第113話 再び「アイビー」と02
翌朝。
市場で適当な朝食を食べ、さっそくギルドに向かう。
するとそこにはすでに「アイビー」の3人が来ていて、
「あ。おはようございます!」
と言うリズを先頭に気持ちのいい挨拶をしてくれた。
「おはよう。体調はどう?」
「はい。元気です!」
とまるで学問所の先生と子供のような会話をして、さっそく依頼が張り出された掲示板の前に向かう。
朝のことで、何人かの冒険者がしげしげとその掲示板を見ているのに混じって、私たちもさっそく依頼の状況を確認した。
「あら。これなんてどうかしら?」
とユナがさっそく狼討伐の依頼を見つける。
私も見てみると、確かに、良さそうな依頼だった。
依頼してきているのはここから半日ほどのベット村。
これなら今日中に行くことができる。
そう思いながら、見ていると、その横にその隣の集落からオオトカゲの依頼が出されているのが目に入った。
(もしかして、淀み?)
と直感的に思う。
依頼の内容自体はたいしたことが無いし、「アイビー」くらいの経験があれば問題ないだろう。
しかし、淀みがあるとすれば、例え小さくても片付けておきたい。
私はそう思って、
「ねぇ、こっちの依頼も近いみたいだからついでに片付けちゃわない?ちょっと気になるの」
とみんなに相談してみた。
「ん?オオトカゲ?いいけど、もしかして…?」
と聞いてくるアイカに、
「何となくの直感だからなんとも言えないけど、ちょっと気になるの。時間に余裕もあるし、みんながよければ手伝ってもらえないかな?」
とお願いする。
すると、
「うふふ。遠慮はなしよ」
とユナが言ってベルもうなずいてくれた。
「ありがとう」
と礼を言って、その依頼を取る。
そして、
「ああ、ついでだし、みんなも一緒に行きましょう」
と「アイビー」の3人に声を掛けた。
「いいんですか!?」
とリズが目を輝かせる。
「ええ。ちょっとしたコツなんかも教えられると思うし、私がいっしょならお薬いらずよ」
と冗談を返して、微笑んで見せた。
「あはは。楽しくなりそうだね!」
と笑うアイカに釣られてみんな笑顔になる。
私たちはその和やかな雰囲気のまま2枚の依頼票を持って受付に行くと、
「お願いね」
と受付のお兄さんにそれを渡してさっさと依頼の手続きを済ませた。
いったん宿に戻り準備を整えてミリスフィアの町の門の前に集合する。
「アイビー」の3人はどうやら最近馬を買ったようだ。
まだどこか慣れない3人に合わせて私たちはゆっくりとベット村へと延びる道を進んでいった。
夕方前。
目的のベット村に着く。
私たちはさっそく宿に入り、私はひとり村長宅に向かった。
いつものように聖女であると名乗って、浄化の魔導石を見せてもらう。
多少調整の甘い所はあったが、さほど大きな問題は無かった。
(とりあえず、一安心ね)
とほっと胸を撫で下ろし、村長に問題無かったと報告する。
宿に戻り食事をしながらみんなにもそのことを報告する。
「良かったね。大事になる前で」
と村が大変なことになる前に気が付けて良かったと言って喜んでくれるアイカの言葉を嬉しく思った。
(いい仲間に巡り会えたなぁ)
そんな感想をしみじみとかみしめる。
「うん。そうね」
とアイカに微笑み返す。
そんな会話にユナとベルも微笑んで、私たちは楽しく食事を終えた。
翌朝。
7人の大所帯でさっそく森に入る。
今回の目的は「アイビー」が集団戦の経験を積むことと私たちの地脈の浄化。
私たちはまず「アイビー」の目的を果たすべく、狼が目撃されている地点を目指して進んで行った。
今回はあくまでも「アイビー」の訓練。
私たちは何も言わず「アイビー」の3人の行動を見守る。
若干、危なっかしい場面もあったが、私が最初に会った時と比べればずいぶんしっかりしたという印象を持った。
「アイビー」の3人は時折地図を見ながらも迷いなく進んで行く。
どうやら、ここまで順調の経験を積んできたようだ。
そんな様子を嬉しく思いながら3人を眺めていると、やがて夕暮れ時になった。
「そろそろ野営にしてもいいですか?」
というリズの提案にうなずいて、さっそく野営の準備に取り掛かる。
私の勘ではそろそろ狼の魔物の縄張りが近い。
(きっと明日は勝負ね)
と思いながら、最近料理担当になる事が多いというミリアを手伝って、調理に取り掛かった。
やや不揃いに切られた野菜がごろっと入ったスープをみんなで食べる。
食事は緊張の中でも楽しく進み、その日の見張りは「アイビー」の3人に任せて私たちはゆっくりと体を休めた。
翌朝。
さっそく行動を開始した「アイビー」を昨日と同じくみんなで見守りつつ森の中を進む。
進むにつれて空気が重たくなっていった。
しばらくして「アイビー」もそのことに気が付いたらしく、表情が変わる。
私に視線を向けてくる「アイビー」の3人に、しっかりとうなずいて注意を促がした。
「アイビー」の3人もしっかりとうなずき返して、慎重に歩を進めていく。
やがて、私たちの周りを取り囲むように気配が動き始めた。
(うーん…。まだちょっと気配を読むのが遅いかな?まぁ、でも危険ってほどじゃないし、慎重に行動できてるみたいだから、心配するほどではないけど…)
と、お姉さんぶったことを思いながら「アイビー」の3人を見つめる。
すると、3人も気が付いたようで、リズが、
「少しでも戦いやすい場所に移動しよう!」
とマリとミリアに声を掛けた。
そこからは急いで行動する。
(ここからは慎重にね)
と思いながらも私たちはいざという時、「アイビー」の3人を守れる位置につき、その後をついていった。
やがて、さらに気配が大きく動き出す。
(近い…)
私がそう思った時、「アイビー」の3人が足を止めた。
「ここで行きます!」
そう言って、マリが盾を構え、弓のミリアをかばう位置につく。
どうやらリズは単独で前衛を勤めるようだ。
私たちもアイカを中心に最低限自衛できる態勢をとった。
「アイビー」の3人が選んだ場所は大木を中心にやや開けた場所。
大木を背にすれば戦いやすい。
(うん。慎重でいい判断よ)
と、またお姉さん風を吹かせる。
「来ます!」
とマリが叫んでみんなが油断なく構えた。
藪の中から次々と狼が現れる。
最初は私たちの周りを取り囲んでうろうろしていたが、やがてしびれを切らしたのだろうか、1匹が飛び込んできたのをきっかけに次々に飛び掛かってきた。
適当にいなしながら「アイビー」の戦いぶりを見る。
やはりやや手こずっているようだ。
しかし、無茶をしているという印象はない。
マリは的確に狼の魔物の突進を跳ね返し、ミリアの牽制もそつがない。
前線で剣を振るリズを含めて、基本に忠実。
まさにそんな戦い方だった。
(お。いいわね)
と、後輩の成長を微笑ましく見る。
(でも、ちょっと変化球に弱そうかな?)
と思っていると、おそらく群れのリーダーであろう個体が、少し変則的な動きで、間合いをずらすようにリズに飛び掛かった。
「あっ…」
と声がしてリズが尻餅をつく。
するとそこへすかさずマリが突っ込んで盾でリズをかばった。
ミリアの矢がリーダーに向けて放たれる。
「ギャンッ!」
とリーダーが痛そうな声を上げた。
(ちょっと浅いか。でも…)
と思っていると、リズがすかさず飛び出し斬りつける。
マリももう一度ミリアの護衛に付いて、素早く陣形を整えた。
(よかった…)
とほっと一安心しながら、私たちも数匹倒す。
そしてほどなくしてその戦いは終わった。
「お疲れ」
と「アイビー」の3人に声を掛ける。
「はい。ありがとうございます!」
と答えるリズだったが、やはり少し息が上がっているようだ。
先程の急な事態に少し動揺してしまったのだろう。
私も少し前まで狼や虎の魔物に苦戦していたことを思い出し、
「大丈夫。3人ともちゃんとできてたよ」
とまずは安心させるような言葉を投げかけた。
すると、「アイビー」の3人は、本当に嬉しそうな顔で、
「「「ありがとうございます」」」
とこちらに頭を下げてくる。
私はなんとなく、照れてしまって、
「さぁ、とりあえず剥ぎ取りしよっか」
とわざとらしく明るい声でそう言って、
「「「はい!」」」
と元気に答えてくれる「アイビー」の3人やみんなと一緒に狼の魔物から魔石と素材を剥ぎ取り始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます