第105話 再び「烈火」と02

翌朝。

市場で適当に朝食を済ませてギルドに向かう。

念のため、猿の魔物意外の状況はどうなっているだろうかと思って掲示板を見てみたが、やはり魔物の依頼が通常よりも多いようだ。

(けっこう深刻かもしれないわね…)

と密かに気合を入れなおす。

すると、そこへ、

「おう。ジルじゃねぇか」

と、聞いたことのあるダミ声で声を掛けられた。

その声に私は振り返り、

「ひさしぶりね」

と、ややジト目気味の視線を向けながらガンツのおっさんに挨拶を返す。

「うふふ。お久しぶりね。ジル」

というサーシャさんには、

「お久しぶり。サーシャさん」

と声を掛けにこやかに握手を求める。

「ははは。相変わらず元気そうだな」

というアインさんとも笑顔で握手を交わした。


「ああ。紹介するわね。今一緒に行動している仲間よ」

と言ってまずは「烈火」の3人にアイカとユナ、ベルを紹介する。

「アイカだよ!」

「ユナです」

「ベルよ」

とアイカは元気に、ユナはおっとりと、ベルはやや緊張気味に自己紹介をして、今度は、

「俺がアイン。こいつがガンツでこっちがサーシャだ。得物は知ってるかもしれんが、俺が剣でガンツが盾、サーシャが弓と魔法を使う」

とアインさんが代表して「烈火」の面子を紹介してくれた。


「さて、自己紹介も済んだことだし、さっそく打ち合わせをしたいんだけど、どうする?」

という私に、

「ああ、俺たちはこれから宿を探すんだ、受付で適当に聞いてくるからちょっと待っててくれ」

という、アインさんたちが手続きを済ませてくるのを待つ。

「…只者じゃ無さそうね」

とベルがつぶやいた。

「うん…」

「ええ…」

とアイカとユナもそれに同意する。

「いい勉強になりそうね」

と私が言うと、

「ええ。しっかり勉強させてもらうわ」

「そうだね!」

「ええ。盗めるものは盗んでしまいましょう」

とみんな気を取り戻したように笑顔でそう言った。


やがて「烈火」の3人が戻ってくると、

「俺たちはこの先の『ふくろう亭』って所に宿を取る。食堂付きらしいから、そこで場所を借りて打ち合わせにしよう」

とアインさんが言うのでその言葉にうなずく。

そして、私たちはさっそくみんなしてその宿に向かった。


宿に着き、「烈火」の3人が荷物を置いてくるとさっそく食堂の一角を借りて打ち合わせを始める。

まずは、

「今回、俺たちの目的は猿の魔物だ。教会のことは知らんが、どうなんだ?」

とアインさんが口火を切る。

それに対して私は、

「おそらく同じよ。私が浄化する場所にはほぼ毎回と言っていいほど。魔物が発生してるの。だから、今回私たちが浄化に向かう先には猿の魔物がいる。そういうことでしょうね」

と答えた。

「なるほどそういうことか」

とアインさんが納得し、

「で、そっちの戦力は?」

と聞いてきた。

私とみんなは目を合わせてうなずき合い、

「私が盾とメイス。防御魔法はそれなり。弱ったオークならなんとかなる程度かな」

とアイカが答え、次にユナが、

「私はほぼ弓ね。魔法は大規模な物が得意。ワイバーンなら落としたことがあるわ」

と答える。

私はうなずいてベルを促がすと、ベルは、

「私は剣。…だいたいジルと同じくらいよ」

と短く自分のことを紹介した。

私は、

(いやいや…)

と思いつつ、

「ベルの実力は私よりも上。そこは信じてもらっていいわ。あと、前にあった時よりちょっとだけ腕が上がっていると思う。あと、聖魔法の使い方も少し進化してるから、その辺は実際に森に入ってから見てもらうわ」

とここ最近、私にも変化があったことを簡単に告げる。

すると、アインさんはうなずいて、

「じゃぁ、問題無いな。よし、とりあえず魔物についての作戦の指揮はこちらが取る。浄化についてはわからんから都度要望を言ってくれ。最大限努力しよう」

と言ってくれた。

「わかったわ。ありがとう」

と軽く礼を言う。

「ああ。じゃぁ次に目的地だが…」

と言ってアインさんが地図を広げた。


「魔物の発生が確認されているのが、森に入って3日くらいの所だ。初心者が無茶をして命からがら逃げてきたらしい。その手前にワッチ村という村があるからそこで一泊して森に入る感じになる。ああ、ワッチ村はここから1日弱ってところだ」

と地図を指し示しながら説明してくれるアインさんの話をうなずきながら聞く。

私はその説明の内容を理解すると、

「じゃぁ、出発は明日でいいの?」

と聞き、アインさんが、

「ああ」

と言って、簡単な打ち合わせは終わった。


打ち合わせを終え、私たちも宿に戻る。

午前中はそれぞれ装備の点検に充て、午後は必要な物資の買い出しに向かった。

やがて夕方前。

準備を終えて銭湯に向かい、ゆっくりと体を癒す。

「いよいよね」

とつぶやくベルに、

「ええ。楽しみね」

とつぶやき返した。


風呂から上がり、定食屋で簡単に食事を済ませて再び宿に戻る。

明日に備えてその日は各自早めに体を休めた。


翌朝。

ギルドの前で「烈火」の3人と落ち合う。

「さて、行くか」

というアインさんの簡単な合図で私たちはワッチ村へと続く田舎道を進んでいった。


旅は何となくぎこちない感じで進む。

するとそこで、ガンツのおっさんが、

「おいおい。葬式の列じゃねぇんだぜ」

と不謹慎なことを言った。

「あんたねぇ…」

と言ってサーシャさんがため息を吐く。

そして、サーシャさんは、私たちを振り返って、

「ごめんなさいね。でも、こいつはこいつなりに場を和ませようと思ったのよ」

とガンツのおっさんの無神経な発言について釈明した。

「なっ…」

とガンツのおっさんが反論しようとするが、

「なぁに?」

とサーシャさんが目で止める。

するとガンツのおっさんは、

「ちっ」

と言って、そっぽを向いてしまった。

「ははは…。すまんな。ガンツはバカでガサツだがそんなに悪いヤツじゃない。勘弁してやってくれ」

とアインさんが苦笑いで声を掛けてくる。

私も、

「ええ。なんとなく知ってるわ」

と苦笑いで返した。

私の後でみんながクスクスと笑う。

どうやら、ガンツのおっさんの当初の目論見はなんとなく達成されたようだ。

そんなことを感じ、やや和んだ空気の中、私たちはサーシャさんも交えて楽しく話をし、目的のワッチ村を目指して楽しく進んでいった。


やがて、夕方前。

ワッチ村に入り、私は、

「ちょっと村長に挨拶してくるわ。ついでに浄化の魔導石も見てくるから先に宿に入っていて」

と告げてさっそく村長宅を訪ねる。

いつものように、冒険のついでに様子を見に来たと軽く嘘をついて、祠へと案内してもらった。


さっそく浄化の魔導石に魔力を通す。

(なにこれ…)

唖然としてしまう。

(いくらなんでもこれは…)

調整はひどいものだった。

流れ込んでくる魔素をまるで制御できていない。

先程道すがら村長が言っていた言葉を思い出す。

「この村は元々土があんまり良くありませんからなぁ…」

という村長の目にはどこか諦めのようなものがあった。

(なんてことしてくれてんのよ…)

と怒りが込み上げてくる。

しかし、

(落ち着け…)

となんとか自分を落ち着けて冷静に、丁寧に私が出来ることを精一杯やっていった。


やや時間がかかったものの、

「ちょっとした調整をしておきましたから、次の収穫からは多少マシになりますよ」

と言って、大袈裟に感謝してくれる村長をなんとか宥めて宿に戻る。

宿に戻ってすぐ、食堂に向かうと、みんなもう食堂に集まっていて、

「どうだった?」

とユナが聞いてきた。

私はみんなに真剣な目を向ける。

そして、ひと言、

「ひどいものだったわ」

と言うとみんなの目つきが変わった。


「じゃぁ、気合を入れなきゃいけないわね」

と言って、サーシャさんがみんなに目配せをする。

そのいつも通りおっとりとして見える視線の奥には、はっきりと強い決意が表われているように感じた。

みんなもその視線に力強くうなずく。

私はそんなみんなに頼もしさを感じつつ、

「ありがとう」

と言って軽く頭を下げた。

「…もう、ジルったら」

とユナが苦笑いを浮かべる。

私が「?」という顔を浮かべると、アイカが、

「そこは『よろしく』とか『頼んだ』とかだよ」

と言って笑った。

ベルも、

「まぁ、まじめなジルらしいわね」

と言って笑うので、私は、

「…もう…」

と言ったあと、わざとらしく咳払いをして、

「よろしくね」

と少し照れながらそう言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る