第10話 復讐

「咲希ちゃん」

「亮太くん……ちゅっ、ちゅっ、んっんっ……」


 今日も寝室の中で亮太くんと愛を確かめ合っていた。

 アタシたち以外は誰もいない。

 旦那も仕事で19時まで帰ってこない。

 イチャイチャし放題だ。


「ちゅっ、ちゅっ……んっんっ」


 唇から亮太くんの熱を感じる。

 もっと彼の熱を感じたくて、気づいたら舌を絡め合っていた。

 

 アタシ達は恋人のようにキスをしながら、服を脱がせ合う。

 アタシも亮太くんも全裸になった。

 

 亮太くんがアタシを押し倒し、色んなところを舐めてくれる。

 彼に触れられる度に、心がポカポカする。

 本当に幸せだ。


 亮太くん、好き。

 大好き。

 もっとアタシに触れて……。

 もっとアタシのこと可愛がって。


 もう君のことしか考えられないよ。


「咲希ちゃん、いいかな?」

「うん、いいよ……おいで」


 遂にアタシたちは繋がる――はずだった。

 亮太くんと一つになる前に、バンっと勢いよく寝室のドアが開かれた。

 

 え? なに……? 

 何が起こってるの……?

 

 寝室のドアに目を向けると、スーツ姿の旦那が視界に入った。

 全裸で抱き合っているアタシ達を、旦那が睨んでくる。

 こ、怖い……。


 どうしよう……。

 浮気してること旦那にバレちゃった。

 けど、なんでここにいるの?

 仕事に行ったはずじゃ……。


 ふと旦那の右手に目を向けると、金属バッドを握っていた。

 なんであんなの持ってるの……?


 静寂に包まれた部屋の中。

 最初に口を開いたのは亮太くんだった。


「誰だよっ!! お前!! 俺と咲希ちゃんの邪魔すんなよっ!! もうちょっとで咲希ちゃんを――んっ!? あぁァァァァァァっ!?」


 突如、亮太くんが叫び声を上げる。

 旦那が亮太くんの身体を金属バッドで殴ったのだ。


 何が起こったのか理解できなかった。

 あまりの情報量に脳の処理が追いつかない。


「何しやがる!? このカス野郎がっ!! 絶対許さねぇぞっ!! 殺してやる!!」

「俺を殺すだと? やれるものならやってみろ」

「あぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 再び旦那は亮太くんのお腹を金属バッドで殴る。

 何度も何度も亮太くんのお腹を金属バッドで痛みつける。


 何してんのっ……?

 このままじゃ亮太くん死んじゃうよっ。

 

「おい、早く抵抗しろよ。このままじゃ俺に殺されるぞ? それでもいいのか?」

「あぁぁぁぁぁぁぁっ!!! や、やめてくれっ!! 頼むから止めてくれっ!!!」


 激しい痛みに耐えきれなくなった亮太くんは、バカみたいに涙を流す。

 どんどん彼の綺麗な顔がブサイクになっていく。


 亮太くんは何度も「頼むからやめてくれっ!」と懇願した。

 旦那は彼の言葉を無視して、攻撃を続ける。


 こ、怖いっ。怖すぎる……。


 旦那が恐ろしくて、ガタガタと歯が震える。

 全身の震えが止まらない。


「ねぇお願いっ!! お願いだからやめてっ!! このままじゃ亮太くん死んじゃうよ!!」

「うん、そうだよ。今日お前らは死ぬんだ」


 旦那の言葉に思わず「え……?」と間抜けな声を漏らす。

 今日アタシたちは死ぬ?

 この人は何言ってんの?


 まさか本当にアタシたちを殺す気……?


「アタシたちを殺す気なの……?」

「うん、殺すよ。まずはこの男からだ。次は咲希だよ」

「……」


 本気だ、この男は本気でアタシたちを殺す気なんだ。

 嫌だっ、死にたくないっ。

 こんなところで死にたくないよ。

 まだたくさんしたいことあるのに……。


「なんで……なんでこんな酷いことするの!?」

「なんで? お前が浮気したからに決まってるだろ!! そんなこともわかんねぇのか!!」

「浮気しただけで人を殺すとか頭おかしいんじゃないの!! あなたは狂ってる!!」

「……」


 アタシの言葉を無視して、旦那は亮太くんをバッドで殴り続ける。

 もうこの人に言葉は通じないんだ……。


 頭、首、胸、お腹。

 色んな箇所をバッドで殴り、亮太くんの呼吸が止まった。

 身体中が血だらけで、目の焦点が合ってなかった。

 たぶん亮太くんは死んだ。


「う、嘘でしょ……」


 亮太くんが殺された。

 誰に……?

 旦那に……。


 なにこれ?

 本当に現実?

 

「次はお前だ、咲希」

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