第55話 リッツフェルド公国へ02
翌日。
適当な屋台で朝食を済ませて、ギルドに向かう。
昨日のギルドの雰囲気からして、大丈夫だろうとは思ったが、念のため依頼の状況を見ておきたかった。
それに、3人と合流するまでは時間がある。
私は、その時間つぶしも兼ねて初めての町を散策しながら適当にぶらついてギルドの扉をくぐった。
朝の一番忙しい時間を過ぎたからだろうか、ギルドの中には割とのんびりした空気が漂っている。
私はさっそく依頼が張り出されている掲示板の方へと歩み寄った。
(魔物の依頼は、きちんと受けられてるみたいね。あとは薬草採取と…。お。護衛の仕事が多いわね。さすがは国境近くの宿場町ってところかしら)
などと思いながらぼんやりと張り出された依頼を見る。
そして、
(よかった。なんの異常も無いわね)
と思ってその場を立ち去ろうとした時、後ろから、
「ジル!」
と声を掛けられた。
つい最近、聞いたばかりのその声に笑顔で振り向くと、やはりそこにはベルがいて、微笑んでいる。
私も、
「ベル!」
と嬉しい声を上げながらベルに近づき右手を差し出した。
「うふふ。意外と早い再会になったわね」
と言う私に、ベルが、
「ええ。依頼をもらった時は驚いたわ」
と答えて手を握り合いながら笑い合う。
「宿はもう決めたの?」
「いいえ。さっき着いたばかりなの」
「そうなんだ。私が泊ってる宿は素泊まりだけどそこでいい?」
「ええ。問題無いわ」
「じゃぁ、さっそく行きましょう」
「うん。…ああ、その前にギルドに到着の報告をしてくるわ」
「ああ、そうね。じゃぁ、ここで待ってる」
「うん。すぐ済ませてくる」
そんな会話をしていったん別れ、私はベルが報告を済ませるのを待った。
待つことしばし。
報告が済んだらしく、ベルが小さく手を振りながらこちらにやって来る。
私たちは、
「さて、さっそく宿に向かいましょうか」
「ええ」
と短い言葉を交わしてさっそくギルドを出た。
すると、その直後やや遠くから、
「ジル!」
という、これまた聞き覚えのある声がかかる。
そして、声の主が大きく手を振りながら石畳の道をこちらに向かって小走りにやってきた。
「アイカ!ユナ!」
と私も声を掛け返す。
私はややきょとんとするベルに、
「今回共同で依頼を受けてくれる、アイカとユナよ」
と声を掛けた。
ややあってこちらにやって来たアイカとユナとも握手を交わしながら、
「久しぶり…というほどじゃないけど、久しぶりだね」
「元気だった?」
「ええ。久しぶりね、元気よ」
と再会の挨拶を交わす。
そして、私は、
「ああ、こっちはベル。今回一緒に依頼を受けてくれた剣士よ」
と言って2人にベルを紹介した。
「私はアイカ、よろしくね」
と言ってにこやかに差し出されたアイカの右手をベルはやや緊張気味に握り返し、
「…よろしく」
と挨拶をする。
すると今度はユナが、
「ユナよ。よろしくね」
と微笑みながら右手を差し出した。
「よろしく…」
と、こちらも緊張気味に握手を交わし、とりあえずの自己紹介が終わる。
私は少し人見知りするベルを見て、微笑みと苦笑いの中間くらいの笑顔を浮かべつつ、アイカとユナに、
「まぁ、詳しい自己紹介は後でしましょう。とりあえず私たちは宿に向かうところだったんだけど、2人は報告があるでしょう?私たちはここで待ってるわ」
と言って、まずはギルドへの報告を済ませてくるよう促した。
「そうね。じゃぁ、さっさと済ませてくるからちょっとだけ待ってて」
と言ってさっそくギルドへ入っていく2人を見送りながら私は、
「あの2人ともちょっと前に一緒に冒険したの。きっと大丈夫よ」
とベルに声を掛ける。
するとベルが、
「べ、別に…」
と言って少し顔を赤くした。
私はその様子をなんとも可愛らしく思いながら、
「とりあえず、詳しいことはあとでお昼でも食べながらにしましょう。きっと楽しいお昼になるわよ」
と、また微笑みながら声を掛ける。
そんな私の言葉にベルは、軽くため息を吐きつつも、
「ええ。そうね」
と苦笑いと微笑みの中間くらいの笑顔で答えてくれた。
やがて、アイカとユナの2人が、
「お待たせ」
と言ってギルドから出てきたのでみんなで宿へ向かう。
それぞれがほんの少しのぎこちなさを抱えて宿に着くと、いったん別れ、昼頃1階のロビーに集合することにした。
私もいったん部屋に戻り、ベッドに転がる。
(ふふっ。なんだかまた楽しい冒険になりそうな予感がするわね)
と心の中でつぶやいて今回の冒険への期待に胸を膨らませた。
やがて、私のお腹が空き始めたころ。
昼を告げる鐘の音を聞いて、下に降りていく。
1階にはベルがいて、2人で待っていると間もなくしてアイカとユナが下りてきた。
「お待たせ。どこにする?」
とさっそく聞いてくる食いしん坊のアイカの言葉を聞いて苦笑いしながら、
「午前中ちょっと見て回ったけど、良い感じの定食屋があったの。そこでいい?」
と提案してみる。
すると、アイカも含めてみんながうなずいてくれたので、私たちはさっそく宿を出てその定食屋に向かった。
私を先頭に大通りから1本裏に入った所の小さな通りへと入っていく。
市場の帰りだろうか、小さな荷車を押す農家の人や商家の勤め人などに混じってその通りを歩き、やがて目的の店の扉をくぐった。
「いらっしゃい!」
という威勢のいい声が掛けられて、適当な席に着く。
水を持ってきてくれた店員が、
「今日の日替わりはショウガ焼きですよ」
というので、私は迷わず、
「じゃぁ、私はそれで。みんなは?」
と聞いた。
「あ。私も」
「そうね。私もそれでいいわ」
「うん。私は大盛で!」
とベル、ユナ、アイカもそれに続いて、注文が決まる。
「かしこまりました!」
と言って下がっていく店員を見送って私たちはさっそく自己紹介に入った。
「まずベルを紹介するわね。武器は剣。つい最近2人で冒険したの。腕前は信用できるわ」
と私が軽くベルを紹介すると、ベルも、
「前衛は任せてもらって大丈夫」
とうなずく。
するとアイカとユナもうなずいて、まずは、アイカが、
「了解。私は盾とメイス。最近持ち替えたばっかりだけど元々短剣だったから扱いに問題はないわ。防御魔法が使えるからそこは信頼して」
と答え、続いてユナが、
「私は弓と火魔法。魔法は広域型が主だから集団戦になったら弓になるわね。もし飛んでくるのが相手だったら任せてもらっていいわ。基本的にはアイカに護衛してもらいながらの戦いが多いけど、いざとなったら動けるから心配しないで」
と自分の得意分野を紹介した。
私はその話にベルがうなずくのを見て、
「じゃぁ、今回の布陣は基本的に私とベルが前衛で、アイカとユナが後衛になるかな?場合によっては私がユナの護衛について、アイカとベルが前衛ってこともあるかもしれないわね。その辺りは相手によって臨機応変に対応しましょう」
と提案する。
その提案に、全員がうなずくが、そこでベルが少し遠慮がちに、
「私、魔法と組んだ経験が少ないの。広域っていうのがどの程度の規模なのか教えてくれる?」
とユナに質問した。
私もそう言えばユナの攻撃魔法は見たことが無かったなと思ってユナに視線を送る。
すると、ユナは若干の苦笑いを浮かべながら、
「ゴブリンなら30くらいまとめて焼けるかな。あと、空から来るのだったらたいていは落とせるわね」
と言い、続けて、
「あとは爆発系ね。…小さな洞窟くらいだったら中を一掃できるわ」
と答えた。
そんなユナの答えにアイカが、
「ユナの魔法は派手で威力も強いけど、使いどころが限られるのよねぇ」
とちょっといたずらっぽく茶々を入れる。
そんな言葉にユナは、
「…もう。最近は、少し絞れるようになってきたじゃん」
とちょっとむくれながら言い返した。
私はそんな2人のやり取りを聞いて、
「ははは。とにかくいざという時は頼もしいって感じかしら?」
と、苦笑いで確認する。
すると、ユナは私に向かって、
「ええ。連射は出来ないけど、大物がいたら任せて」
と、自信ありげに答えてくれた。
お互いの戦力をなんとなく確認し終えたところで、
「お待ちどう様です!」
という声がかかり、ショウガ焼きが運ばれてくる。
それを見たアイカが、
「お。美味しそう!」
と嬉しそうな声を上げ、そこからは楽しい昼食が始まった。
それぞれの経験。
前回私と行った冒険の話。
そんな話をしながらワイワイと食べる。
アイカは相変わらず食いしん坊のようで大盛りだったにもかかわらずご飯をお替りし、お米好きのベルも美味しそうにご飯を口に運んでいた。
そんな光景を見ながら、私は今回の冒険も楽しくなりそうだと確信に近い感触を得る。
すると、そんな私の気持ちを察してくれたのか、ユナが、
「また楽しい冒険になりそうね」
と声を掛けてきた。
私は笑顔で、
「ええ。きっとそうなるわ」
と答える。
ベルとアイカも、
「そうね」
「うん。なんか楽しくなりそう」
と言ってみんなで笑った。
また新しい冒険が始まる。
その期待に私は嬉しさを覚え、アイカやベルに負けないようにショウガ焼きとご飯を頬張った。
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