第69話 裏市、出店、ちょー繁盛!





…………ひま〜。


既に椅子に座り自分の仕込み杖の手入れをしている。やることが無さすぎる。スマホがあればもう少し時間を潰せ、る…か?


ネットは圏外、ゲームも出来ない。やれることが少なすぎるか。いや、それでも出来ることはあるよな。充電さえ出来ればもう少し暇を潰せると思うんだけどな……。??また何か忘れてる?


………あ、この時間にゴレイチを外に出して狩りをさせるのを忘れてたな。まだゴレイチは文字が読めないからメモを送っても意味ないし、小さなゲートをゴレイチの頭上に作り。


「ゴレイチ。おーいゴレイチー」


「は、ハイ!……?何処にイルノでしょうカ?」


「気にするな。すぐに終わる。今から森に続くゲートを作るから、狩りを頼んだ。出来るか?」


「ハイ。ワカリました」


「そうか。ならゲートを開く。狙う魔物はオーク以上で頼む。オーク肉はいくらあっても良いからな。今はサンリアの飯も足りてるし、これ以上足す必要は無いだろう」


「はい。行って来マス」


「頼んだ」


これで良し。店は……まだ客は来てないな。ちなみに隣のザクハチの店はめちゃくちゃ繁盛はんじょうしてる。


まあ、納得だ。ザクハチの店から漂う暴力的なタレの匂いがそこらに広がっている。ザクハチの店で飯を買った客がちらっとこっちを見て、怪訝けげんそうな顔をしてすぐに離れて行く。

なんでこんなに売れないのだろうか……。


「おいマードゥ」


「?どうしたザクハチ。忙しいんじゃないのか?」


「そりゃ忙しいが、お前の店が全然売れて無いからな。お前の店の商品見せなきゃ客も寄り付かねぇんじゃないのか?」


「!確かに」


「お前の書いてる通りの値段だと、高額な商品を安く売ると騙して、粗悪品を売り付けるつもり何じゃないか。って思われても仕方ねぇぞ」


「確かに、そうだな。だがどうすればいい?実際に全部あるし、品質も問題ない。そのまま出したら盗まれる可能性が高くなるだろ。それと、値段が安めなのは裏通りの特別価格のつもりなんだが」


「カァーッ。商売ってもんを分かって無ぇなあ。実物を手元に置いとけば盗られる心配も無いだろう。特にお前なら盗まれる心配なんて、ほとんど皆無じゃねぇか。(あのスキルがあるだろ)」


ザクハチは『異界』のゲートのことを言っているのか。それにしても手元に置いとけば良いのか。薬草と野菜類はそのまま出して、俺に近い所に宝石と極白聖草を置くか。


「こんなもんか」


「こ、こりゃ…」


「ん?どうした?」


「なんだよ、こりゃぁ。野菜は光ってるし、白い薬草なんて見たことねえ。それになんだよこの宝石の数は。種類は豊富、数はめちゃくちゃだが俺でも分かるくらいの質の良さ。こんなところで売ってていいものなのか?」


「私が売っても良いと思ってるから売り物に出してるんだ。それに、普通に稼ぐだけだと面白くないだろ?」


「そ、そうか…。普通に大店で売れば大金になるのになぁ…。勿体無い………。あ、はいよ!肉が焼けましたよ!次の客!」


ザクハチは客の元に急いで戻った。俺が商品を見える所に置いた時点で、裏市の視線が一気にこっちを向いた。凄いな。大量の視線は重圧を感じるレベルにまでなるんだな。


特にフードを被った位の高そうな女性達が向ける宝石への視線が凄い。あ、来た。


「あなた」


「なんだ」


「……凄い態度ですわね。わたくしは客ですよ?」


「商品を購入していないお前はまだ客ではない冷やかしだ」


「む……、分かりましたわ。この店で買える、最も価値の高い宝石を用意してくださる?」


「お前は白金貨を用意しているのか?」


「そ、そんなに高いのですか!?」


「最も価値の高い宝石を求めたのはそちらだ。金があることを確認出来なければ売ることは出来ない」


「さ、流石にそこまでの大金は持ってませんわ……。では、金貨1枚で買える質の良い宝石を売ってくださるかしら?」


「どの宝石だ?」


「あ、種類があるのですね。……多いですわね。ではサファイアで」


「ではこれを。金貨1枚を支払えば渡そう」


「エ、あ。えーと、ご、護衛!これを『鑑定』して!」


「はい、お嬢様。……これは…」


「ど、どうなの?エ…護衛」


「はい。金貨1枚を支払われてもよろしいかと。確実にその価値があります。というかここで買わなければ後悔するかと」


「そ、そこまで…!……では店主。それを購入させていただきます」


「……ちょうど。布に包んで渡そう。布はおまけだ。確認しろ。盗まれないように気を付けておけ」


貴族の女性っぽい人から金貨を受け取り、ベビースパイダーシルクの布でサファイアを包み、護衛らしい人物に手渡す。


「……はい。確認しました。確かにサファイアを受け取りました」


「……あの…」


「なんだ?」


「店主の名前をお聞きしても?」


「……マードゥ。マードゥ・チャントスだ」


「チャントス様ですね。どうです?私の屋敷に来られませんか?」


(どう答えればマードゥ・チャントスとしての人物像を崩さずに済むか…)

「………」


「チャントス様?」


「すまないが、私は商売をしているのだ。いつまでもそこに居られると他の客の邪魔になる。答えはノーだ」


「……わ、分かりましたわ。邪魔をしてしまい申し訳ないですわ。エリ、んんっ、護衛。帰るわよ」


「かしこまりました」


貴族らしき女性は帰っていった。すると周りで近付けなかった人達が一気に押しかけて来た。


「わ、私に次の宝石を見せてください!」「いや、先に私よ!」「お前ら退けよ!俺が先に見る!」「僕に見せて!」「私に!私に売って!」


「………」一度商品を全て異界に戻す。


「な、今終わるのですか!?」「違う!少し待て」


異界から複数の木の板を取り出す。20枚ほど取り出し、その板に1〜20までの番号を書きザクハチに渡す。


「ん?なんだこれ?」


「ザクハチの店に来た客に俺の店、縁義理で商品を購入したい奴が居たらそれを渡してくれ」


「ああ、分かったぜ!」


いわゆる整理券だな。


「俺の店で商品を買いたい奴が居たら隣の店で商品を買ってから、整理券を持ってから並べ!」


群がっていた人間はザクハチの店に並びに行った。その間に俺は更に整理券を作成しておく。これ、ザクハチ過労死しないよな?

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