鏡・美・生首

橋広 高

本文

 磨き上げられた美しさは私の醜さと努力のしてなさをむごたらしく映す鏡となる。

 私は双子の妹だった。高校受験に失敗した姉と別々の高校に通うことになるまで、周囲から間違われるほど瓜二つだった。

 進学校で勉強漬けだった私と対照的に、姉は変わっていった。化粧を知った。ピアスを知った。ネイルを知った。男を知った。一年もしないうちに金髪になった姉は私と似ても似つかなくなって、私は逃げるようにさらに勉強に齧り付くようになった。夜遊びが過ぎて母と激しく口論する姉を見て、なぜか私の方がなにか間違っているような気がした。

 三年になってしばらく経って、姉は高校を辞め家出して夜の世界に消えていった。私は安堵した。これで姉の顔を見ずに済む。刹那的な生涯を心から楽しんでいるような姉の顔を。あの表情が無ければ、私は手応えを持って彼女を軽蔑することができた。

 大学を卒業し安定した企業に就職し、母がいつ結婚するのか孫の顔を見せるのかとしつこく聞くようになってきた頃に姉は帰ってきた。男を連れた姉のキャリーケースには「お腹の中に赤ちゃんがいます」のマークがぶら下がっていた。


 それでも姉は綺麗だった。私とは比べ物にならないくらいに。


 だから結婚式の当日に、私は姉を式場の外に呼び出した。他の人に聞かれたくない話をしたいと言ったので、案の定一人で来たから予定通り腹を刺して殺した。死ぬ前に姉はごめんねと言った。恨まれても仕方がないよねとも言った。


 嘘つき。お姉ちゃんは何も分かってないよ。だから恨んでるのに。


 私は遺体から生首だけを持ち帰った。顔だけになっても、姉は美しかった。だから私は姉と同じメイクをしてみた。

 鏡に映った私は全然醜くて、思わず鏡を殴ってしまった。ごとりと重たい音が鳴って、私は静かに泣いた。

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鏡・美・生首 橋広 高 @hassybird

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