第4話 するのしないのどっちなの

 僕の事をつがいにするだの、夫にするだの、下僕にするだの言っている三人は、全員が控えめに言ってセックスがしたすぎる程の美女である。

 このまま黙って気絶した振りを続けて、誰かのものになるのも些かも吝かではない。


 ……が、やはりそれでは人の道に反するというものだろう。


「やるニャ!?」

「ああ、やってやる!!」

「やってやりますわよ!!」


「待ってください!!」


 ついに一触即発の様相を呈した所で僕は声を発した。

 今まで僕が気絶しているものとばかり思っていた三人は心底驚いた顔をしていた。


「オマエ、目が覚めてたニャ?」

「はい。覚めておりました」

「……ならそのまま逃げればいいのに」


 鬼のお姉さんが尤もなことを言う。でも、愚を犯してまでも僕は彼女たちに言わねばならないことがあった。


「ハッキリと言います。僕はあなた方全員とセックスしたいです!!」

「「「!!」」」


 三人全員が驚きの表情を浮かべた。僕が余りにもストレートなことを言っただろう。

 一つだけ弁明させていただくと、僕は誰にも彼にもセックスしたいという己が欲望を晒したりはしない。

 これを聞いて読者の皆様はこぞって「お前、神様に向かってセックスセックス言ってたじゃん」と、突っ込まれたことだろう。でもあれは神様相手に心を偽る必要がないと思ったからである。そして、今回の場合はこれを言わねばならないと使命感めいたものを感じたからである。


「あ、貴方、自分の言ってることの意味わかってるんですわよね?」

「ええ、わかっていますとも。わかっていながらも僕はあなた方とセックスがしたい!」

「なら、早速……」

「でもしません!!!」

「「「!?」」」


 再び三人が驚愕の表情を浮かべた。

 それも当然だろう。したいと言ったりしないと言ったり、僕の発言は支離滅裂を極めているからだ。


「お前、頭おかしいのか?」

「おかしいのはお姉さんたちです! 僕はセックスしたくて溜まらないのに、あなた達とはセックスしません! なぜか? あなた達とは愛し合っていないからです!!」

「「「?!」」」


 三度目の狼狽が三人を襲った。僕は真剣なまなざしで三人の顔を見渡した。


「身体と身体を重ねるのは神聖な行為です。愛を確かめ、高めあう行為です。故にそこに至るまでの道程が重んじられるべきなのです! 僕はそれがわかっているから、あなた方がどれほど魅力的な女性であっても、みだりに性交渉など致しません。だと言うのにあなた方は、誰が先だの、後だの言って、僕の気持ちを蔑ろにする! それは許される行為ではありません!! 人の気持ちを慮ってください!!」


 僕が捲し立てると、彼女たちはお互いの顔を見合わせた。きっと自分たちの先ほどの行いを恥じているのだろう。


「……確かに貴方の仰る通りですわ」


 シスターのお姉さんが穏やかな口調でそう言う。

 ああ、流石は神に仕える身の上の方だ。悪魔っぽい印象の尻尾を生やしているので良からぬ偏見を持ってしまったが、話せばわかってくださる。


「理解できますが、こうなったらどう致しますの?」


 シスターのお姉さんがクイっと鬼のお姉さんを顎で指す。彼女は壁に立てていた斧を僕の首筋に添えた。

 どうやらあのシスターのお姉さんは悪魔に違いないらしい。

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