週間か…)
考え事をしながら図書館の前を通り過ぎようとすると、図書館のドアが開いた。そこには学校専用のバックを持ちながら帰ろうとする乙葉がいた。
「あれ、君、昨日の子だよね。部活帰り?」
「あ…はい。そうです。」
湊は乙葉に会うことなど想定していなかったので少し返事に戸惑ってしまった。それと同時に今朝の優菜の言葉を思い出す。
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