第10話 異能研修午後の部①
「ふわ~あ」
12時過ぎ、大学の建物から出てきた俺は、両手を天高く突き出して伸びをした。
すると、石原が口を開いた。
「次は、自由行動か」
「そう言えば、そう言ってたな」
確か、ここから少し行ったところにあるという商店街に行くんだったか。
携帯でパッと調べてみた限りだが、家電小飯店や古着や、カフェなど様々な店が入っているようだ。
バスに乗りこんだ俺たちは、少しして目的地へと着いた。
バスを降りて、すぐに声を掛けられる。
「浅野。石原と一緒に回るんだろ?俺もついてって良いか?」
星衛だ。
「良いけど。お前、他にもっと仲いい奴いるだろ?良いのか?」
「ああ」
俺は首を傾げるが、星衛が良いと言う事なので一緒に行くことにした。
というか、石原と一緒に行動するのは、確定なのか。
「あれ?浅野。星衛も一緒に行くのか?」
不意に、横のコンビニから飲み物片手に出て来た石原が口を開く。
今から、どうせ買い食いする癖にコンビニとは。
「ああ。お前もいいよな」
「もちろん」
「悪いな」
星衛が入ることに、何の戸惑いもなく石原は了承した。
そもそも、こいつは俺の監視でなきゃ、友達が多いから俺と組む様な奴じゃないから抵抗もくそもないのか。
「お、コーヒーあんじゃん」
不意に、石原が持っているのが、ホット珈琲であることに気付いた俺は、遠慮なくもらうことにした。
缶ではなく、コンビニ特有のカップのやつだ。
「お礼も言わずに飲むなよ。星衛も飲むか?」
「いや、俺はブラック飲めねぇし。つーか、それは石原が飲むつもりで買ったんだろ?」
「まあな。でも、どうせ、そこらにカフェくらいあんだろ」
そう言って、石原は珈琲に口を付けた。
そんな話をしつつ歩いた俺たちは、歩き出した。
ただ、鼓牛観音まで続く参道にある商店街と言ったが、参道の前に寺院についてしまったようだ。
というか、コンビニから一分も経たずに、左手に現れた。
「寺院に向けて歩こうかと思ったんだが、反対側だったか」
「でけぇな」
「お!鳩のエサやりできるってよ!浅野、星衛!」
ただ、そんな寺院には目もくれず前方にあった鳩の餌が置かれた場所を石原は指を指した。
「そんなのだれが──」
やるんだよ、と言おうと思った瞬間、餌の販売所近くに、異様に鳩が集まりだした。
「めっちゃ、来てる!?」
「ありゃ、中学生か。撒きすぎだろ」
遠足か何かで来たのだろう。
金にものを言わせた課金によって、通行が困難になるほどの鳩を餌で呼び寄せた。
まあ、普通に迷惑だし、邪魔だ。
ただ、注意する気にもならないし、さらに言えば、注意したところで鳩がいなくなるわけではない。
そう思って、俺たちは、鳩の間を縫って商店街へと入った。
「平日の昼間だってのに、賑わってんな」
「制服着た学生も多いし、俺たちと同じような感じなんだろうな」
「外国人も多いし単純に観光ってのもありそうだな」
確かに、よく考えれば、観光客向けの施設としてはとてもレベルが高いだろう。
先ほどの寺院があるのもそうだが、多国籍的な店も多く入るここなら、時間も簡単につぶせるだろう。
「お!あれ食べてみようぜ!」
「台湾唐揚げ?」
「辛いのは得意じゃないんだよな」
星衛がそう言って見るのは、赤い粉が掛かった唐揚げの写真だった。
上手そうだが、見るからに辛そうな食い物だ。
だが、結局、石原が辛さ0もあるという表記を見つけたため入ることになった。
とりあえず、辛さのレベルは10あって、普通が5らしいのでそれを頼む。
星衛は、0を頼んでいた。
「意外だな。星衛は10とか頼む様な人間だと思ってた」
「そうか?俺としては、辛いのも苦いのも無理だから、そう言うのは出来ないんだよな」
「その代わり、甘いのは大好きだけどな」と言って笑った。
そして、二人でそんなことを話していると、石原は元気よく注文をしていた。
「10でお願いします!」
「10ですね~。かしこまりました」
そして、暫くして透明のプラカップに入った唐揚げと共に石原は俺たちのつくテーブルへと歩いてきた。
つくと言っても、テーブルの構造上、椅子はなく完全に立った状態ではあるのだが。
「うわ!真っ赤じゃん」
「石原、すげぇな」
俺たちはそう言って、唐揚げを食べ始めた。
石原は、俺の雄姿を見てくれと、俺たちが一口目を食べるのを待つようだ。
「って、辛っ!?」
「うっ、これ本当に0なのか?普通に辛いんだけど」
俺たちは、同時に口をつけてそんな感想を漏らした。
というか、0でも、辛いって何なんだ?
ふと、俺たちは、石原の唐揚げが乗ったプラカップを見た。
「石原、死ぬなよ」
「遺言なら聞いてやる」
星衛は、石原を励まし、俺は石原の最期の言葉を聞くことにした。
俺たちの関係は、監視する側とされる側と言った奇妙な関係ではあったがなんだかんだと言って、今まで付き合ってきた。
その思いに免じて、今日だけは聞いてやろう。
「ふっ、楽しかったぜ。二人とも。……ええい、ままよ!」
石原は俺たちに最期の言葉を残して旅だった。
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