サーカス少女に惚れてしまった僕の物語
志水 修二
第1話 神木 湊の嚆矢
拍手と歓声が白楽園高校の体育館に鳴り響いた。舞台では少女がボールの上に乗りながらジャグリングをしていた。その姿を見た神木 湊は目を奪われていた。パフォーマンスが終わった後も興奮を抑えることが出来なかった。
「今日の文化祭どうだった?凄かっただろ。」
湊の兄である航が自慢げに言った。航は白楽園高校の3年生である。
「うん。凄かった。特にあのサーカスの少女。」
「ああー。確かサーカス部の1年生で水野 乙葉っていう名前だったな。あいつ学校で可愛いって有名人だからうちの高校のやつはほとんど知ってるんじゃないか。まあ俺は1回も会話したことないんだけどな。」
「・・・決めたよ。僕、兄貴の高校行く。」
湊はやりたい事が無く、どこの高校に行くか悩んでいた。しかし今日、やりたい事ができた。
「そうか・・・。お前が決めた道なら兄貴の俺は何も言わないよ。でもうちの学校意外と偏差値高いからな。ちゃんと勉強しろよ?俺は教えらんないし。」
航は高校受験までは勉強を頑張っていた。しかし、高校に入った途端、勉強をしなくなった典型的な高校生だ。
「わかってるよ。自分で何とかする。」
その後も湊と航は会話を弾ませながら家へ帰っていった。
約半年後、白楽園高校の入学式の次の日、湊は校門の前に立っていた。掲示板がいくつか置いてありそこにはこれから過ごしていくクラスメイトの名前と出席番号、そして担任の名前が書かれた紙が貼ってあった。湊は自身が1年2組13番であることを確認し、教室へ向かう。そのとき、背中に強い衝撃が走った。
「おはよう。湊は何組だった?。」
今背中をたたいてきたのは小、中学校が同じだった生田 幹太だ。
「いってーな。もっと優しくできないのかよ。」
幹太は湊にとって親友と言える存在だ。新しい生活が始まるときにこういうやつがいると気持ちが楽になる。
「まーいいじゃんか。で、何組?」
「僕は2組。そっちは?」
「まじかー。同じじゃないのかよ。俺は3組だわ。」
湊的には幹太が同じクラスのほうが安心出来たが仕方のないことだ。
「それにしても湊がこの高校受けるって時は驚いたなあ。お前馬鹿だから。」
「うるせーよ。受かったんだからいいだろ?」
「まあそうだな。あ、俺こっちだから、じゃ。」
と言って幹太は3組へ向かった。湊もそのまま2組へ向かった。
時刻は15時5分。帰りのホームルームの時間である。友達といえるかは分からないが、周りの人と少し会話をすることができた。そして担任が教室に入ってきて話し始める。
「今日から部活動の入部が許可された。興味があるものはタブレットを確認すること。以上でホームルームを終了する。解散。」
今の時代、紙でのお知らせなどはあまりされない。環境への配慮だろう。湊はタブレットでサーカス部を探す。
(あった。2年1組に15時20分に集合か。)
少し早いが湊は2年1組へ向かうことにした。このとき湊は少し浮かれていた。ようやくあのときの少女に会えると。
2年1組のドアの前に着いた。湊はなかなか入ることが出来なかった。手から水が垂れそうな程の手汗をズボンで拭きドアをノックし、開けた。中にはショートカットの少女が1人、ロン毛で少年とは言い難いような体格の少年が1人いた。
「失礼します。サーカス部に入部したくて来ました。神木 湊です。」
「初めまして。私は山下 優菜。よろしくね。」
優菜は笑顔で挨拶をした。
「向こうにいるのが佐久間 新。無口だけどいい奴だよ。」
「よろしくお願いします。山下先輩、佐久間先輩。」
湊は挨拶を返した後、周りを見渡す。そこには湊が会いたいと思っていた少女の姿はなかった。
「1つ聞いてもいいですか?」
「いいよ。」
「水野先輩はいないんですか?」
優菜は笑顔を崩し、浮かない顔をしていた。
「乙葉はもうやめるの。色々あってね。」
湊はその言葉を聞き、頭が真っ白になった。
その後、1年生が何名か来て、先輩たちが部活について説明をしてくれたが何も頭に入らなかった。それほどに水野 乙葉という少女の存在は湊にとって大きかった。
部活動を終え、下駄箱で無気力に上履きを履き替えているとき、ふと校門の方に目をやるとショートヘアーというには長く、ロングヘアーというには短いような長さの金色の髪が揺れ動いているのを見つける。半年前に見た姿とは少し違うが間違いない。水野 乙葉だ。そう確信すると湊はチーターも驚くようなスピードで走っていった。
「あの!水野先輩ですか?」
息を切らしながらも湊は話した。
「うん。そうだけど。」
乙葉は少し困惑しながらも答えた。
「半年前に先輩のパフォーマンスを見て感動しました。ボールに乗りながらジャグリングするなんて初めて見ました。先輩のおかげで前に進むことができました。それで、あの、凄く尊敬してます。」
乙葉はそんな言葉が飛んでくるとは思っておらず、思わず笑顔をこぼしてしまう。
「そっかー。なんか正面からそういうこと言われるとうれしいな。ありがとう。」
天使のような笑顔で答える乙葉を見て湊はどんなモデルよりも、どんな女優よりも、美しく、可愛いと思った。
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