第114話 再び「アイビー」と03
「アイビー」の依頼が無事に終わり、今度は私たちの番になる。
私はさっそく狼と戦った場所の浄化を兼ねて魔素の流れを読み、次に進むべき方向を見定めた。
そんな私の行動を「アイビー」の3人が半ば呆けたような顔で見ている。
私は、
「ああ、そう言えば、これは初めてだったわね」
と苦笑いで何をしていたのかを説明してあげた。
「聖女様ってすごいんですねぇ…」
と感心するミリアに、
「こんなことしてるのは私だけよ」
と説明すると、今度はマリが、
「だったらなおさら尊敬しちゃいます!」
とキラキラとした目で私を見つめてきた。
私はすっかり照れてしまって、
「た、たいしたことじゃないからね。ほんとに…」
と答え、そんなことより、と話題を変える。
「明日は私たちが戦うけど、なるべく普通に戦うつもりだから、しっかり見ててね」
と言ってみんなの方を向き、
「後輩に恥ずかしくないようにしっかりやりましょう」
と声を掛けた。
「あはは。了解!」
とアイカが笑いながら答え、ユナとベルも微笑みながらうなずく。
私はなんとも言えない気恥ずかしさを覚えつつも、
「さぁ、そうと決まったら進めるところまで進んでしまいましょう」
と声を掛け、さっさと自分の荷物をまとめ始めた。
みんなも手早く荷物をまとめ、さっそくその場を後にする。
先程魔素の流れを読んだ感じだとほんの少し離れたところに小さいが淀みがあるようだ。
(早い段階で気が付けて良かった)
私はそう思いながら、気を引き締めて森の中を進んでいった。
やがて野営の時間。
食事が終わり、簡単な反省会になる。
「アイビー」の動きは基本に忠実で、そつがない。
そのこと自体はいいことだ。
しかし、不意の事態に弱さがあるという弱点もある。
基本を崩さずにどう対応すべきかなどの点について、私たちなりに簡単な助言をした。
「アイビー」の3人は私たちの話を真剣に聞いてくれたし、例の騎士の剣術についても興味を持ったらしい。
リズはベルから、ミリアはユナから、マリはアイカから、稽古の方法などを詳しく聞き、時折実際に剣や盾を持って簡単な指導まで受けている。
私はその光景を微笑ましく見守り、これからこの3人が大きく成長してくれることを願った。
やがて休息の時間。
今度は私たちが交代で見張りをし、「アイビー」の3人にはゆっくりと休んでもらう。
私の見張りの時間。
時折パチパチと音を立てる薪をぼんやりと見つめながら、これからのことを考えた。
私たちはこの前の冒険でそれぞれにきっかけのようなものを掴んでいる。
あと一歩だ。
おそらくこれからの冒険でその完成形が見えてくることだろう。
そんな希望を持って温かいお茶をひと口飲んだ。
(これからね…)
そんな言葉が自然と胸に浮かぶ。
そう。
私たちはこれからだ。
これから、また冒険の日々が始まる事だろう。
そのことを楽しみに思う気持ちとほんの少しの不安。
その両方が私の胸の中でない交ぜになり、私に将来というものを意識させていた。
「交代よ」
というベルの声でふと我に返る。
「ありがとう。お願いね」
と言って見張りを代わると、私はさっさとブランケットに包まり、
(大丈夫。これからよ)
とまた、いつもの言葉を胸の中でつぶやいて、静かに体を休めた。
翌朝。
さっそく魔素の流れを読み、行動を開始する。
淀みの中心は昨日よりもはっきりと認識出来た。
やはり小さいが油断はできない。
そんなことを思い、気を引き締めて進んで行く。
そして、昼を少し過ぎた頃。
オオトカゲの魔物の痕跡を発見した。
慎重にその痕跡を追っていく。
すると、やや木々の間隔が薄くなった場所に多くのオオトカゲがたむろしている場所を発見した。
「行くよ」
とアイカが言って盾を構える。
「「「了解」」」
と答えて私たちはそれぞれ、オオトカゲの魔物の群れの中に突っ込んでいった。
まずはアイカが盾で1匹突き飛ばし、ついでとばかりに隣にいた個体をメイスで叩く。
私とベルは油断なくトドメを刺し、向かって来るオオトカゲの魔物を的確に仕留めていった。
時折ユナの弓が私たちの横をすり抜けていって遠くの個体を撃ち抜いている。
ワラワラと集まって来るオオトカゲの魔物を私たちは血を浴びないように注意しながら、次々に仕留めていった。
やがて問題無く戦闘が終わる。
「さすがです!」
と感動している「アイビー」の3人のキラキラした視線に苦笑いを返しつつ、かゆくならない剥ぎ取りの仕方を不器用な私を除く3人がそれぞれに教えて、私たちの依頼も終わった。
「じゃぁ、お洗濯始めるわね」
と冗談を言って、手早くその場を浄化する。
「うわぁ…」
「すごい…」
「本当に血がなくなった…」
と驚いている「アイビー」の3人に私は、
「こんなことができるのは私だけだから、みんなはちゃんと血を浴びないように気を付けて早めに薬を塗るのよ」
と念のために注意しておいた。
「「「はい!」」」
と元気に返事をしてくれる「アイビー」の3人になんとも言えない微笑ましさを感じる。
そんな3人に、
「さて。依頼も終わったことだし、さっさと移動しましょう。『おうちに帰るまでが冒険』よ」
と、またお姉さん風を吹かせたようなセリフを言うと、私たちは笑顔で帰路に就いた。
1度野営を挟み、次の日の夕方。
無事、ベット村に辿り着く。
村長に報告を済ませて、ついでに隣の集落から出ていた分の依頼も片付けたと言うと、そのことは村長が後で伝えておいてくれるというので、私たちはそのまま宿に入った。
その日は、ゆっくりと体を休める。
打ち上げはミリスフィアの町に戻ってからゆっくりとやることにした。
翌朝。
ベット村を出て、昼過ぎ。
ミリスフィアの町の門をくぐる。
「さて、ちょっと早いけど、お風呂に行っちゃいましょうか」
と言って宿に入ると、各自荷物を置いて、さっそく銭湯に向かった。
開いたばかりの銭湯で一番風呂をいただく。
いつものように、
「ふいー…」
と声を漏らしてお湯につかると、
「あはは。ジルお姉さんって意外とおじさんみたいなところがあるんですね」
とリズに笑われてしまった。
「あはは。ジルってばいつもそうなんだよ」
とアイカが笑い、みんなも笑った。
「…もう、いいでしょ。気持ちいいんだから…」
と少し照れながら抗議する。
その後もゆっくりとお風呂を堪能し、ぽつりぽつりと他のお客さんが入ってき始めたところで、私たちはお風呂を上がった。
「さて、何を食べましょうか?」
「うーん。気分的にはちょっとがっつりかな?」
「あら。アイカはいつもがっつりな気分じゃない」
と和やかな会話をしつつ町を歩く。
今回は人数が多い。
小さな店は無理だろうと思って、やや大きめの酒場を選んで入ってみた。
「あ。ここギョーザが名物っぽいよ」
と言うアイカに、ユナが、
「あら。ほんと。水ギョーザも揚げギョーザもあるわね」
と嬉しそうに返す。
そんな様子を見て私が、
「じゃぁ。今日はギョーザパーティーね」
と提案すると、ベルが、
「ふふっ。〆はチャーハンかしら?」
と楽しそうにそう言った。
「お。いいね!」
とアイカが反応したので、私は「アイビー」の3人に向かって、
「みんなもそれでいい?」
と聞いてみる。
すると、
「「「はい!」」」
という元気な返事が返ってきたので、今日の打ち上げはギョーザパーティーに決定した。
「乾杯!」
とみんなの声とジョッキが合わさって楽しい打ち上げが始まる。
次々と運ばれてくるギョーザでビールを飲みながら、楽しいおしゃべりに花が咲いた。
私たちよりもよほど王都の流行に詳しい「アイビー」の3人から、最近の流行を聞いたり、私たちはこれまでに食べた物の話をしたり。
そして、その日の楽しい宴はごろっとした大ぶりのチャーシューがたっぷりと入った美味しいチャーハンで満足のうちに〆られた。
なんとも言えない楽しい気持ちで寝る支度を整える。
(あー…、明日はみんなニンニク臭いんだろうなぁ)
と少し乙女らしいことを思いつつ、
(美味しいんだから多少の臭いはしょうがないよね)
と苦笑いで誰にともなく言い訳をした。
ほんのりと酔ってふんわりとする体をベッドに投げ出し、今回の冒険のことを思い出す。
「アイビー」の3人の真っすぐでひたむきなところが、私にいつの間にか忘れてしまっていた冒険の楽しさを改めて教えてくれた。
(ああいう姿ってなんだか気持ちいいな…。私も若い頃はああ見えてたのかな?いや、きっともっとツンケンしてたわよね。…ほんと、子供だったなぁ)
と自分の若かりし頃のことを思って恥ずかしさを覚える。
(うふふ。『アイビー』の3人はどんな冒険者になるのかしら。…きっといい冒険者になるわよね。だってあんなに真面目なんだもの)
と後輩のこれからのことを思うと自然と顔が綻んだ。
明るい将来が見える。
(そうよね。みんなこれからなんだわ…)
と思うと、ほんの少しだけあった将来への不安が楽しみな気持ちで見えなくなった。
ぽかぽかとした体と心を落ち着けるように、
「ふぅ…」
とひとつ息を吐く。
全身の力が程よく抜けて、ふんわりとしていた体がもっとふわふわとしてきた。
静かに微笑みながら目を閉じる。
(たくさんお土産買って帰るからね…)
とチト村で待っているユリカちゃんとアンナさんの顔を思い浮かべた。
秋のひんやりとした夜の空気が火照った頬を優しく撫でる。
私は、そんな心地よい空気を感じながら、自然と意識を手放した。
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