第5話 命を懸ける少年
手足を縛られて碌に身動きも取れない状態で、首元に刃物を突き立てられる。これほど見事な絶体絶命もなかなかお目に掛かれない。この状態を回避する方法が彼女たちとセックスすることでなければ、もう少しドラマチックな展開になっていただろう。
「さあて、こうなっちまったらもうアンタの選択肢はちんこ出してアタシたちに犯されるだけだが……」
鬼のお姉さんが圧倒的優位な状況にニヤリと笑う。なんとも様になった悪党っぷりだが、僕は神様に「良く生きろ」と申しつかった身、命惜しさに道程を投げ捨てついでに童貞も雑に投げ捨てる気は毛頭ない。
なにより、僕にはとっておきの解決策が一つあるのだ。
「いいえ、もう一つ選択肢があります」
僕はそう言うと身体を斧から遠ざけるように逸らした。そして――
「あ、あぶニャア~〜」
僕は自ら斧の刃に向かって首筋を叩きつけようとしたが、猫のお姉さんがギリギリで僕の顔を受け止めた。
ドシンと鬼のお姉さんが斧を床に叩きつけた。「アタシの負けだ!!」
「まさかセックスしない為に自分から死にに行くとは、アンタ最高にイカれてるよ!」
「まったくニャ! そのくせ、ニィー達とセックスしたいって言ってるのが、本当にイミフメイニャ!」
そう言いながらも二人とも顔には笑みを浮かべていた。どうやら僕の覚悟がお二人にも通じたようだ。
「ちょ、ちょっと、お二人とも、なにを絆されていやがりますの?」
ただ一人だけ状況に納得のいかないシスターのお姉さんが諦めきれずにいたが、振り向いた鬼のお姉さんに威圧されて一歩下がった。
「ベリー。アタシはコイツの事が本気で気に入ったんだ。だから野暮な方法はしない」
「そうニャ。アヨンの言う通りニャ。それにこいつも交尾したくない訳じゃないニャ。気長にやるニャ」
ニィーさんがそう言いながら僕の顔に頬ずりする。
ほっぺはぷにぷにしてて柔らかいし、なんだか野性味あふれる良い匂いがする。
僕は性欲が股間へ集まっていくのを感じながら、それを制欲で抑え込む事に努めた。奇しくも同じ『せいよく』という読みを持ち合わせながら、相反するこの二つの言葉。性欲と制欲、この二律背反するこれらを正しく扱う事こそが人が人らしく生きる為の術だと僕は信じている。
「ギギギ……しかし、こんな上玉滅多に手に入らないのに……ギギ!」
激しく親指の爪を噛みながら、ベリーさんは軋みにも似た声をあげた。酷く不気味な声だ。
「だからだ。雑は止めようぜ。要するにコイツに“愛して貰えば”いいだけなんだ。得意だろ、オマエそう言うの」
ギリギリギリとカミキリムシのような音を暫く立てた後、ベリーさんは何時ものようなお淑やかな雰囲気を取り戻した。「それもそうですわね」
「ねえ貴方、今更になって逃げるなんてことありませんわよね。私たちと一緒に来てくださるのでしょ?」
思惑はどうあれ、僕は彼女たちに気にいってもらえたようだ。
今はアヨンさんにニィーさんが味方になってくれているので、ベリーさんが何かしでかすような事はないが、この提案を断れば三人共が敵に回ってしまう可能性もある。
そもそも僕があんな生意気なことを言わなければこうもならなかったのだ。彼女たちを振り回した挙句に、一人とんずらこくなど無責任にもほどがある。
男としてこの出会いを神が与えた試練であり、数奇な運命と受け入れよう!
「もちろんです! 僕は黒道祐樹、よろしくお願いします!」
こうして神の慈悲により異世界へと旅立った僕の、性なる冒険が始まった。
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