手記 一

 僕と妹は、町中の市立高校に通うごく普通の学生でした。僕が高校二年生、妹が高校一年生になります。両親と住宅街の一軒家に住んでおり、決して貧困していたわけでもなく、周りと比べても不自由なく暮らせていました。

 はたから見て、僕はこれといった特徴のない人間だったように思います。強いて言うなら、僕は周りに合わせる生き方が得意な人間でした。

 平穏な学校生活を送るには、悪目立ちをしないことが第一です。そのために、趣味や話題などは自分の好みで選ばず、クラスの流行に乗るようにしていました。ワックスをつけて茶色に染めたショートヘアも、ファッション雑誌に載っていたモデルの髪型を適当に選んで真似したものです。

 クラスメートと会話するときも卒なく振る舞っていたので、僕自身は疎外されるような目に遭いませんでした。一緒に昼ご飯を食べる仲の友人も何人かいたので、それなりに上手く世渡りができていたように思います。

 本音を言うと、クラスで流行していた物事のほとんどには興味が湧きませんでした。ファッションや化粧などの外面だけで満足する人たち、SNSで流行にあやかって承認欲求を満たそうとする人たち、それらに群がって媚びを売る人たち、そういった連中に不快感を覚えることも少なくありませんでした。

 一方で、妹は家での振る舞いを見ても内気な人間だったように思います。

 二人で会話をする際、妹のほうから話題を振ることはなく、僕の話に相槌を打つことがほとんどでした。黒髪のロングヘアもぼさぼさで、目が覆われるほど伸びた前髪もお化けのようでした。衣服も親戚のお下がり以外に着ようとせず、まったくと言っていいほどに外見の美意識がない人間でした。

 しかしながら、妹は誰よりも内面が清らかな人間でした。家族で外出しているとき、両親も気に留めない道端に落ちている空き缶などを、妹は積極的に拾っていました。食事の席で、父が誤ってコップを倒してしまい、こぼれたビールが妹の服にかかったときも、妹は嫌な顔ひとつせずに後始末を手伝ってくれていました。

 また、妹は小さいころから一緒だった僕にだけはなついているように感じました。妹も僕も家では個室を与えられていたのですが、妹はよく僕の部屋に遊びに来て、一緒にテレビを観たり小説を読んだりしていました。

 ほかにも写真撮影を趣味としており、スマートフォンに撮り溜めた写真を何度か僕だけに見せてくれました。主に、道端で見つかるような草花や虫を好んで撮影していました。妹いわく、これらがたくましく生きている様を眺めていると、自然と勇気を分けてもらえるとのことでした。

 僕自身も、妹の無垢さと価値観には学ばされたり感銘を受けたりすることが多く、妹と過ごす時間は大事にするようにしていました。僕はがたいが比較的大きいほうなのですが、熱心に取り組んでいる部活動が学校内になかったのもあり、妹といるほうが有意義だと感じて、部活動には参加せずにまっすぐ帰宅していました。

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