あなたが遺してくれたもの

古都池 鴨

プロローグ これから家族として

 ようやく建てることのできた家の前で、私は安堵と達成感に満たされていた。

 私の両側、手を握る子どもたち。

 これでようやくふたりを家の中で休ませてあげられる。

 尤も、まだ中は空っぽ、今日からは家具造りに励まねばならないが。


「できたの?」


 右手を握る黒髪に金の瞳の小柄な少年が聞いてくる。


「できたの?」


 左手を握る銀髪に青い瞳の大柄な少女が聞いてくる。

 私と出逢った頃はまだ二足歩行する猫と犬にしか変われなかったのに。今はすっかり肌と服もきちんと映した、人と同じ姿を取れるようになった。

 言葉も流暢になり、手先も器用になって。ふたりに手伝ってもらえるようになってからは作業も捗った。

 本当に。子どもの成長は早いとつくづく思う。


「ああ。今日からここが私たちの家だ」


 ぎゅっと手を握り返して感慨深く呟くが、ふたりにはピンとこなかったようで。ふたりしてきょとんとした顔で私を見上げている。

 ふたりにとっては何もかもが初めてのこと。仕方ないかとひとり笑う。


「じゃあ入ろうか」


 息をついてそう言うと、揃って嬉しそうに笑ってくれた。




 ふたりははしゃいで家中を駆け回った挙げ句、疲れたのか、寝室の床で寄り添って眠ってしまった。

 銀毛の大きな犬と黒毛の小さな猫がくっついて寝息を立てている姿はいつもながらとても愛らしく。見る度に忘れかけていた誰かへの愛情を思い出させてくれる。

 亡くしてしまった愛情の先。行き場を喪ったそれが、まだ己の中にあるのだと――。

 これはただ私の自己満足でしかないとわかっている。

 それでも、私はここで、この子たちと家族になれればと願っている。


 人化族猫属のフラン。

 人化族犬属のノエル。

 人族の私。


 独りぼっちだった私たち。

 たとえ歪でも。

 これから家族として、ここで暮らしていければと思う。

 いつかふたりが望む幸せを手に入れられるように。

 この世に在るべき存在として、背筋を伸ばして生きられるように。

 大切なものを守り切ることができなかった、こんな私にも。まだまだふたりに教えてあげられることがあるのだから。




 やがて目を覚ましたふたりは相変わらず嬉しそうで。いつもの粗末な食事でさえ、いつもより美味しいと食べてくれた。


「あとは何をするの?」

「そうだなぁ。家の中もだけど、外も整えていかないとなぁ」


 見上げて聞いてくるフランにそう答えると、早速ノエルが反応する。


「畑! もっと作る?」

「それってノエルが穴掘りしたいだけだよね」


 濡れるのも汚れるのも嫌いなフラン。

 それでも我慢してたくさん手伝ってくれた。


「だってぇ。そっちの方が楽しいんだもん」


 どちらかというと身体を使う作業の方が得意なノエル。苦手な座っての作業も頑張ってくれた。


「ね、何するの?」

「あたしもやる!」


 片方ずつ腕を引っ張ってくるふたり。

 不意に込み上げる幸せに、思わず涙が滲む。


「どうしたの?」

「ごめんなさい、強く引っ張っちゃったから??」


 心配そうに聞いてくるふたりに、なんでもないからと笑いかける。


「さぁ。もうひと踏ん張り頑張るか」

「はーい!」

「任せて!」


 わざと大きく出したその声に、元気なふたりの声が返ってきた。




 温かな胸の中。こんな気持ちをもう一度抱けるようになるなんて、あの時は想像もできなかった。

 助けてもらったのは私の方。

 だからせめて、ふたりの幸せのために。私にできる限りのことを――。

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