十二番星 それぞれの思い⑥
「はい。命がけで儀式の手助けをしてくれた方に対して沈黙を
「……え?」
わたしとイルの声が重なった。
イルも知らなかったらしく、レイトさんに
「それは……初耳であるぞ。レイト」
「予め申し上げては、試練になりませんしね。考えてもみて下さい。他星の方から力をお借りすることが禁止されているのなら、陛下は玉座に
確かに非常事態とはいえ、わたしは儀式に手を貸した。
そのことについて、女王様は
イルを見る。するとイルは難しい顔で、何かを考えてるようだった。
そんなわたしたちをよそに、レイトさんは続ける。
「そして、こうも申されておりました。ツキハ様」
レイトさんはわたしに対し、
「危険な目に
「あ、頭を上げて下さい、レイトさん! その、お母さんが自分の子どもに対してすることにしては、ずい分
それなら、わたしが怒ることじゃない気がする。
それに何となくだけど、イルのお母さんはイルを信じていたからこそ、あんなことが出来たんだと思う。
話したのはほんの少しだけど、今のレイトさんの言葉からしても、イルのお母さんはちゃんとイルのことを思ってるって……そう、感じたから。
「陛下の御考えを、従者の自分が推し測るのは度を越えたことかも知れません。ですが、自分としては」
レイトさんは頭を上げ、わたしをまっすぐ見る。
「御自分のお子であられる、イルヴァイタス王子殿下と初めてエンカウントしたのがあなたで良かったと……そうお思いになられてることは、確かだと思います。そして
レイトさんは今度は土下座じゃなく、わたしに目線を合わせてから、深々と頭を下げた。
「……いえ。あの夜があったから、わたしはイルやカァと仲良くなれたのかも知れませんし。それにレイトさんのことを信じられたのは、イルがあなたのことを一番の味方で理解者だって言っていたからです。ね? イル」
そう言っていた本人に問いかけると、イルは顔を真っ赤にして、まくし立てた。
「べ、別にレイトだけが味方とは言っておらん! 第一だな、こやつは
「ふむ。そこまで御信頼いただくとは……
「やかましいわ!」
レイトさんがからかうような口調で言うと、イルはぷいっと、そっぽを向いてしまった。
インギンブレイって言葉はわからないけど、確かにレイトさんはイルに対しては、丁寧なんだけど、気安い口調のような気がする。
まるで、兄弟みたい。
「それよりレイトよ!」
イルがケーキの乗ったお皿を、レイトさんの前に突きつけた。
「このケーキ。表面や中身は
「さすがは殿下。確かにそのケーキはピースではなく、ホールでお預かりしました。ですが、皆様ご満腹とのことなので、殿下にだけお持ちしたのです」
それを聞いたわたしは手を
「あの……レイトさん。わたし、ケーキくらいなら食べられますよ。イルのお祝いに、わたしも参加したいし」
「……ツキハ」
「そうね。甘い物は別腹っていうし。ね? 明くん。父さんと母さんも食べられるでしょ?」
「まあ、ケーキの一切れくらいならな。母さんと明くんは?」
おじいちゃんの言葉におばあちゃんが
「承知しました。では、しばしお待ちを」
台所に向かうレイトさんの背を、待て、とイルが呼び止める。
振り返ったレイトさんに対し、イルがちょっと赤い顔で呟くように言った。
「その……レイト。汝も
レイトさんはにっこり笑い、承知致しました、と言って台所に消えていった。
その後ろ姿を見送ると、パパがわたしのほうに向き直り、ちょっと怒った顔で言ってきた。
「ところで月花。イルくんの手助けをしたのはいいとして、危険な目って。一体、どんなことをしたんだい?」
「……あ。えーっと……」
そういえばパパに買って貰った傘を壊しちゃったことも、言ってなかった。
困っていると、レイトさんが片手にホールケーキ、もう片手には重ねたお皿にフォークと、カット用のナイフを乗せて戻って来た。
「アキラ様。それは、ケーキを
「なっ……いや確かに、責任は当にあるが! しかしレイトよ。王子に丸投げとは、いい度胸であるな!?」
「お
レイトさんがケーキにナイフを入れながら、涼しい顔で言う。
「褒めとらんわ!」
「まあまあ、イル。パパも」
レイトさんが取り分けてくれたケーキを手に、二人をなだめる。
「わたしからも、ちゃんと説明するから。……謝らなきゃいけないこともあるし」
レイトさんがケーキをお皿に移し、みんなに渡してくれる。
そしてレイトさんは次に、飲みものとグラスを持ってきてくれた。大人たちにはシャンパン、わたしとイルにはジュースを注いでくれる。
そういえば、レイトさんの正確な年は知らないけど、アルズ=アルムでは成人なんだろう。
だからシャンパン……お酒なのかと思っていると、レイトさんは職務中ですので、と言ってジュースを選んでいた。
とにかく、みんなに飲み物が行き渡ったか確認していると、ママがわたしを
パパも頷く。
……えっと、音頭? を取れってことだよね。多分。
わたしはグラスを顔の高さまで上げて、口を開いた。
「イル。今さらだけど、儀式の成功おめでとう! それと……」
お母さんとも仲直り出来て良かった、と言おうとしたけど……別に、
ただちょっと、話し合う機会がなかっただけで。
それは、お姉さんであるカァにも対してもそうだけど……王政? がなくなったら、カァとももっと話が出来るようになるんだろうか。
……そうだったらいいな、と思う。
アルズ・アルムが民主制になることで、イルたちにどんな変化をもたらすかはわからない。
でもイルのお母さん、女王様は、王家の人間ということでイルやカァに不自由を感じさせたくなかったんだろう。
もちろん、それだけが民主制に
わたしはここで祈ることだけしか出来ないけど……みんなが笑って暮らせるアルズ=アルムになって欲しい。
そしていつか、地球とアルズ=アルムの人たちが友達になれる星にもなって欲しい。
女王様がそう、願ったように。
だから今は、大きな声で、一番の願いを声にする。
「──これからのアルズ=アルムが、もっと良い星になりますように! 乾杯!!」
「──乾杯!!」
ちぃん! と、みんながグラスをぶつけあう音が響き渡った。
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