第88話 エリシア共和国へ01
王都から帰って来た翌日。
今日は用事があるからとジミーに断りを入れてから、さっそく村長を訪ねる。
新しく仲間がやって来ることを伝えると、さっそく1軒の空き家を紹介してくれた。
一応、どんなところか見に行く。
その空き家は村の中心からほど近く、商店街にも近いなかなか便利そうな場所にあった。
なんでも、少し前まで家族連れが住んでいたそうだが、父親の仕事の都合で領都へ引っ越してしまったのだそうだ。
家は元々村が管理している賃貸物件だという事なので、さっそく押さえて細々とした修繕なんかの手配を頼む。
(意外と簡単に終わったわね…)
と、喜びながらもなんだかあっけなさも感じアンナさんの家に戻った。
私はさっそく自分の部屋に入ると、みんなへの手紙を書き始める。
(みんな驚くかな?なにせこの早さだもんね)
とひとりほくそ笑みながら、楽しく手紙をしたためた。
手紙を書き終え、ダイニングに向かう。
すると、台所の方から良い匂いが漂ってきた。
どうやら私が手紙を書いている間にアンナさんが戻って来て料理を作り始めてくれていたらしい。
私はその匂いに釣られ、ついつい台所をのぞき込む。
「お昼はなぁに?」
と声を掛けると、アンナさんが笑いながら、
「今日は炊き込みご飯と鶏の煮物よ」
と答えてくれた。
私はニコニコしながら昼食が出来るのを待つ。
すると、そこへ、
「ただいま!」
という元気な声が聞こえて、ユリカちゃんが学問所から帰ってきた。
「おかえり!ご飯もうすぐできるって」
と言って出迎える。
「わーい。今日のお昼なぁに?」
とユリカちゃんがさっきの私と全く同じ質問をしてきた。
私は笑いながら、
「今日は炊き込みご飯と鶏の煮物だって」
と答える。
「やった。炊き込みご飯だ!」
と言って喜ぶユリカちゃんとダイニングで仲良く座って待っていると、そこへアンナさんが料理を運んできてくれた。
私もユリカちゃんも配膳を手伝う。
そして、みんなの分がそろったところで、
「「「いただきます」」」
と声をそろえた。
「美味しいね」
とユリカちゃんが笑う。
私も、
「うん。美味しいね」
と答えて、
「アンナさん、いつもありがとう。すっごく美味しいよ」
と声を掛けた。
突然の感謝の言葉にアンナさんは少し照れた様子で、
「まぁ…。うふふ。お粗末様です」
と言って笑う。
するとユリカちゃんも、
「アンナおばちゃん、いつもありがとう」
と満面の笑みでアンナさんに感謝の気持ちを伝えた。
「まぁ…」
とアンナさんは驚いたような表情を浮かべたが、すぐにニッコリと微笑んで、
「こちらこそ、いつも美味しく食べてくれてありがとう」
とユリカちゃんに返す。
そのやり取りでみんなが笑顔になった。
いつもの食卓にいつもの笑顔がこぼれる。
私たち3人はその日も温かい気持ちで美味しく食事をいただいた。
それから10日ほど。
今日も平和な一日を過ごし夕飯までは後1、2時間というところだろうか。
私はリビングでのんびりとお茶を飲みながら、ココを相手にお人形遊びをするユリカちゃんを微笑ましく眺めている。
(チト村でのこういう生活もすっかり板についてきたわね…)
そんなことを思ってほのぼのとしていると、そこへいつものように手紙が届いた。
不機嫌になるユリカちゃんの頭を苦笑いで撫でてあげてから手紙を開封する。
中身はやはり指示書だったが、今回は2通の手紙が入っていた。
(なんだろう?)
と思い差出人の名を見る。
1通は見慣れた封筒ですぐに教会長さんからのものだとわかった。
もう1通の名前を見ると、「エリオット」と書いてある。
「え!?」
と思わず驚いてしまった。
その声にユリカちゃんが心配そうな顔を向けてくる。
私は、心配させてしまったことを申し訳なく思いつつ、
「ちょっと意外な人からの手紙だったから驚いちゃっただけよ。大きな声を出してごめんね」
と謝った。
「お仕事の手紙じゃなかったの?」
と喜びの表情を浮かべるユリカちゃんに、
「ううん。お仕事の手紙だったの。でもそのお手紙と一緒に知り合いからの手紙も入ってたからちょっと驚いちゃってね」
と残念な説明をする。
「そっかぁ…」
と寂しそうな顔をするユリカちゃんの頭をまた撫でてあげてから、まずは教会長さんの手紙を開封した。
中身は単純で、新しい武器はどうだったかということと、今回の行先はエリシア共和国で、エリオット殿下からの手紙もあるから、可能であれば対応して欲しいと書いてある。
私はその、気になるエリオット殿下からの手紙の方をさっそく開けてみた。
『親愛なるジュリエッタへ』
という書き出しと美しい時候の挨拶から始まるその手紙を読み進めていくと、
『最近、リリエラが熱を出してしまった。もう、熱は下がったが何日も寝込んでいたせいか体力が落ちてしまっている。ついては、エリシア共和国へ行くと聞いた。あの国の森に入るのであれば、ついでにカラコルの実の種とクルト草の根を採取してきてもらえないだろうか?知っての通りどちらも流通量が非常に少ない。王都でも手に入らないわけではないが、今後のことを考えると少し在庫を持っておきたいと考えている。冒険の邪魔をしては悪いからついでに見つけられたらで構わない。ぜひ協力してもらえないだろうか?』
という内容が切々とした文字で書かれていた。
そんな手紙を読んで私は、すぐさまどちらも見つけようと決意する。
確かに、どちらも生息地が限られ、希少な薬草だが、採取自体は難しいものじゃない。
しかしカラコルの実もクルト草も良く似た植物があって間違いやすく専門知識が無いと見つけにくい。
だからなかなか市場に出回らないが、生息環境も理解していて、実物も見たことがある私ならおそらく問題無いだろう。
そんなことを考え、私は今この時も苦しい思いをしているだろう友達のことを思った。
エリシア共和国はここチト村のある辺境周辺地域の北にある山と緑の国だ。
果物の栽培や牧畜が盛んで風光明媚な土地柄でもある。
国境までの距離はラフィーナ王国よりもやや近いが、今回は結構奥の方まで行くことになるだろうから、片道10数日はかかるだろう。
私はそんなことをざっくりと頭の中で考えながら、私の横で寂しそうな顔をしているユリカちゃんに、
「あのね。今回のお仕事はね。私のお友達のために薬草を採りに行くお仕事なんだよ。だからちょっと遅くなるかもしれないけど、ごめんね」
と言って今回の仕事の内容をざっくりと説明した。
「お友達が病気なの?」
と、さらに悲しそうな顔になるユリカちゃんに、
「うん…。でもね、すっごく優秀なお医者さんも付いてるし、私も頑張って薬草を採って来るから大丈夫よ」
と安心するように状況を伝える。
すると、ユリカちゃんは少しほっとした様子で、
「そっか。早く良くなるといいね」
と言って微笑んでくれた。
(優しい子…)
と思ってユリカちゃんに、
「うん。お仕事頑張ってくるね」
と笑顔で伝える。
「うん。頑張ってね。ジルお姉ちゃん」
とユリカちゃんも笑顔で答えてくれた。
私はその笑顔に力をもらい、
(絶対に採って来てみせる)
と改めて決意した。
次の日。
私はさっそくいつもの冒険の道具に採集用の道具を加えた荷物を背負ってエリーに跨る。
「いってらっしゃい。頑張ってね!」
と可愛らしく応援してくれるユリカちゃんに、
「うん。頑張ってお仕事してくるね。いってきます」
と明るく返事をして、エリーに前進の合図を出した。
今回の待ち合わせはエリシア共和国の首都メイエン。
そこまで7日。
そこから目的の村とその周辺の森まではさらに5、6日はかかるだろう。
冒険の日数や帰りに王都で薬草を納品することを考えると、短くとも1か月半くらいはかかる冒険になる。
私はそんな旅の行程を思いながら、村の門まで来ると、いつものように、
「頼んだわよ」
とジミーに声を掛け、
「おう。任せとけ」
という、いつもの返事を聞いて村の門をくぐった。
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