異世界転移者、金貨一枚でバブみ奴隷ちゃんを買う
滝川 海老郎
1.俺氏、ゴブリンキング討伐で金貨一枚を得る
俺は
地球では日本で高校生をしていた。
高校では一般人を貫き日陰者ながら平穏な日々を送っていた。
そんなある日、放課後。
「海君、私、あなたのことが好き。付き合ってください」
「いいよ!!」
俺は人生初の告白をされた。
彼女と初めて二人で並んで途中まで帰った。
心臓はめちゃくちゃバクバクしていた。
すぐ左に割と好みの女の子の気配がずっとある。
「じゃあね、海くん」
「ああ、じゃあ、また明日」
「うん」
連絡先を交換して、俺は有頂天で家に帰った。
その日の夜、初めての連絡が来た。
『ごめんね海君。本当は罰ゲームの嘘告白なの』
続いてこう書かれていた。
『まぁお友達からということで』
俺はまんまと騙されていたのだ。
かわいい顔して、俺を騙した。
あんなうれしそうな笑顔も、なにもかも全部嘘。
絶望に打ちひしがれて、天を仰いだその瞬間。
俺の周りに魔法陣が浮かび上がってきた。
こんな現象、見たことも聞いたこともない。
ただ知らないわけではない、それはファンタジーではありふれた現象、転移魔法。
「うおおぉおおおお」
俺は転移陣に吸い込まれるように、体が粒子に分解されて地球世界を旅立った。
▼▼▼
気が付いたら昼間になっていて、草原に放り出されていた。
服装はパジャマだったはずだが、今は靴も履いているし、服も異世界であれば普通っぽい布の服だった。
「異世界……なのか、少なくとも地球ではなさそうだが」
天に見える二つの月を仰ぎ見ながら、様子を窺う。
その後は下流と思われる方向に進んだ。
そのうち道を見つけてそのまま進む。
「道がある、それも馬車が通れそうな。街道なんだろう。このまま進めば町もある……といいな」
めちゃくちゃ広い可能性もある。
ヨーロッパぐらいの距離感なら、歩いていけばそのうち町にはつく。
しかしアメリカ大陸横断みたいな間隔だったら、ちょっとやばい。
「さてどうしたもんか」
とりあえず道を進んでいく。
途中で落ちていた木の枝をないよりはマシだと思って、装備している。
なぜなら道端には青いスライムがちょくちょく出現して、俺を妨害してくるからだ。
匂いでも嗅ぎつけてくるのか、目がしっかり見えるのか。
ともかくスライムは俺に体当たりしてくるので、それを木の枝で串刺しにする。
みごとに核を枝でほじくり出すことに成功すれば、スライムはべちゃっと潰れて死ぬ。
「ひ、ふ、み、これで八匹目だが」
俺の腰についていた袋の中には、小さな紫の魔石が八個入っている。
倒したスライムの数だ。
魔石はよく売れるというのが常識なので、この世界でもそうだといいな、ということで回収はしている。
そのうち馬車が通りかかった。
俺は木の枝を振って合図をしたら、止まってくれた。
「あんたぁ、丸腰の一人旅かい? 変わってるね」
人のよさそうな歳をとった農家のおじさんだった。
荷馬車に野菜を満載している。
「さて乗っていくかい? 無料でいいよ」
「本当ですか、ありがとうございます」
こうして俺も乗せてもらう。
そうしてついたところがベルマンディルという町、城塞都市だった。
この辺では最大都市だ。
この町が中心都市を形成していて、周りに中小の田舎村が点在している。
ベルマンディルを経由して、王都方面に様々な野菜や物資が輸送されていた。
国内第三位の規模で、そこそこ繁盛している。
そして小さいながらダンジョンがあった。
冒険者ギルドというところへ行き、ギルド会員になりギルドカードを発行してもらった。
俺は無一文から木の枝で外のスライム狩りを継続し、魔石を集めるとやっとのことでナイフを購入した。
二日目、今度はナイフでダンジョンの一層、スライムゾーンで必死に戦った。
魔石はかなりの数になり、ショートソードを購入することができた。
ランクアップだ。
ショートソードで二層の攻略を進めた。
二層はコボルトゾーンとなっている。
それほど好戦的ではないので、一人でもなんとか戦闘になった。
しかしそれで頭打ちになった。
俺は三層にも挑戦してみたが、ゴブリンゾーンであり、思ったより苦戦したのだ。
「く、ここまでか」
俺は結局、二層で戦闘を継続することになった。
しかしコボルトも出るのは小さな魔石だけ。
スライムの魔石の二倍の値段はするものの、コボルトのほうが強いので狩効率は上がらない。
そんなこんなで一か月。
俺は貧乏暮らしだ。
宿屋は最底辺の安宿の個室。
最初は相部屋に泊まったのだが、すさんだ冒険者が大いびきをしていて、一睡もできなかった。
それ以来、反省して個室にしている。
しかしそうすると出費がかさむ。
飯を抜くわけにもいかないので、宿の安い定食とお昼用の弁当を買うと、もうカツカツだった。
一日の稼ぎの残りはほんのわずか。
貯金はしているものの、ポーションなどを買えばすぐに吹っ飛ぶ額でしかない。
すでに二回ほど低級ポーションのお世話になって貯金はリセットされた。
贅沢しなければこのまま生活は継続できる。
しかし、そんな悠長なこともなかなか言っていられない。
「そろそろなんとかしないとな」
俺は再び三層に挑んだ。
ゴブリンは俺にはなかなかの強敵だ。
冒険者ギルドでは若い子は村や町の顔馴染みと最初のパーティーを組むのが定石だ。
いきなりソロで冒険者になって、一切信用もないのにパーティーを組んでくれる優しいお人よしは皆無だった。
ソロでゴブリンはきつい。
冒険者ギルドでも二、三人以上を推奨している。
「くそっ、こいつ」
なんとかその場のゴブリンを切り捨てる。
「ふぅ」
周りのゴブリンはなんとか倒し終わった。
しかし、なんだか空気が変だ。
「なんだ……何か嫌な予感がする」
ドスン、ドスン、ドスンと足音がするのだ。
俺の目の前にはゴブリンキングが出現していた。
「くそ、キングが。こんな入り口近くにか」
本来、各階層のボスはその階の後半付近を
そして不幸なことに、今他のパーティーはキング狩りをたまたま誰もしていない。
俺はソロだ。
「ピンチか」
グオオオオオ。
俺を認識したゴブリンキングが吠える。
「くそっ」
絶体絶命だ。
しかし、よくよく見ると、ゴブリンキングは大きく切られた痕があり、手負いだった。
「手負いなら……これなら、いけるか?」
千載一遇のチャンスだ。
俺は一か八か、攻撃に出た。
ゴブリンキングに一発フェイントを入れて、大きくショートソードを突き入れた。
その剣はキングに不意打ちだったのか、胸に深く突き刺さり、ヤツを倒した。
ゴブリンキングが倒れていく。
「勝った……」
俺はゴブリンキングから魔石を剥ぎ取る。
それは今まで見た魔石の中で一番大きく、そして紫色に輝いていた。
戻って冒険者ギルドに行く。
「はい、次、カイさん」
「おぉ、魔石だ。ゴブリンそれから、ゴブリンキング」
「キングをおひとりで? ソロでしたよね」
「まぁそうだが」
「すごかったんですね、カイさん。強くなられて、うれしいです」
受付嬢もよろこんでくれた。
「はい、では銀貨とそれからキングは金貨一枚ですね」
「金貨一枚」
「はい」
俺は生まれて初めて金貨一枚を見た。
黄金に輝くメダル。
これが金貨。
この世界ではかなりの値段になる。
それこそ月収一か月分くらいにはなるだろう。
「金貨か。そうだな……一番安い、奴隷なら買えるか」
そう、それはほんの少しの思い付きだった。
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こんにちは。こんばんは。
【ドラゴンノベルス小説コンテスト中編部門】参加作品です。
約2万文字、4月15日~24日の10話連載完結となります。
他にも何作か参加していますので、もしご興味あれば覗いてみてください。
よろしくお願いします。
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