Rail of wing

不破 侑

序章

「あたしさぁ、本気で好きになった人がいてさ・・・。こういうのって柄じゃ無いと自分でも思うけど、抑えられないんだよね。」



「好きになるってそういうもんじゃねえのか?恋愛経験ないから知らんけど。」



まるで学生の様な会話を同僚と話す。こういう色恋沙汰に無縁だったので、取り留めのない内容になりがちではあったがせっかく話してくれたのだから親身になるのが人ってもんだろう。



「まぁ、せっかく本気になれたのなら相手に好意を伝えないと・・・。じゃないのか?結果はどうあれ伝えなきゃ始まらんからな。」



「まぁ、そうなんだけど自信ない。それで今までの関係が崩れるのが怖いってのもね・・・。」



確かに告白の最大の難関はそこだと思う、恋愛経験はないものの容易に想像はつく。


振られるのは百歩譲って致し方ないとしても、これまでの関係が壊れギクシャクし始め元に戻らなくなる。 これまでの関係が良好なら尚更だ。



そう考えると身近な場所で作り上げた関係での色恋というのは面倒だ。


もっともそういう身近であるからこそ好意が芽生えやすいのも頷けるのだが。



「悩ましい所ではあるが、抑えられない程本気なんだろう? であれば自分の中で天秤に掛けるしかないかな?」



「天秤?」



「そう。ありきたりだが壊れる事を恐れ、言わないまま関係を続けて自分を偽り続ける後悔。 もう一方は振られて関係が戻らなくなる後悔。 どっちの後悔が辛いか?結局そこに尽きる様に思えるが。」



所謂やっての後悔、やらずの後悔っていうオーソドックスな奴。


ややこしくなりそうな話は単純化して問題点を絞った方がいいのだ。


 


あぁ、と思う様な表情を見せたかと思ったら困り顔しながらこっちに食って掛かる。



「どっちもいばらの道なんだが?つか、この二択だけかよwww。」



「確かにwww。もちろん付き合える可能性だって充分あるわけだからな。」



「ですよねぇ~。 ワンチャンあります!ってないと厳しすぎるつーの。 参考程度なんだけど、自分ならどっちにする?」



恋愛経験ゼロの俺に振るか? と思ってしまうものの、彼女も不安なのだろう。


そこは同情するので自分の様に考えてみる。



「まぁ、告白して後悔かな? 色々考えたが言わずに意中の相手が誰かと付き合い始めたなんてなったらキツくないか? 恋人とホテルから出る所なんて遭遇したら間違いなく寝込むわ・・・」



「ほうほう、なるほどなるほど・・・。」



そう言ってジッとこちらの顔を伺い、どれだけの間があったろうか?


照れくささも手伝いこちらから静寂を打ち破ってみた。



「あの、なんなん? この微妙な間は・・・? 答えたこちらが恥ずかしいのだが?」



口に出したこっちが赤面していると、意外にも安堵した表情を浮かべていた。



「あっいや、ごめんね。 あたしが思っていた以上にピュアだなって。」



意外な言葉を耳にしてこちらが驚いていると続けて話し始めた。



「何となくそう思っていたけど、実際はそれ以上なんだって。 安心したよ、聞いてホッとしちゃったよ。」



耳にした瞬間、ドキッとした。


なんでそうなったのか、聞かれてもわからないのだが不思議と気持ちが揺さぶられたのだけは確かなのだ。


あれかな? ピュアと言われて気恥ずかしくなったか? それとも何かこれまでと違うものが芽生えたか?


どちらにせよ気持ちが落ち着かないのだからどういう表情すれば良いかもわからなくなる。



「何かスッとした。やっぱり聞いてもらって良かったよ、背中押された感があった。ありがとう。」



「そうなん? まぁお役に立てたのなら何よりですわ。」



俺は内心の焦りを悟られない様に飄々と返し、それじゃと発して立ち去るつもりでいた瞬間だった。



「好きなの・・・


 あなたが・・・


 あ、あたしが好きなのは、


あなたなの・・・。」

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