獣の夜

前夜「復讐の炎」

「今宵はスーパームーンが見られるそうです!」


TVで女性ニュースキャスターが嬉しそうに伝えていた。それを見た母さんが嬉しそうに父さんに言った。


「あら、お父さん。今日は月が大きく見えるんですって!」


「・・・そうか」


父さんは興味無さそうにそう言うと再び新聞に視線を落とした。母さんは今日はおやつに団子でも作ろうかしらと上機嫌だった。僕も今日は餅が食べられるんだと上機嫌になり、家の中を走り回っていた。だが、気分は一瞬にして地に落ちた。部屋を走り回っていた僕を注意しようと歩いて来ていたその時、急に天井が崩れ落ち、両親は僕の目の前で下敷きになった。僕に向かって伸びた腕が白くなっていき、代わりに赤く染まっていく。


「母・・・さん?」


呼びかけるが声は無い。母さんを助けようと近付いた時、視界に光る何かが映った。それは月に照らされ白銀に輝く長い髪だった。それはTVで見たことがあるケモノと呼ばれる人狼に似ていた。ーーー殺される、そう脳裏によぎった。白銀のケモノは興奮しているようで荒く息を吐きながら僕に近付いて来ていた。そして、爪を振り上げ終わったと思ったその時、月が雲に隠れた。爪に怯え目を閉じた僕はいつまで経っても何も起きないことを不思議に思いゆっくり目を開けて見た。するとそこには何もいなかったかった。再び月が僕を照らす、地獄のような状況にいる僕を。それから僕は施設に預けられ、7年が経ち、18歳になった。俺は施設を出て、とある場所に向かっていた。ケモノを狩る者達、ハンターのいる「銀のトリカブト」に向かった。だが、いざ銀のトリカブトのカウンターでハンターになりたいと伝えると門前払いされた。どうしてか理由を聞くと若すぎるという理由だった。むしろ若い方が動きも覚えも早いし良いではないかと言ったが、若人を死なせない為に俺達大人が戦っていると言われた。それでも食い下がると、そんなになりたいのなら白銀の狩人のところへ行って認めてもらえ言われた。白銀の狩人とは誰かと聞くと神出鬼没の白銀の長髪の女だと言われた。どこで会えるのかと聞くと神出鬼没なのに分かるわけないだろと大笑いされた。つまりは俺をハンターにさせる気が無いのだ。怒りを堪えながら館を後にし、とりあえず武器を手に入れなければと護身用にと剣を購入し、夜を待った。夜になり、皆が寝静まった後、犬の遠吠えのが聞こえた。ーーー来た、奴らが来たのだ。人を食い殺す憎きケモノが。剣を鞘から抜き、鞘を投げ捨て外に出ると二体のケモノが外にいた。


「二体・・・いや、二体ならやれるはずだ。俺は強い、強いんだ!!!」


この7年無駄に過ごしていた訳では無い。筋トレをし、走り込み、体を鍛え抜いて磨いてきた。その成果を今発揮する時だ。力任せに剣をケモノに向かって振り下ろす。しかし、剣が皮膚すら斬ることが出来なかった。ケモノの毛が数本斬れて宙を舞う。


「くそ!何でだ!?なんで剣が通らない!?」


剣を投げ捨てケモノの攻撃を躱す。だが、いつまでも避けられる訳では無い。いくら鍛えているとはいえこちらはスタミナが少しづつ奪われている中、相手は無尽蔵とも思えるスタミナでこちらを追い詰めていく。


「くっ!このままだとーーー」


攻撃を避けるために後ろに下がった時、背後で爪を振り下ろさんとするケモノがいた。


「しまっーーー」


終わったと思ったその時、あの時もそう思ったなとふと気付いた。するとケモノは爪を振り下ろさず、地面に倒れ伏せた。ケモノの体は綺麗に横に切断されていた。そして、斬った者がそこに立っていた。その髪は月に照らされ白銀に光り輝いていた。


「何をボーッとしている、死にたいのか」


白銀の長髪の美女はそう言って俺を横に突き飛ばし、爪を振り下ろしていたケモノと鍔迫り合いをし、ケモノの腹を蹴り飛ばして距離を取った。そして、走り寄ってくるケモノを瞬きの間に一刀両断していた。


「つ、強い・・・」


彼女は剣に付いた血を払うと鞘にしまった。俺は即座に声をかけていた。


「俺を弟子にしてくれ!!」


彼女は振り返りもせずに答えた。


「何故?私に何のメリットがある?」


「俺は復讐したいんだ、あんたのような白銀の髪のケモノを殺すために!!」


その言葉を聞いて彼女は動きを止めた。


「それをどこで?」


「俺の家族はそいつに殺された。何故か俺だけを見逃してな。だから俺は誓ったんだ、必ず仇を取ると、必ずこの手で殺してやると!」


彼女はゆっくりとこちらを振り返り歩み寄って来て顔を近付けてきた。彼女の血のように赤い瞳が俺の目を覗き込む。


「・・・奴は強い、殺されるぞ」


「奴を殺せるのならこの命、くれてやる」


俺は彼女の目を強く見つめた。しばらく見つめあっていたが、彼女は溜息を吐きながら渋々といった感じで言った。


「ついてこい、お前に戦い方を教えてやる」


そうして彼女は俺に背を向け歩き始めた。俺はその背を追いかけた。

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