第2話

「君は……私が、怖くないの?」


 うつむき、右手で左の二の腕を守るようにしながら、彼女は言った。


「怖い?命の恩人に怖がることなんてないよ」


 何を言っているのかわからず、素直に返しながら、僕は思い返していた。


 あ……もしかして、彼女は例の張り紙の……?


「すまない。嫌でなければ、フードをとって顔を見せてもらえないか?」


 すると、彼女はフードをとり、手入れされていないぼさぼさの白い髪、彼女の真っ白な肌と、真っ赤な右目と碧眼の左目が見えた。


『真っ白な肌の悪魔を見たら、全力で逃げて、ほほえみ教会にご一報を』


 それが、街の壁のいたるところに張り紙がされているのを思い出した。


「指名手配されている子だったのか。でも、怖くなんてないよ。助けてもらったし」


 他人や張り紙がどう言おうと、彼女は間違いなく優しいし、何もなしに殺すような危ない存在ではない。先ほど起こったことを見て、僕はそう信じていた。


「……ありがとう、そう言ってくれたのは、エストが初めてだよ」


 一雫の涙を流しながら、笑顔でこちらを向いて、彼女はそう言った。


 めちゃくちゃ良い子そうじゃないか。なんでこんな子が指名手配なんかに……?


 まあ、今はそんなことはいい。お互いの時間を無駄にしないためにも、恩返しが最優先だ。


「それはそうと、お礼を返したい。何かないか?僕にできること」


「ん……それじゃあ」


 ごくり。少し緊張する。どんな要求をされるんだろうか。


 今の相場では、命を救われた恩は、全財産を要求されても文句を言えないのだ。


 少なくとも、行商のために積んだ馬車の荷物全部ぐらいは言われるかな。


 僕は少し表情を硬くしながら、慎重に彼女の言葉を待った。


 すると、彼女は戸惑いながらも、ゆっくりと薄い桜色の唇を開きながら言った。


「私を、寝かせてほしい……かな」


「えっ?」

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