第4話

「どうやって、僕と馬車と荷物を運ぶんだ?かなりの重さと大きさがあるけど……」


「えっと。こうするの」


 彼女は手をかざし、魔法で空中に何か穴をあけた。


 そして、穴を広げ、ワームホール的な異空間を開いたかと思うと、そこに馬車と荷物を全部吸引してしまった。


「なにこれ……すご……」


 あんぐりと口を開けて、驚くしかなかった。一瞬のうちに僕の馬車と、荷車に積んであった大量の箱と荷物が消えてしまったのである。


「私の時凍庫にいれておけば、大丈夫。で、後はエストだけど」


 と、彼女はこちらに振り向いて、楽しそうな笑顔で。


「私が羽で飛んで、エストを抱えるの。これですぐに移動できるよ」


「……必然的に、お姫様抱っこじゃないか」


 羽があるので、おんぶの恰好はできるかもしれないが、キツそうだ。そうなると、お姫様抱っこをするしかない。


 まさか、女の子に逆にお姫されるとは。想像したら、顔で加熱できそうなほど赤くなってしまった。


「せめて。せめて、君の名前を教えてくれないか。そういえば聞いてなかった」


 名前も知らない女の子に、お姫様抱っこされるなんて、どんな罰ゲームだ。せめてもの抵抗に、名前だけでも聞いておこう。


「フリーデルだよ。エストの家はどっちかな?」


「フリーデルね。家はここから南西……あっちだな」


 方角を知らないかもしれないので、指で場所を差す。


「じゃあ抱えるね、エストっ」


 少し声が跳ねている。楽しそうである、この娘。


「よろしく……はずかしいなこれ……」


 彼女は僕を抱え、空を飛び始めた。


 急速な上昇に、強い風を体に浴びせられていく。


「うおぉ……怖いな」


 頭をフリーデル側から、空側に向けると、森と山を上から眺める形になっていた。


 高所恐怖症ならすくみあがること間違いなしだが、僕はなんて贅沢な光景だと思った。


「これは……すごい光景だ。綺麗だな、森を上から見るのって」


「うん。綺麗でしょ。私しか見られない光景だから、エストにも見せたくって」


 確かに。そいつはありがたい。


「嬉しいよ。でも……」


 彼女は僕を信用しすぎではないだろうか。もし、こんな調子で人を信用していたら、すぐ悪い奴に騙されそうである。


「まだ知り合ってすぐだぞ?僕の評価ポイントなんて、君からすれば、君を怖がらなかったことだけだろう?なんでこんなに信用してくれるんだ?」


 抱えられながら、頭を上に向けて、彼女に聞いた。


 彼女は顔をこちらに向け、陰りのある笑顔を見せ。


「……私を怖がらない。それが、世界でたった一人。エストだけだからだよ」


 と、言った。

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