依頼内容

 ネスタはフルフェイスの鎧に身を包んだ騎士に導かれて移動する。

「あの、これどこに向かってるんです?」


 行先も告げられないまま連れ出されたので、どこに行くのか聞いてみたものの返事は帰ってこない。万が一の時のために、避難経路を探しておこう。そう思い立って周囲を見渡す。今歩いている廊下には額縁に飾られた複数の絵画が展示されており、いかにもお金持ちといった印象を受ける。また周囲には追加の護衛が居るというわけではなさそうだ。

(大丈夫。いざとなれば逃げられる)


 今までも危険と隣り合わせの世界を渡り歩いてきた、という自負・自信・実力からそんなことを考えていたが、現状そんな危険な目に合いそうな雰囲気ではない。目の前の騎士も、どことなく緊張しているだけのようだ。


 それからもうしばらく歩くと、とある扉の前で騎士が立ち止まった。建物の豪華な雰囲気とは似合わない、比較的質素な扉。

「ついてきてください」


 ネスタの返事を待たずに、そのままノック。「失礼します」という言葉と共に鎧ヲガチャガチャ鳴らしながら部屋に入っていく。

(先客がいるのか)


 騎士のその様子を見てネスタも同じように「失礼します」と声をかけて部屋に入る。


 部屋には綺麗にベッドメイキングされたシングルサイズくらいのベッドが2つ横に並べられ、サイドテーブルには花が活けてある。窓からは柔らかい日差しが差し込んでいて気持ちが良い空気で満ちており、何とも平和な空間が広がっていた。

(ここが俺の部屋か?ゆっくりできそうでいいな。しかし何故ここに?)


 本当であればこのままゆっくり昼寝でもしたい光景なのだが、ベッドの上に先ほどネスタに声をかけてきた2人、つまりおじちゃんAおばちゃんBが居るのでそうもいかない。豪華な衣装に身を包んだ2人が質素な部屋に居るだけで空気が綺麗になる錯覚を受ける。


「ここまで連れてきてくれてありがとう。お前は下がっていいですよ」

 おばちゃんBの言葉に「はっ」と覇気のこもった声で騎士は答え、部屋を出て行く。

「さて、これで3人だけになったな」

 ここでおじちゃんA、咳払い一つ。

「ではネスタ殿。依頼内容を説明しよう」

 そう言っておじちゃんAがこちらを見据えながら語り始める。


「娘がいてね。それはかわいい女の子で、現在クィルメン高等学校という学校に通っている。儂らもそこで出会ったんだ。学生の頃のカティも美しくてね。一目惚れだったよ……ゴホン、脱線した。話を戻そう。

 ともかく、儂らの可愛い娘も学校に通っているわけだが、最近国内で不穏な動きが合ってな。少々不安なのだよ。今までは護衛をつけていたが、先日退職してしまってな。そこで、歴戦の戦士である君に、娘の護衛をお願いしたい」


 護衛か。それなら可能ですお任せくださいと言いかけ、

「一つ質問よろしいでしょうか」

「なにかな」

「この任務。自分を呼んでまですべきことなのでしょうか。もしこの国の人物に依頼できない懸念事項があるようでしたら、事前に教えていただけますと幸いです」


 わざわざ自分をよんでまで達成する内容のように思えない。なにか裏があるのであれば、事前に教えてもらわなければ対策のしようがない。というかこっちは依頼を受けてる立場なんだ、懸念事項ななるべく取り上げておきたい。そう質問すると、おばちゃんBが満足気に答える。


「頭も回りますね。安心いたしました。ええ、年齢を考慮しても確かにこの国の勇士に頼むこともできるのですが……。お恥ずかしいことに、彼らはみなお馬鹿なのです」

(は?)

 頭に疑問符も浮かんでいたのだろう。困った表情でおばちゃんBは頬に手を当てながら続ける。


「駄目なのです。お馬鹿では。学校に通うというのは、人間関係の構築に関してもそうですが、学びを得るという側面もあります。私たちとしては、基本的に四六時中娘を護衛して欲しいのです。授業中も同じクラスで。」


 さらにため息をつきながら続ける。


「あの学校は学力別にクラスが分かれております。……娘は天才というほどではないにしろ、そこそこの頭脳を持っていますし努力家なので上位クラスにおります。それなのに彼らといったら、娘と同じクラスになるどころか、入学すら怪しいレベルなのです。」

「それで私を?」

 自分もそこまで頭がいい自覚はないが、大丈夫だろうか。


「はい。今回の召喚条件に、十分な頭脳と武力組み込みましたから」


 この国の勇士たちがそんなに馬鹿なのは大丈夫なのか?という疑問もよぎるが、今大事なのはそこではない。自分が召喚された理由を理解したネスタは今度こそ承諾の言葉を口にする。


「承知いたしました。ご説明いただきありがとうございます。ではこの任務、お引き受けいたします」


 うんうんとおじちゃんAはうなずいてこちらに近づいてくる。

「ではお主にこれを授けよう」

 そう言って手渡されたのは飾り気のない指輪。右薬指につけるようにと促される。そして咳払い一つ。


「わが娘のということで、これからよろしくな。ネスタ殿」


 そう言った。


「……は?」


「いいお婿さん、迎えられそうですねあなた」

「はい?あの、依頼は護衛では?」

「うむ。学園での護衛、よろしく頼むぞ?……そうだ、自己紹介をまだきちんとしていなかったな。申し訳ない」


 おじちゃんA、おばちゃんBが立ち上がる。


「ツァーグ・ヘズフォン・リオネヴィア。この国の国王を任されている。末永くよろしくな。」

「カティ・サラス・リオネヴィア。王妃でございます。娘をどうかお願いいたします」

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