おまつり

アシダテメイカ

おまつり

 温かい思い出の香りだった。


 お風呂上がりの涼しげな君に、今日初めて袖をとおす浴衣。昼間の陽はこの小さな部屋の中と君を輝かせるように照らす。


 乾かしたばかりの長い髪を束ね、姿見で確かめる。後ろ座っていた僕は鏡に移る君と目が合う。何見てるのよ。と言わんばかりに僕をやさしくにらむ。その反らしたまなざしは、繊細で儚い。


 しばらく彼女の姿にぼーっとしていた僕は、我に返った。僕の支度はもうできていた。Tシャツに短パン。尻ポケットには財布とスマホ。荷物は少なくていい。


「新哉は細身なんだから、甚兵さんとか浴衣とか着てくればよかったのに。」

「僕がこの姿の方が亜佳音の浴衣姿が際立つだろ?」

「新哉にしてはいいこと言うじゃん。」

「なぁーんてな。僕がそんなこというと思う?」

「え? さっきの感動返してよ。」


 意地悪な笑顔で返す僕に、彼女は顔を赤らめてふくれている。その本気のふくれ顔がどこか懐かしくて、僕の頬も少し赤く染まった。


 僕らは、今年で高校生になったのに、まだ昔のように2人しておまつりに出かける。けどやはり、高校生になり、ますます大人っぽくなった亜佳音をみていると切なさもこみ上げてくる。


 ――あと何回、こんな風に一緒に過ごすことができるだろうか。――


 なれない下駄を履き、僕の前を歩く彼女の姿を追いかける。年に似合わず、手にしている巾着袋を振り回す亜佳音。


「太鼓のステージ終わっちゃうよ。」


 その振り向いた表情が僕の内側に響いた。


「おう。」


 気づかれまいと、視線を逃がし、軽い返事をする。


 今日なんだか調子が狂う。


 そして、それを確認して、彼女を追いかけて走った。


 

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おまつり アシダテメイカ @illumiprotter

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