第9話 異能研修午前の部②
トイレ休憩を終えた俺たちは、再び歩き出した。
「では今から、異能棟に案内します」
そんな声と共に、俺たちは校舎から出て異能棟と呼ばれる建物へと入った。
床をコツコツと鳴らしながら、俺たちは進む。
先ほどまでいた校舎は温かみがあったが、こちらの建物は冷たい印象を与える。
「まるで、工場見学だな」
「まあ、たしかにな」
この建物は、工場のような冷たさを感じさせるが、それ以上に、俺たちが歩く道の側面はガラス張りで、そこから実験などを行う姿を見れるのは、やはり、工場見学で、稼働する機械を見下ろしているような気分になる。
そんな風に、話していると、神園さんは立ち止まった。
「ここでは、魔物、妖怪、怪異と言った、異能ではないものの、深く関係したそれらの研究を行っています」
ガラス越しに見れば、確かに、妖怪変化の類の実験をしているのが分かった。
機関の十八番であろうそれを見ても石原はなんの反応もしなかった。
それは単に、機関として、反応することの意味の無さから来ているのか、それとも機関の研究と比べれば
「それに関しては、私より詳しい、こちらの方に説明してもらいます」
「どうも、
こちらも学生なのだろう。
笠谷と名乗る若い男は、前にでてきた。
The研究職みたいな見た目をした彼は口を開く。
「この先、扉を超えた先が、僕たちが研究をしている部屋になります。ここでは、霊の研究をしていますが、もし、霊に対して、何かトラウマがあったりする方がいれば、先に言ってください。その場合は、こちらで待機してもらいます。霊自体は、危害を及ぼすようなものではなく、こちらへの接触も不可能ですので、危険はありませんのでそこは安心してもらって構いません」
「一応、みなさん大丈夫だとは、学校の方から伺ってますが」と、彼はつづけた。
だが、万が一の場合もあると、彼は確認をとった。
俺としては、あの日肝試しをしたメンバーが気になるところだが、佐崎をはじめとした面々は特におかしな様子もない。
まあ、異能蔓延る現代社会で、幽霊と遭遇したくらいは、大したことがない部類に入るのは確かだが。
「では、行きましょうか」
そう言って、今度こそ、笠谷さんは扉を開けた。
彼が、扉のロックを解除すると、皆がそれについていく。
そして、彼は、間を繋ぐためか、口を開く。
「今回、第六異能教育高等学校の皆さんは、午前中は、皆さん、普通科の方々、午後は、異能科の方々を案内する運びになってるのですが、僕自身、高校時代異能科でしたので、皆さん普通科の方々の、霊に対する印象がどんなものなのか分からないので、教えてもらいたいのですが」
確かに、異能科と普通科は、異能と言う面に関しては、全く違うと言えるほどに、カリキュラムが違う。
だから、霊に対して、説明するにしても、どこまで、知識があるのかというところは、分からないのだろう。
「じゃあ、誰か。霊について知ってることを教えていただけますかね」
笠谷さんは、そう言って佐崎を指名した。
確かに、めちゃくちゃアピールしていたこいつに振るのはおかしくない話だろう。
「はい。霊とは、元々、政府の異能宣言前に、世界各地で目撃例が出ていた魔物や妖怪の中の一つで、そのなかでも、妖怪に含まれるものが霊です。そして、異能の影響によって、もっとも、発生しやすいのが霊ですが。その多くは、一般的には、早期発見されて、被害が出る前に治安維持組織によって処理されます」
一般的、と佐崎がつけたのは、自身の体験によるものだろうか。
ふと、そんなことを思うが、誰もつっこむこともなく、聞いていた。
「その認識であってます。まあ、この辺は、科が違っても、認識はあまり変わりませんね。では、これを見てください」
そう言って、脚を止めた彼が見せたのは、ガラス張りの部屋であった。
一人暮らしの小さな部屋くらいの大きさの空間にそれは居た。
妖怪変化、そのなかでも、霊に分布するものだろう。
その、見た目はズタ袋のようで、そこらにいれば一瞬布切れと勘違いしてしまうそうなほどだ。
俺は、その霊の様子を伺った。
恐らく、前回肝試しの時に会ったトカゲと同じだけの、察知能力は有していない。
夜白姿を知覚すれば、とうに何かしらのアクションをしている。
まあ、そもそも、妖怪変化に対する対策をされているこの空間で、夜白姿に何の影響もない事から分かる通り、しようと思えば、気配を消すかのように身をひそめるくらいはできる。
「今回、皆さんに見て頂くのは、いわゆるポルターガイストの実演ですね」
ポルターガイストと言えば、ものが勝手に動いたりと言ったアレだろう。
『新死鬼』であった犬を浮かせる奴もそれに入ったりするのだろうか。
「ポルターガイストと言う言葉を知らないって方は、いないとは思いますが、一応説明させていただくと。例としては、イギリスのテッドワースで起きたポルターガイスト現象でも、日本で1741年から1748年に起きた『古今雑談思出草紙』に出てくる話でもいいのですが。まあ、簡単に言えば、誰も触ってないのに、物が動いたり、音がなったり、あとは、発火したりですかね。そう言った現象のことを言います」
そして、それはどういう原理で起きているのか。
それを、可視化して見せてくれるのだろう。
「大抵、歴史上で起きた、それらの現象は勘違い、または、偶然の産物といったことも珍しくないです。ですが、それでも、実際に霊の干渉によって起きていたのは事実です。では、どのようにそう言ったことが起きていたかと言えば」
そう言いながら、部屋に外側の壁につけられたコンソールを操作する。
すると、影が全くないほど照らされていた部屋の中に影が出来る。
白い床に置かれた小さなブロックの陰に、それは潜る様に潜んだ。
「まあ、ものによりますが、このタイプの妖怪変化であれば、陰に隠れることが多いです。そして」
ブロックとは反対側、そこに置かれていたテーブルの上のティーカップが動いた。
そして、更に、笠谷さんが、操作をすると何かがスプレーのようにして部屋の中へと噴射された。
「実態のある手を、保護色のような機能を駆使して触っています」
透明であるだけで、実態がないわけではない。
それを証明するかのように、噴射されたナニカに着色された長い腕のようなものは、こちらにもくっきり見えていた。
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