どうか幸せに
あの日、今際の際で妻が私を呼んだように。自分にもその時がわかるのものなのかと、そう思っていたのだが。
なんとなくわかるものなのだと知った。
「……その箱を」
フランとノエルを呼んで、傍らに置いていた箱を開けてもらう。
「種……」
「ああ……。前に……話しただろう……?」
私が死んだあとにすべきことは、もうすべて話してある。
墓の前に種を蒔いてほしい。そのことも伝えてあった。
これを渡すということが何を意味するのか。
いや、ここに呼んだ時点でふたりとも気付いているのだろう。
何かに耐えるような顔をしているフラン。
既に泣き顔のノエル。
わかりやすいふたりに笑みが浮かぶ。
欲を言えばもっと一緒にいられたらと、私だってそう思うけれど。
それでもこうして見送ってくれる相手がいること。
別れを惜しんでくれるふたりが傍にいること。
今、私はその幸せに満たされていた。
別れは悲しいことだけれど。
別れのあとに残るものは決して悲しみだけではないのだと、私はふたりに教えてもらった。
だから私からもふたりへ。
心配はいらないとふたりに伝えるためにも、私だけは笑顔で見送られよう。
「フラン」
伸ばそうとした手を、フランがさっと握ってくれる。
「ノエル」
ボロボロと涙を零しながら、ノエルが反対の手を取ってくれる。
温かな、小さな手。
私を支えてくれた、小さな手。
「ありがとう」
すべて喪った私がここまで生きてこられたのも。
身に余る幸せを感じることができたのも。
ふたりが傍にいてくれたから。
ふたりが慕ってくれたから。
本当に――本当に、幸せな日々だった。
この幸せに報いるには、私が残していけるものでは足りないかもしれないが。
だからこそせめて、最期に願う。
私のかわいいこどもたち。
どうか、どうか幸せに――。
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