6-1

2036年 4月12日 土曜日 05時29分



むぅ.......とてつもなく眠い.......。



重たい体に鞭をうち、頑張って起き上がる。

油断すると、今にも自重で閉じてしまいそうなまぶたをパチパチと瞬かせて目を開く。

時計を見るとすでに寮の施錠は解放されている時間。



ぐっと背伸びをして一呼吸、いつもより長く寝ていたせいか倦怠感がある。

とにかく顔を洗って服を着替えて.....あ。



そうだ......昨日制服を汚したのをすっかり忘れていた、寮内のクリーニングに出しておかないと。

予備の制服に着替えて汚れた制服を片手に受付所へ向かう。

机に置いてある用紙と名札にクラスと名前を記入して制服をハンガーに通したら、名札をつけてハンガーラックへかけて終わり。



用事は済んだしご飯を食べに行こう、そうしよう。

未だ残っている眠気をお共にふらふらと、おぼつかない足どりで本校舎に向かった。



しかし校舎につくと扉が開いていない。

おや?これでは食事ができない、そう思ったが昨日見つけたエレベーターを思い出して、そちらへ行くとちゃんと動いていてホッとした。



かごに乗り、液晶パネルの4Fをタッチして後は待つだけ。

それにしても、いい景色だぁ.....日の出も拝めてぽかぽかしてて眠くなるなぁ....ぐぅ。



屋上につき次第、お日様と別れを告げて学食の中に入ったが人が全くいない。

休日だから普段よりゆっくりめに起きて食べるのか、それとも外食予定で来ていないのだろうか?

もしそうなら羨ましい....くないもん、学食のほうが美味しいもん。

なんていじけてみたりしながら、朝食はホットケーキとノンカフェイン紅茶を注文。



席に座りいただきますの挨拶をして、ホットケーキをナイフとフォークで一口サイズに切り分けて口へ運ぶ。

フワフワで厚みも十分、メープルシロップとバターの香りに癒されるなあ。

頬を膨らませながら、もきゅもきゅ食べつつ視線を外の街に向ける。



今眺めている街には、楽しみを与えてくれる場所があるのだろうか。

前の街は色んなお店が揃っていて、両親と何度行っても飽きなかったけど....。



ふと窓に写る自分の顔を見るとだるんとして生気がないことにびっくり、そして目はというとどこか遠いところを見つめているような。

いつもこんな表情だったかな?過去の記憶と照らし合わせてみるが、認識と違っている気がしてならない。

私だけど私じゃない、そんな不思議な感覚に襲われる。



考え事をしている間に朝ごはんを食べ切ってしまった、もっと味わって食べるべきだったな

あ。

悲しくも綺麗な更地になったお皿をトレーへ載せ、それを返却したら学食を去った。



このまま寮の部屋に戻ってごろごろしようか悩んだが、やっぱりやめて、本でも漁ろうと図書室を訪れた。

前回は星の本を読んだし、今回は違うジャンルのものを探しに本棚を見て歩くと、ある題名が目に入る。



見間違いかと思い足を止め、ちゃんと確認すると銃や軍関連の本が置かれていて驚いた。

その本棚を見渡し、歴史上で有名な銃達を紹介している図鑑が気になったので手に取って中を見てみる。



私の使っているアメリカ製のM4やロシアの傑作銃AK47に、マブマシンガンの有用性を示したドイツのMP5など様々な銃のことが記載されている。



正直なところカテゴリーはともかく、銃など弾が出るなら性能に大差ないのでは?と思っていたが本いわくは使用弾薬、動作機構や銃身の加工精度に防水、防塵など性能に影響が出る部分が山ほどあると書かれていたのが意外だ。



傑作と言われる銃たちは、様々な問題点を技術者が並々ならぬ努力で改良した末にできた品。

だがそれは、人を効率よく殺すための力を極限まで追求したとも受け取れる。

こんな捻くれた捉えかたをするのは、未だ銃に対して悪いイメージを持ってしまっているからだろう。



次は銃のハンドガードについているレールシステムの解説と、それにつけられる装備品の本を開いてみた。

RAS・レールアダプターシステム、1980〜1990年代にライトや暗視装置などの装備が開発されたがそれらを銃へ搭載する際、銃ごとで装着方法に違いが出てしまうことが面倒だと考えたアメリカが、簡単に装備品を取りつけられるように考案したシステム。

1995年に標準仕様として採用され、結果として銃に革命をもたらしたそうな。



そのレールがついたおかげで、光学照準器はもちろん、レーザー照準器やグリップ、さらにはグレーネードランチャーなどもつけることができる。

私の銃にも装着すれば使い勝手が良くなりそうだけど、それらをつけるとそのぶん銃が重くなってむしろ扱い難くなるのでは....?



色んなことを想像しながら読んでいるといつの間にか08時を過ぎていた、流石にずっと本を読んでいると肩と首が疲れる。

大体満足したので、図書室を出て自分の部屋に戻った。



読書でこわばった首と肩のストレッチをして、ベッドへ仰向けに寝転ぶ。

この後、何をしようか腕を胸の前で組んでうーんと唸るが思いつかない.....さて、どうしたものか。

そういえば土日に巡回をする予定と渡先生に言ったような記憶が...ならば有言実行、街に下りよう。



それはそうと、巡回に出るなら念のため銃を携帯しておいたほうがいいかな?

校外への持ち出しに関してはどうなっているのだろうか、何かしらの申請が必要そうな気がするけど。



先生にそのあたりを尋ねようと職員室へ足を運んだが今日は休日。

部活動がある先生しか学校に来ていないのでは?

中をのぞくと案の定、教師は出払っている。

失敗したなと思いつつもドアを閉めようとすると奥の部屋から入学式以来、見かけていなかった校長先生が現れた。



「おや、休日に職員室で生徒と出会うとは珍しい。どうしたのかな」



「あ、あのえっと...私、防衛科3組の愛星と言います。防衛科の先生にお尋ねしたいことがあったのですが、いらっしゃらなかったので帰ろうとしていました」



「ふむ、防衛科のことならば学校長の私も関係しているのでね、知っている範囲なら答えられるよ。何を聞きたかったんだい?」



これは運がいい、防衛科のことを知っているなら銃の持ち出しについても把握しているはず、聞いてみよう。



「今日、これから街の見学を兼ねた巡回に出る予定なのですが、念のため銃を所持しておきたいなと。持ち出しに関してはやはり申請などが必要なのでしょうか?」



「なるほど。持ち出しについては愛星さんの言った通り、申請をしてもらう必要があるね。確かこの辺に....」



そう言って校長先生は近くの机の引き出しを開けて、ゴソゴソ漁った後に1枚の紙を取り出した。



「あったあった、この用紙だ。できるだけ先生らがいる時に提出してほしいけれど、いなくてもこれに名前とクラスと持ち出す要件を記入して出してくれればOKだよ」



「では、使う際に用紙を提出すれば先生の許可を得なくても、校外で銃の所持をしてもいいのですね」



「もちろん。でも扱いには気をつけて欲しいんだ。他者に使われたり盗まれたりはもちろんだけど、未知の存在以外に対しては銃を使用しないことを必ず守ってもらいたい。もし、それらが破られた場合は防衛高校全体の信用問題へ発展しかねないし、責任を取ってこの高校から退学してもらわなければならない恐れもあるからね」



確かに...自分1人のミスで全体に迷惑をかけるのはよくないし、もし退学になりでもしたら私は行く先がなくなってしまう、絶対に気をつけないと。



「わかりました、持ち出す際は細心の注意を払うよう心がけます。では、今のうちに申請をしてもよろしいでしょうか?」



「構わないよ。じゃあ、記入を終えたら弾薬庫で巡回用の装備を用意しようか」



なぜ校長先生がついてくるのかと思ったが弾薬庫にはカードと、指紋認証のロックがあるため生徒だけでは入れないのだった。

申請書を出した後は自室に銃を取りに行き、寮の前で待っていてくれた校長先生と共に弾薬庫へ行き、そしてその場で簡易な授業を受けることに。



まず銃を外へ持って行く際は常に手で持っておかなくてもいいよう、スリングという太めの帯みたいな物をつけて、肩からぶら下げておくといいそうだ。

これがあれば銃を奪われたりする危険性が低くなり、射撃姿勢を安定させやすくもなるので一石二鳥だとか。

ただし、スリングをつけるにはスリングスイベルという器具を銃に取り付けないといけない。



次にボディアーマー、上半身をくまなく覆うものだと高い防弾性能を期待できるが重いうえに体の動きが制限されてしまう。

巡回の場合は防弾性能は劣るが、軽量で動きやすいプレートキャリアというものがおすすめみたい。



これに、マガジンポーチなどの必要な装飾品をつけて前面と背面にアーマープレートを挿入。

中に入れたアーマープレートもランクがあるそうで、高ければ高いほど防弾性能が増す。



後は使い切ったマガジンを保管するダンプポーチとハンドガンをしまう、盗難・落下防止のロック機構つきホルスターを前面につける。



用意は一通り済んだけど、校長先生がこんなに詳しいとは......。

防衛科の担任ではない先生たちも、これくらいの知識は持っているのだろうか。



その後、校門前まで校長先生に付き添ってもらい、外へ出る前に白い文字で中央綾乃高校と書かれた灰色の迷彩柄の腕章を手渡された。

巡回する際は他者から防衛高校の生徒だとすぐわかるよう、忘れずにつけてほしいと言われたのでブレザーの左腕に腕章を取りつける。

この迷彩は派手な感じがする、これがもし制服に採用されていたら目立つことこの上ない。



準備を手伝ってもらったお礼を伝え、校長先生が手を振って見送りをしてくれる中、街の見学を兼ねた巡回へいざ出発。

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