第33話

 合宿2日目。体育館の外では、すでに蝉の大合唱が始まっている。今日はとても暑い1日になりそうだ。

 朝ごはんは、萩原先生が倉庫みたいな大きなスーパーで買ってきた、マフィン、ベーグル、ディナーロール。それにコーヒーとヨーグルト。デザートにくし形に切り分けられたオレンジまで用意されている。

「萩原先生の朝食ってこんな感じなんですか?」

「あ、ああ。そうだな」

「おっしゃれ~」

「いや、奥さんが用意したんだけど」

 先生が慌ててる姿はなんだかかわいらしい。

「先生、僕、コーヒー飲めないんですけど」

「こっどもー!」

 斉藤先輩がすかさず突っ込む。

「ああ、牛乳もあるからそれを飲みなさい」

 わたしは、緊張していて昨晩のチーズタッカルビのようにはうまく食べることができなかった。

「高階さん。マフィン食べないなら、僕もらってもいいですか?」

「いいよ、あげる」

 手付かずのマフィンを蜂飼くんに手渡す。蜂飼くんはひょろっとしているのに結構食べる。

「高階、フォトグラファーには体力が必要なんだぞ」

 萩原先生の言葉に曖昧に笑うわたし。

 片付けが済むと、軽いストレッチの時間がもうけられる。

「写真の撮影に必要なのは、絵心やセンスだ。しかし、やはりある程度の体力や運動神経も必要だ。三脚を構えてどっしり撮影するスタイルもあるけれど、それはもっと歳をとってからでいい。今は自分の足で構図を決め、トリミングに頼らず、よい写真を撮ってほしい」

 ストレッチが終わると、いよいよ今日の課題が発表になる。

「それでは課題を発表する。

 今日は校内を探索し、出会った3人のポートレートを撮影すること。できれば面識のほとんどない人を撮影すること。事前の連絡は禁止。部活などで学校に来ている人物を撮影すること。それが課題だ。時間制限は3時間。撮影し終わったらメモリーカードを提出すること。オレがその中からベストと思われるものをチョイスする。それをプリントして講評会を行う。カメラは、斉藤のものを蜂飼が、蜂飼のものを高階が、高階のものを斉藤が使うこと。

 これも大会に向けての準備だ。大会では前日に支給されたカメラを使うことになる。だから臨機応変な対応力が問われる。

 まずは、自分の設定をメモしなさい。そしてその後、カメラを初期化すること。撮影は撮って出しのjpg画像のみ。カメラ内での加工も禁止。メモリーカードはこちらで用意したものを使うこと。容量は4GBしかないから、そう多くは撮れないぞ。さあ、始めてくれ」

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