エログロ上等世界でハッピーエンドを掴み取った俺、けどその後のことは何も考えていない件

みょん

お前たちはエロすぎるんだよ!!

 突然だが、俺は転生した。

 転生した世界はとあるゲーム作品……それはただのゲームではなく、エログロ上等の18禁ゲーム世界だ。

 この世界はあやかしと呼ばれる化け物たちが蔓延る世界だが、舞台は現代日本である――エナジーと呼ばれる特殊な力を持った者だけが妖に対抗することが出来るのだが、エログロ上等世界という設定のせいで魅力あるヒロインたちは見るも無残に犯されるだけでなく、目を背けたくなるほどの壮絶な死に方を経験したりする。


『……いや、この世界原作とか云々の前に終わってね?』


 もうね、この世界のことを理解した時点で俺はそう呟いた。

 だって原作とか物語に関わらない所でも凄まじい事態になってるし、一番ヤバイバッドエンドでは日本全土が妖に支配され、男は殺され女は苗床にされるとかいうクソみたいなエンディングだ。

 そんな世界で何の力も持たない一般人に何が出来る? 何も出来ずに殺されるだけ……あまりにも俺たち人間に対してこの世界は容赦が無さすぎて涙も枯れるよマジで。


『あなたに、力を――』


 しかし、俺には転生特典と言うべきかかなり強い力があった。

 強力無比なヒロインたちが束になっても勝てない最上級妖にさえ、余裕ではないが勝てるほどのエナジーが俺にはあったのだ。

 それを自覚した俺は暴れた……具体的に説明すると、ただでさえ残酷な世界であるなら、いっそのこと存在しないハッピーエンドを手繰り寄せちまわないかって感じで。

 そうそう、この世界ってハッピーエンドがないんだわ。

 だから俺はこのヤバイ世界に転生させられた腹いせも兼ねて、転生特典の力をフルに発揮してハッピーエンドを掴み取った!


『やった……やったあああああああああああっ!』


 力に溺れて調子に乗ることはなかったし、何より誰かを守れるということに嬉しささえ感じていた。

 守ったことで感謝をされることにニヤニヤしたこともあるが、とにかく俺はヒロインを含め多くの人を助け……バッドな終わり方が約束されたこの世界で無事に、ゲームの黒幕であるラスボスを主人公やヒロインたちと協力して倒したのである。

 この間、目の届かない所では分からないが……少なくとも目に入った全ての人を守れた――時には無理難題すら打ち破り、絶対に死ぬと言われた攻撃さえも凌ぎ切り、何をしても死なないとされた妖を葬り、話が通じるなら敵味方問わずに手を差し伸べ……そうして俺はこうして未来を掴み取ったのだ。


『まだ完全に妖が殲滅出来たわけじゃない。けれど間違いなく以前よりも平和に、そして過ごしやすくなった……これも全部、正義まさよしのおかげだよ』


 なんて言葉を主人公からもらったりして、とにもかくにもハッピーエンドと相成った。

 ……だが、ここに来て俺は一つの悩みを抱くことになってしまった。

 原作が動いている中では生き残ること、助けることに必死で全く気にならなかったのだが、落ち着いた今だからこそヒロインたちのエロさがとんでもなく気になって仕方ない。

 いや、分かってたよ?

 ヒロインたちってみんな魅力的というか、エロいシーンとかが映えるようにとにかくエロいんだこれが。

 胸デカい、尻デカい、美人で可愛いとか……もうね、見てるだけで俺の息子が大変なことになりそうなわけよ。

 でも! 俺にとってヒロインたちはみんな助けた相手なのもそうだけれど、主人公と同じですっごく信頼してくれてんの! 心から信頼してくれている彼女らに欲情は……それはダメじゃねって思うわけ!


 だから最近の俺は、決して過ちを犯さないように徹底している。

 獣になってしまうかもしれない要素を悉く排除するため、色気をムンムンに垂れ流す彼女たちに欲情しないように週一で滝行に行くほどなんだからな!!

 毎夜毎夜、一人で自家発電に惜しんでも全然足りないとかこの世界の女共のエロさは……ヤバすぎるぜ。



 ▼▽



 ストーリーがハッピーエンドを迎えても、それからの日々はもちろん終わることはない。

 この世界に転生して17年で、今の俺は高校二年生だ。

 もうじき夏が来るということで友人の主人公やヒロインたちと海に行く約束をしたりしたけど……いやいや、あのエロい女たちと海だと? これは早まったかもしれないと悩んでいた時だ。


「あ、正義君!」

「うん?」


 屋上で黄昏ていた俺に声を掛けてきたのは眩い金髪の少女だ。

 大きな胸をぶるんぶるんと揺らすように駆けてくる彼女……なんで走るだけでこんなにエロいんですかね?


「どうしたんだよ愛華」

「どうしたじゃないでしょ! 探したんだからね!」


 ぷんぷんと怒った顔をする彼女は遠藤えんどう愛華まなかと言って、主人公の幼馴染でヒロインの一人だ。

 本来であればストーリーで死ぬはずの彼女……それも脳内を触手に喰い荒らされて廃人と化し、化け物を産み続けるだけの苗床になるかわいそうな子だが、もちろんこうして無事なのも俺が彼女の窮地に駆け付け助けたからである。


「最近、屋上に居ること多くない? ねえ何か悩みでも――」

「おい愛華、それ以上お前の色気を俺に感じさせるな」

「あるなら相談……へっ? 色気?」


 俺の言葉に、愛華はポカンとした様子を見せている。

 こいつ……いや、こいつだけじゃないがどうしてヒロインたちはみんなこうも……こうもエロいんだよ! 何回だって言うぞ!? 漂う色気がおかしいんだよどう見てもさぁ!


「なあ愛華、俺は今……とある悩みを抱えている。俺にとって、お前らは全員大切な仲間だ。この体がどれだけ傷付こうとも、どんな敵が現れようとも必ず助けると思うほどにな」

「う、うん……」

「お前は以前、俺のことをヒーローみたいって言ったよな? でもそれは全然間違ってる」

「何を……言ってるの?」


 もう言って良いか……良いよな言っちゃおう。


「もうさぁ……お前らみんな、エロ過ぎんか? 高校生にしてはあまりにも発育良すぎるし、エロいだけじゃなくて美人だしで目のやり場に困るんだよ! 俺はお前らのことを大事な仲間だと思っているし、これからも共に戦う戦友だとも思ってる! このままじゃ俺、狼になって欲望のままに襲っちまいそうだからこれ以上誘惑するな!」

「ゆ、誘惑……!?」


 ボフッと顔を赤くした愛華は、パクパクと口を動かしながら俺をジッと見つめ……そして何をとち狂ったのか、カッターシャツのボタンを外して谷間を見せ付けてきやがった!?


「っ!?!?」

「じゃ、じゃあ好きにすれば……?」

「好きに出来るかぁあああああああ!! ざけんなエロ乳女がよぉ!」


 そんな負け惜しみを口にしながら屋上からダッシュで逃げる。

 背後から聞こえる声に気付かないフリをしながら、俺は一目散に学校からも飛び出るのだった。


「はぁ……はぁ……はぁ……っ」


 向かった先は学校の裏山で、少し前までは大量の妖が住み着いていた場所だ。

 しかしこれもまた俺の頑張りもあって安全になり、ピクニックなんかをするにはもってこいの場所にまでなった。


「あいつ……何考えてんだ!?」


 ああいう揶揄い方が一番ダメだって教わってねえのか!?

 矢継ぎ早にカミングアウトした俺も俺だが、それに乗るように巨乳を見せ付けてくるのもどうなんだ!? もしかして主人公はこれを幾度となくやられてるってか!? 羨ましいなこの野郎!!


「……はぁ」

「ため息吐いてどうしたのよ」

「そりゃため息の一つや二つ……っ!?」


 突然聞こえた冷ややかな声に、俺は思いっきり飛び退く。

 その衝撃で木を二本くらいぶっ飛ばしたが、声の持ち主を見てなんだよとため息を吐く。


「お前……また現世に来たのかよ」

「悪い? 私にとってもう、あっちの世界はないようなものだもん」

「だとしてもいきなり出てくるんじゃないよ輝夜」


 地面に付くほどの長い黒髪を持つ妖艶な美女……明らかに人間ではない雰囲気を持つ彼女は現世うつしよ輝夜かぐや――彼女は別にヒロインというわけではないが、少々特別である。

 何故なら輝夜はラスボスの娘であり、ストーリー上でも何度か戦うことになるのだが……最後は暴走した父親に殺されるという悲しい結末と、かつて人間に犯されたことで、人に対する強い憎しみを持っていた子だ。


(生きてんだよなぁ……ま、助けたの俺だけどさ)


 まあほら、助けられるなら助けたいって思ったからさ。

 輝夜も例外なく死んでしまう運命だったけど、それも何とか回避して助けた……愛華たちには最初良い顔をされなかったけど、最終的には納得してくれた。


「ねえ正義、あなたは――」

「おい、お前は危険だ」

「……はっ?」


 そう、こいつは危険だ。

 戦力的な危険性はもちろんだけど、それ以上にこいつが持つムンムンの色気は他のヒロインたちの追従を許さない。

 流石ヒロインを押し退けて大量の二次創作が作られた女だ……エロさの凶悪度がダンチだぜ。


「お前のエロさは危険すぎる……こうして見ているだけでガリガリと理性を削ってくるその色気をどうにかしろ」

「……何言ってんの?」

「お前が妖で俺が人間とか知ったことか。襲っちまうぞ! それが嫌ならその豊満な胸の谷間と眩しいくらいの太ももを少しは自重しろ!」

「……ふ~ん? つまり私が襲いたいくらいエロい女って言いたいわけなんだ?」

「お前くらいだったら街中を歩いてても男からそういう目向けまくられるだろ? 俺だって例外じゃねえんだよ、最近心に余裕が出来たせいでみんなをエロく見ちまうんだ勘弁してくれ!」


 そうしてまた、俺はこの場から逃げ去った。

 愛華のように呼び止める声は聞こえなかったので、きっと輝夜はドン引きしていたに違いない。



 ▼▽



 輝夜にとって、彼は……正義はあまりに異質な存在だった。

 洗脳にも近い教育を父親からされていたとはいえ、そんな彼女でさえなんだこいつはと気になるほどには異様だった。

 まず強い……そして何より光に満ち溢れている。

 この絶望溢れる世界において、輝夜ら妖が支配するのも時間の問題とされていたこの世界において、彼はどこまでも強く……そして敵にすら希望を垣間見せるほどの光だった。


『輝夜、あの男は危険だ――早々に殺せ』

『はい』


 殺せ……無茶なことを言うものだと輝夜は何度も思った。

 何故なら父ですら簡単に手を出せそうにないほどの男……周りにも面倒な能力者が多いのに、どうやったら殺せると言うんだ。

 しかし何度も戦い、その中で何度も話した。

 正義は間違いなく人間だ……人間のはずなのに、どこか他の人間と違うのは確かだった。


『なあ、一旦俺とは激戦をしたって報告することにしない? もうすぐ行きつけのラーメン屋が閉まっちまうんだ……何なら一緒に行くか?』


 そんなアホなことも正義は言った……奢ってもらった。


『人間の世界も面白いこと多いんだぞ? ゲーセンとか行ったことないよな? 戦ってばかりだと疲れるし、今日の戦いはゲーセンでやろうぜ』


 ゲーセンと呼ばれる場所に向かい、数多くの激闘を繰り広げた……楽しかった。

 正義は……彼は本当におかしな存在だった。


『戦いばかりなのも疲れるだろ。つうか、こうやって話が出来るのに戦ってばかりなのがおかしいんだよ。ラブアンドピースを知らねえのか』


 本当に……本当に言動が頭おかしい奴だった。

 でも平和を求める心は確かで、人間に恨まれるはずの存在である輝夜に向けてくれる優しい視線と、温かな言葉はどうしてか……とても心地が良かった。

 彼は言った、何か助けてほしいことはないかと。

 父を殺され、戦いも決着した日の夜……輝夜は無茶ぶりを彼にした――自分はかつて、人間に犯された……この過去をなかったことにしてほしいと、そんなことを言ったのだ。


『分かった。じゃあ俺のよく分かんねえ最強パワーで過去に干渉してくるから』


 なんてことを口にした彼は、本当に過去に跳んで輝夜の体に降りかかるはずだった不幸をなかったことにした。

 流石に記憶は消せなかったが、体に残っていた烙印という名の汚された過去は無くなり、それを自覚した瞬間に輝夜が人間に持つ憎悪は完全に薄れていった。


『言ったろ? 俺に出来ないことはそんなにないんだぜ?』


 クソガキのように満面の笑みを浮かべる彼……輝夜はその時、胸を高鳴りを確かに感じた。

 そしてそれが、どんな感情であるかもすぐに理解した。

 彼は言った……お前らはエロ過ぎるから困ると、見せ付けるような胸と足が特に困ると……そして何より、他の奴らと違ってお前は特にエロいんだと言った。


「……ふふっ」


 その言葉は、輝夜が今まで言われてきたどんな言葉よりも嬉しかった。

 それなら話は早いじゃないかと輝夜は嗤う――男は女に色気やエロを感じた時点で、その瞬間に堕ちないことはあり得ないのだ。

 絶対に逃がさない……必ず手に入れる。

 お前の愛を手に入れ、私の愛を受け入れてもらう。

 そう思ったのはもちろん輝夜だけではないことを……まだ彼は、正義は何も知らない。


 これがバッドエンドが約束された世界に、ハッピーエンドを齎した彼に対するご褒美呪いなのだから。



【あとがき】


こういう話を落ち着いたら書きたいです。

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