第5節

「———まあ、状況が状況だから仕方がないとは思うんだけどね……」


 一足先に三階と二階の捜索を終えたゆんゆんが一階に下りてきて、


「一応訊くけど、戦闘があったわけじゃないのよね……?」


 その惨状を見て、眉をヒクつかせながら訊いてきた。



「……ゆんゆん、これは仕方がないことなんです」

「やー、夜の学校って楽しいねー。なんか青春って感じでさ」

「二人ともやりすぎよ! ねえ、これ魔王軍に破壊されたわけじゃないのよね!? どうするの? こんなに破壊してどうするのよー!?」

「落ち着いてください! だいたい、こんなに厳重に鍵かけてるのが悪いんですよ」

「校長室のドアが一番背徳的だったよねー」

「開けられないなら後回しにすれば良かったじゃない! てっくんって本当にたまにバカになるよね! どろんぱちゃんも、てっくんが暴走するのを止めるって言ってなかった!?」

 


 昇降口のドアを壊して侵入した後、俺達は一階の捜索を始めたのだが……。

 職員の利用する部屋が多いためか、思いの外鍵のかかっている部屋が多く、俺達はその一つ一つのドアを壊して押し入ったのだった。そのおかげで、廊下には破壊したドアや壊すのに使用した椅子などの破片があちこち散乱しており、その有様はさながら激しい戦闘の後のようであった。

 別に、こめっこが見つからないことに段々と焦れてムシャクシャしたからやった訳ではない。自棄っぱちになった訳でもない。

 仕方がなかったのだ、断じて。


「そうカリカリしてないでさー。とりあえず、ゆんゆんもやってきてみ。スカッとするよ? おすすめは校長室だねー。ドアはもうないけど、まだ机と椅子は残ってるよ」

「それもうこめっこちゃんの捜索関係ないじゃない! 二人って成績上位なのよね!? もっと他に方法はなかったの!?」

「ゆんゆん、夜の学校で騒ぐのは非常識です、静かにしなさい」

「てっくんには言われたくないわよ! ……というか、さっきめぐみんのこと怒っていたけど、てっくんちょっと似てるから気を付けた方がいいわよ……!?」


 どこぞの頭のおかしい爆裂女と似てるだとか失礼なことを言ってくるゆんゆん。


「ちょっと、さっきから騒がしいですよ、状況を考えてください。……まったく、どんだけ非常識なんですか?」

「うちらには遊んでる暇なんてないの。自重しなさい、ゆんゆん、めっ!」

「わっ、私がおかしいの!? 私が非常識なのー!?」


 ちょっと涙目になりながら騒ぎ立てるゆんゆんに背を向けて、俺達は残る図書館と講堂の捜索に行くために走り出した。


 南の討伐隊の方にも商業地区の方にも、未だにこめっこが見つかったという狼煙は上がっていない。であれば、まだ里の中にいる可能性は大いにある。

 里の西側に向かった大人達も、そろそろ二手に分かれて捜索している頃だろうか……。


「どろんぱちゃん!? どこから持ち出したのよそれ! こ、今度は私が魔法で開けるから……!」


 図書館の前に着くと、恐らく校長が花壇にでも使うつもりで置いておいたのだろう棒を手にドアを壊そうとするどろんぱをゆんゆんが慌てて止めた。


「『アンロック』!」


 ゆんゆんが魔法で解錠をすると、図書館のドアは木の軋む重々しい音を立てながら開いた。



「俺は三階を、どろんぱは二階、ゆんゆんは一階で!」


 開いたドアに体を滑り込ませながら、俺は二人に指示を—————



『まっ、魔王軍警報、魔王軍警報! 敵は北西の渓谷を抜けて接近中。その数はおよそ500匹と見られます! 動ける魔法使いは、聖剣の岩に集合して下さい! 繰り返します。魔王軍は———』

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