5-3
待つこと数分、先生が現れたので一緒に弾薬庫へ入り、ハンドガンとアサルトライフルの弾とマガジンを棚から出す。
今回はアサルトライフル120発、ハンドガン34発をそれぞれのマガジンにつめる。
やっぱりこの作業は指と腕にくるなぁ。
丹精込めて弾をつめたマガジンを両手で抱えて射撃レーンへ戻り、M4を使って昨日と同じようにまず30mから撃ち始めて50m・80mと順に距離を伸ばし、次は100mに挑戦だ。
先生から100mを狙うの?と聞かれたので、昨日は80mでやめたので挑戦してみたいと返す。
数字で100mと聞けばそう遠くないように感じるが、実際にその距離を目で確かめるとかなりの距離だ。
物で例えるなら......東京のお台場にある大観覧車1基分、電車なら1両が約20mあるらしいから、それが5両あると思えば結構な長さ。
まずは距離に慣れないと、しっかり銃を構えて10発撃ってみたが1発も当たらない....想像していたよりもはるかに難しい。
手のぶれと呼吸による上体の上下によって照準が定まらないし、距離が遠くなったことで肉眼では的の輪郭がぼやけて見える。
さらには、照準器をのぞいた先に見える的の視覚上の面積が50〜80mに比べて小さいのも難易度を高くしている要因の1つだ。
その後、マガジン内の弾が無くなるまで撃ちきったがやはり命中率は高くない。
気持ちを切り替えるのと同時に、空になったマガジンを銃から取り外して机に置き、新品を代わりに挿し込む。
そうだ、机を支えに射撃してみてはどうだろうか?
M4の銃身を包んでいる筒部分、ハンドガードを机にそっと預ける。
銃を安定して構えられるよう片膝立ち姿勢をとったら左手はハンドガードの上に乗せるよう添えておく。
そして静かに息を止めて....引き金を引く。
.......ドンッ........。
的に当たりはしなかったが近くを通って、奥にあるに弾受け用の砂山に着弾したから良い方法みたいだ。
そう言えば、襲撃事件があった日も車のボンネットに銃を預けて撃ったら、安定して狙いやすかったことを思い出した。
なら匍匐状態であればもっと安定するのでは?夢中で地面に寝そべり、銃のマガジンを支点にしつつ先程と同じようにしてもう一度.....。
.....ダンッ———!
的からチリのようなものが舞い上がったが、結果はどうだろうか。
「先生、双眼鏡ないですか?」
「双眼鏡はないけどライフルのスコープならあるわ。はい、落とさないようにね」
スコープを受け取ってのぞいてみると、当たったと思ったが着弾点の跡が見えない。
スコープについているダイヤルをカチカチいじって焦点を合わせ、もう一度じっくり見直すと的の縁あたりがえぐれていた。
どうやら一応、ヒットしていたみたいだ。
「どう?当たっていたかしら?」
「当たってはいますが、縁ぎりぎりなので"当てた"には含められないと思います」
「どんな形でも当たったことには違いないわ。ふふ、素直じゃないわね。こんな短期間で100mの的に当てられるようになるなんて凄いことよ?ほら、もっと喜んで!」
確かに.....謙遜し過ぎるのはよくないと聞くし、素直に結果を受け入れよう。
それはさておき、先程から先生が若干顔を紅くして気まずそうな感じをしている、その姿に不覚にもちょっぴり可愛いと思ってしまった。
渡先生に顔が紅いことについて、どうかしましたか?と尋ねてみる。
「えっとね、愛星さん...今は私しかいないからいいけども、制服で匍匐状態になる時は下にタイツかショートパンツみたいなのを着たほうがいいわ。丸見えになっちゃうから....」
急に言われて何のことか理解できなかったけど、そうか....スカートだということを忘れていた....恥ずかしい姿を見せてしまったと思うと頬が熱くなる。
先生に愛星さんも顔が朱いわよとからかわれしまったので、無言のままジト目で抗議。
それと、制服のまま匍匐したせいで首から下は土汚れがたっぷりついてしまっている。
綺麗な制服を汚したことへの罪悪感が!
せっせと汚れを払っていると、先生は隣でかかってきた電話に出ていた。
「ごめんなさい愛星さん、会議でよばれてしまったから今日の訓練は終了。愛星さんも薬莢の片付けをしたら休んでちょうだい」
「あの、まだマガジンが2つ残っているのですが...」
走り去る背中に呟いたが聞こえているわけもなく、1人では弾薬庫に入れないため弾を使い切ろうか悩んだが、先生のいないときに射撃をしたら間違いなく怒られるだろうし、やめておこう。
仕方なく、残ったマガジンを鞄にしまい込んで薬莢の回収をしたら銃を置きに寮へ戻った。
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