第6話
わたしたちは、それぞれ自分のスマートフォンで家族に連絡を取る。少し遅くなる、マダムの家でお茶している、とメッセージを送った。
「このスコーン、マジでおいしいわ。あ、スマホで撮るの忘れた。フィルグラにアップしたかったぁ」
文月は悔しがりながらも、食べる手は止まらない。
文月の言っているフィルグラというのは、フィルムグラムという写真を投稿するタイプのSNSで、綺麗な写真や可愛い写真には『いいね』のハートマークがたくさんつく。わたしもいちおうやってはいるけれど、なかなかいいねの数は多くならない。絶対、文月の写真よりもいい写真なのになんでだろ。
「ヒーコ、こういう食べ物の写真とかをアップすればいいんだよ。そうしたら、映えーとか言われて、いいねがいっぱいつくよ。あと、タグね」
「タグ?」
「そうハッシュタグ。その付け方がヒーコ甘いんだよ。みんなに拾ってもらえるように、たくさんつけなきゃ。英語でも」
「ふうん」
タグ付けかあ。今度ちゃんとやってみよう。いいねの数は多くても20個くらいしかつかないわたしだけど、やっぱりフィルグラでバズってみたい。通知が止まらないっていうのはどんな気持ちなんだろ。そこまでいかなくても、せめて周りの友達並みにはいいね、もらいたいなあ。
クラスメイトの間でもフィルグラは流行っていて、みんなだいたいスマホで撮った写真をアップしている。その点、わたしは写真ガチ勢なので、フルサイズのミラーレスカメラを使っている。といってもこれはデザイナーをやっているお兄ちゃんのおさがりなんだ。レンズ交換式の本格的な一眼カメラで、わたしは2本のレンズを持っている。どちらも単焦点のレンズ。単焦点ていうのは、ズームすることができないから自分の足で動いて画角、写真の写る範囲を決めなくちゃならない。でもその方が写真が上手くなるってお兄ちゃんに教わった。1本は50mmの単焦点をお兄ちゃんからゆずってもらった。50mmっていうのは、人間の視野に近い焦点距離だから、標準レンズと呼ばれている。もう1本はどうしても花の写真を撮りたくて、マクロレンズを自分の誕生日プレゼントに買ってもらった。いや、誕生日まで待ちきれなくて(だってまだ8ヶ月も先だったから)誕生日の前借り、というのをしてしまった。マクロレンズは、小さな被写体をクローズアップして撮影することができるレンズのこと。花や昆虫を撮影する人には必須のレンズだ。そしてこのレンズ、6万円もしたから一生ものだって思ってる。
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