秋月千夏他化自在天
上面
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二千十五年現在、秋月千夏が持つ能力は数えるのもうんざりする数になっているらしい。百を超えてからは本人も正確な数を認識していないそうだ。
その能力が相互にシナジーを起こし、この世界はめちゃくちゃになっているという噂だ。本当に凶悪な能力は能力によって改変されたことも気づかせないので、俺たちでは認識できてないと思うが。
能力とは何か。
氷見野博士曰く、 能力とは“魂の病”らしい。人間が自らを守ろうとする防衛本能により発症する。通常、その能力は一人に一つだ。
秋月千夏は相手が自分を対象にして使用した能力をコピーすることができる。秋月千夏が組織に入ってきて六年。バリバリ現場で仕事をしていたせいでもう凄いことになった。【天地】を自在に操り、物凄いスピードで【疾走】することができるし、何でも【抹消】できる。あと前に宇宙人も撃退した。もう全部アイツ一人でいいんじゃないかな。
そんな秋月千夏も本日無事に結婚式を開いていて、俺も招待された。同僚だしな。俺は入れないとかはなかった。昔、俺がクイズ王だったとき水月を本気でぶん殴ったりしたから嫌われていると思っていた。
俺の席のテーブルには先に引出物が置いてあり、中を開いてみるとバームクーヘンが入っていた。どうせ俺がバームクーヘン食べているとか誰が気にしてくるわけでもねえしバームクーヘンを食べる。
伊代さん……作倉部長が仲人役としてなんか言っているが、遠くて聞こえない。マイクの性能!会場が野球場並みにデカいわりにマイクやスピーカーが貧弱!!
秋月千夏は宇宙人撃退で世界的な名声を得て、各界の著名人がこうやって結婚式に来るレベルになっている。これでも出席者を厳選したらしい。旦那の方の所属は今も警察なので警視総監とかこの結婚式に来ているらしい。ウケる。
「美味しいか?」
クリスさんがバームクーヘンの味を聞いてくる。これはバームクーヘンを今食べるの?正気?という意味の苦言ではないと思う。クリスさんはそういう嫌味な言い方しないでストレートに言うだろうし。
「サクサクして美味しいっすよ」
秋月千夏とバームクーヘンの好みが合って良かった。合ってなかったらここに来たことを後悔していた。休日出勤かよってな。
バームクーヘン食べていると会場の警備の無線が聞こえた。耳にインカム付けているからな。一応俺も警備の人数に数えられているというか、どうにもならないときは俺が終わらせることになっている。いや、どうにもならないより前に出るよ。
「外が騒がしくなっているので自分外出ます。戻れなかったらバームクーヘン任せます」
バームクーヘンを半分残し、後ろ髪を引かれる思いだが、大事になる前に出る。
「そうか。人の分までバームクーヘンはいらん」
クリスさんは俺の食べかけのバームクーヘンはいらないらしい。そりゃそうだ。
式場の外に出るとかなりの人数が『秋月千夏は悪魔。人類の敵』と書かれた横断幕や看板を持って集合していた。
「秋月千夏は魔王です。神の【威光】をかすめ取り、この世界を支配しようとしています」
「秋月千夏は織田信長だったのか?知らなかったな。まあお前らもそんなに言うなら直接刺しに行けよ……」
悪魔だ魔王だ言ってくる奴が出てくるくらいには宇宙人の撃退により世界的な名声を得た秋月千夏は同時に恐れられていた。まあ降ってくる隕石を全部宇宙人に返すような真似すればそうなるわな。
さて、俺の能力はなんでしょう?
答えは【変速】。
生物の体感速度を変える。一瞬を永遠に伸ばしたりその逆もできる。まあ、篠原幸雄とかいう引きこもりの下位互換ということになる。実際の速度というか時間に干渉しているわけじゃないからな。
だがこういう連中を傷つけずに無力化するのは余裕だ。体感速度を無限に引き伸ばしてやった。引き伸ばしている間に河川敷とか広めの場所に移そう。
予め用意したトラックの荷台に人を積んでいく。積み終わって会場に戻るとブーケトスをやっていた。
「伊代さん!受け取るの!」
「あゆです」
「私は伊代さんで覚えているの」
ウエディングドレスに身を包んだ秋月千夏がブーケを高く投げる。作倉卓部長が死んだあとその後釜に座った作倉あゆ部長がブーケを受け取った。
ブーケは空中で奇妙な軌道を描いたのでたぶん秋月千夏は【必中】を使っている。
俺はだいたい見るべきものを見たと思い、このまま喫煙室に向かって歩いていく。
世の中は徐々に禁煙になっているよな?まあ仕方ないさ。結婚式場の廊下で作倉部長と付き合っていると噂の香春隆文と遭遇する。
そういえばブーケ受け取った人はそのうち結婚するらしいよな。チェーンメールか?
「お前さ。作倉部長と結婚しないの?」
「そのうち……」
そのうちね。あんまり待たせるんじゃねえよ。いつまでもあると思うな親と金。あっ、前の作倉部長はもう死んでいるか。
秋月千夏他化自在天 上面 @zx3dxxx
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