3章 仲間
第66話 辺境へ01
秋祭りの後、
「ジルお姉ちゃん、お酒臭い…」
と言われてしまってから数日。
収穫という大仕事を終えたチト村にはのんびりとした空気が流れている。
その日も私がいつものように部屋で本を読んでいると、軽く扉を叩く音がして、
「…お手紙来たよ」
とユリカちゃんが寂しそうな声で私に手紙が届いたことを伝えに来てくれた。
そんなユリカちゃんの頭を軽く撫でてあげてから、その手紙を受け取りにいく。
当然その手紙は教会長さんからのものだった。
(どれどれ。お次はどこかしら?)
と思いながら手紙を開く。
すると、指示書に書かれていたのは西の辺境、私の実家クルツの町のすぐ北にあるベッツ村という所だった。
驚いて同封されていた手紙に目を通す。
すると、最後の方に、
『もう長い事ご実家に顔を出していないのではないですか?一度ちゃんと顔を見せてあげなさい』
という教会長さんからの私信がついていた。
私はその気遣いをなんともくすぐったいような気持ちで受け止める。
そして、
「また、長いの?」
と心配そうな顔で私に留守の期間を聞いてくるユリカちゃんに、
「今回は近くだったよ」
と笑顔で答えて、そっとその手紙を閉じた。
チト村からベッツ村まではおおよそ5日。
王都に行くのとさほど変わらない。
今回の待ち合わせ場所はベッツ村から半日ほど北に行ったユニスの町。
そして、ベッツ村から南に1日ほど下った場所が私の実家、クルツの町だ。
今回は出発までに数日の余裕がある。
王国東部に拠点を置いているベルがいったんクレインバッハ侯爵領付近に拠点を置いている、アイカとユナに合流して、そこからユニスの町に向かうことになっているそうだ。
一番近い場所にいる私はのんびり向かえばいい。
私はユニスの町への道のりを逆算しながら、
「今回はゆっくり行けばいいから、あと3日はゆっくりできるわよ」
と、ユリカちゃんに告げた。
途端に笑顔を取り戻したユリカちゃんを抱き上げて頬ずりしながらリビングへと向かう。
そして、ココに干し果物を食べさせてあげながら一緒に本を読んでのんびりとした時間を過ごした。
3日後。
笑顔で送り出してくれるユリカちゃんとアンナさんに手を振り、いつものように出発する。
途中、村の門をくぐる時ジミーに声を掛けると、私はさっそく辺境方面へと向かう裏街道へと進んで行った。
懐かしい道を進む。
ひげ面で豪快に笑う父さんと、優しく微笑む母さん。
私はそんな2人の笑顔を思い出して、ひとり微笑みながら、エリーの背に揺られた。
進むこと4日。
待ち合わせているユニスの町に着く。
道中、宿が無かったので全て野営だった。
裏街道を行くと早く着く分、そういう難点がある。
そんなことをちょっと面倒に思いながらも私はさっそくギルドへ報告に向かった。
ギルドで聞くと、すでに3人とも先に来ているという。
私はさっそく教えてもらった宿に向かった。
宿屋の受付でさっそく部屋を取り3人を呼びに行ってもらう。
すると間もなくして、3人がそろってロビーにやって来た。
「久しぶり!」
「ええ。久しぶりね」
「元気にしてた?」
「ええ。もちろん」
「ふふっ。今回も楽しくなりそうね」
「ええ。そうね」
と、アイカ、ユナ、ベルと再会の挨拶を交わす。
「さて、詳しい話は後にして、とりあえずお風呂かしら?」
というユナの提案で、私たちはまず銭湯へ向かうことにした。
久しぶりのお風呂で旅の垢を落とす。
そして、いつものように、
「ふいー…」
と言いながら湯船に浸かると、自然と疲れが抜けていくような感じがした。
そんな私を見て、ユナが、
「思ったんだけど、ジルってけっこうおじさんくさいところあるわよね」
と指摘してくる。
アイカとベルも、
「あはは。そうだね!」
「ええ。そう思うわ」
と言って笑った。
「えぇ…。なにそれ…」
と、一応抗議してみるが、自覚があるのであまり強くは言い返せない。
そこへまたユナが、
「ジルってお酒の飲み方もなんだか渋いわよね」
と、またからかってくる。
私はなんだか急に恥ずかしくなって、
「…もう」
と言って顔を半分お湯に埋めた。
やがて風呂から上がり宿に戻る。
今回の宿は食事付き。
いったんそれぞれの部屋に戻ったあと、1階にある食堂に集合した。
ご飯を食べながら簡単な打ち合わせに入る。
そこで、私の武器が新しくなったこと、浄化の範囲が広く細かくなったことなどを説明し、より効率的に進めるようになったことを説明した。
「なんかすごいね」
とアイカが漠然とした感想を言って来る。
その漠然とした感想に、
「ええ。私も初めて使った時は驚いたわ」
と私も苦笑いで答え、
「でも、使いこなせなきゃ何の意味もないから…。これからよ」
と少し自分を戒めるようにそう付け加えた。
一瞬の間が空く。
そして、ベルが
「ジルはすごいね」
とつぶやいた。
「え?」
と思わず問い返す。
するとベルは少し苦笑いながらも、いたって真面目な表情で、
「だって、ジルは自分の進むべき道を見つけたってことでしょ?」
と真っすぐ私を見つめながらそう言った。
その言葉に私は苦笑いで、
「それを言うならベルの方がすごいよ。覚えてる?最初に会った時のこと。あの時、ベルは自分の剣の目標をちゃんと持ってたでしょ?あれって結構刺激になったのよ?」
と少し照れながらそう返す。
すると、ベルもハッとしたような表情でやや照れくさそうにしながら、
「…じゃぁ、お互い様ね」
と微笑みながらそう答えてくれた。
「あはは。なんかいいね。こういうの。いかにも仲間って感じがする!」
とアイカが笑う。
それにユナも、
「ええ。お互いの存在が刺激になってるなんて素敵だわ」
と続いた。
「うふふ。そうね」
とベルが笑う。
私も、なんだかおかしくなって、
「あはは。そうだね」
と言ってみんなで笑い合った。
「よし!そうと決まれば、私たちも負けてられないね。あ、お姉さん、お替り!」
と言って、アイカが近くにいた給仕係のお姉さんに空になったご飯茶碗を掲げて見せる。
ユナもそれに続いて、
「あ、私も!」
と声を上げた。
私とベルは目を見合わせて笑う。
そして、
「「こっちも!」」
と同時に声を掛け、ご飯茶碗を高々と掲げてみせた。
楽しい食事が終わり部屋に戻る。
明日に備えて手早く支度を整えると、さっそくベッドで横になった。
ふと、先ほどの会話を思い出す。
自然と顔が綻んだ。
私たちは互いを認め合い、刺激し合っている。
(仲間かぁ…)
そんな言葉を頭の中でつぶやくと、心の中に嬉しさが湧き、同時にくすぐったさが広がった。
今の私は一介の「はぐれ聖女」に過ぎないし、何を成し遂げたわけでもない。
でも、こんなにも心強い仲間を得て自分の道を進むことが出来ている。
そのことが嬉しく、くすぐったくもあり、同時に誇らしくもあった。
(みんなに負けないように頑張らないとね…)
そう思うと、自然とやる気がみなぎってくる。
私はその湧き上がってくる感情を少し落ち着けるように、一度深呼吸をすると、ゆっくり静かに目を閉じた。
翌朝。
いつもよりすっきりとした気分で目覚め、手早く準備を整える。
部屋を出ると、ちょうどベルも部屋を出てきたところだった。
「おはよう」
「おはよう」
と、まだ少しだけ昨日のくすぐったさをほんの少し残した感じで朝の挨拶を交わす。
2人そろって1階に降りて行くと、アイカとユナはすでに降りてきていた。
「お待たせ」
と声を掛け、さっそくみんなで宿を出て馬に跨る。
「さぁ、冒険の始まりだね!」
というアイカの明るい声に、
「ええ。楽しみね」
と笑顔を返して私たちは意気揚々とユニスの町の門をくぐった。
道中は何もなく、予定通り半日ほどで今回の目的地ベッツ村に着く。
さっそく私たちは村長宅を訪ね、私は祠へと足を運んだ。
いつものように調整をして、村長に大丈夫だったと作った笑顔で報告する。
(早くこんな報告をしなくていい日が来ればいいんだけどな…)
と、密かに胸を痛めつつ、その日は村長宅に泊めてもらった。
翌朝。
村長の見送りを受けてさっそく森に向かう。
森の入り口でベルが、
「いよいよね」
と、つぶやいた。
その言葉に無言でうなずき合う。
そして、気を引き締めると、油断なく森へと入っていった。
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