晩秋の葬儀

ヨシナカユカコ

第1話 プロローグ

人の夢の話を聞くほど退屈で、聞く気を削がれるものはない。そうよく耳にする。

これは私にとっても切実にそうで「こんな夢見てさー」と話し出されると、たとえ愛する我が子であってもとても苦痛に感じる。

夢はごく個人的なものなので、その人にとってはとても意味のあることに思える。という理屈はわかる。

現に何か意味ありげだと思う夢を見たり、夢を見た後に不吉だと感じることは私にだってある。

嫌な夢を見て目覚めてすぐ「歯の抜ける夢 意味」などとベッドの中で検索することだってある。

そんなことをしていても、私は他人の夢の話は嫌いで退屈です。

これはこの話をする前に、声を大にして言いたいのだ。

嬉々として自分の夢の話をするような女だと思われたくない、というちょっとしたプライドが発生している。のかもしれない。

それは、今からここで夢だと思われる確率が高い話をしよう、としているからだと思う。

そしてもう一つ。

もしこの話を聞いてくれる方がいるなら、もう一つだけ先に言っておきたい。

私は霊の類は信じていない。ただし、エンターテイメントとしてのオカルトは好きである、ということ。

急に何を言っているかと思われるだろうが、これはちょっとこの後の話に関わるかもしれないのだ。

物心つく頃から妖怪やお化けが大好きで、母はよく「あなたはいつも図書館でお化けの本を借りていた」と話す。おそらくお化けの本ばかり読む娘をちょっと心配していたのでしょうね。

今でも角川ホラー文庫をチェックするのは本屋におけるルーチンだし、ホラー映画は週に1〜2本は観ている。

お気に入りの映画を仕事のBGMとして流すことだってある。

若い頃はもしかして私って視える体質なのかしら?と思ったことだって大変恥ずかしいが、ある。あらためて思い返すと本当に恥ずかしいですね。

すみません、若気の至りということにしておいてください。


しかし、今は全く信じていない。何より恐ろしいのは人だし、またお金がない事である、と考えるアラフォーのおばさんだ。

お化けに関わっている暇のないお母さんだから。というのもあるかもしれない。

仕事や家事、娘のことであっという間に1日が過ぎていく。

お化けだけでなくオカルトに関連したことで言うと、占いやおまじないを信じて行動したら、騙されて大切なお金がなくなってしまうとも思っている。

また現在はそこそこ満たされていて見ず知らずの誰かを頼るほど困ってはいない、というのもあるだろう。

とにかく私は幽霊やオカルトなんかより娘の成績や習い事や、自分の仕事が気になる。

そう思って毎日を生きている。

余談だが、毎週ラジオを聴いている有吉弘行氏のオカルトや占いに関すえる考えについては共感の嵐だ。

もちろん私がいうまでもないけれど、有吉氏の鋭さと優しさ、バランス感覚や何を恥ずべきかと思う感覚などは至極真っ当であり素晴らしすぎると思う。

生意気にすみません。


だから、である。

私はオカルトをエンタメで楽しむことはかなり好きだけれど、全く信じていないタイプと言いたい。

しかしこのタイプであるが故に、不可解すぎて誰かに話したいことが起こったのかもしれない。オカルト好きという「下地」があるから。

なんでも結びつけて「伏線回収」するのは好きではないはずなのにである。少し前にありましたよね、怒涛の伏線回収ブーム。


先に言っておきたいが、この話はそういったものではないと思います。

どんでん返し的なことは起こっていないと思うのです。

ただ単に「何これ?」ということが自分の身におきたので話したい。

その一心で今、ここにいます。


しかし、だ。

しつこいようだが、私に何が起こったのか処理しきれてはいない。けれどそれよりも日常生活が遥かに大切なことに変わりはない。

家族と日常を送ること以外に私にとって重要なことはないし、特に自分の感情を優先したい訳ではない。

ただ、私はきっと「まあいっか」でこの話を済ませてしまうと思うのだ。月日が経てば経つほどに。

元から寝たら忘れるような性格をしているし、クヨクヨ悩むことができない。

だから。

私はこのことを「そんなことがあってさー、まあ夢だろうけど」と思うに違いないのだ。かなり近いうちに。この話を適当に片付ける自分しか想像ができない。

「バタバタして忙しかったゆえに記憶が曖昧になったアラフォー小噺」として笑って済ませてしまうかもしれない。

いつもだったらそうしていた。


だけど、今の私はなぜか誰かに話したい。

この熱が続くことは短い、ということを自分の性格上知っているから妙に急いでいる。

別に大きな事件は起こっていないけれど、自分の生きてきた中で結構なトピックにはなるかもしれないから。

自分勝手な自分語りだから恥ずかしいけれど、どうしても話したいのだ。

だからそう、やっぱりこれは夢の話に酷似している。


SNSで公開するようなマメさもない。そもそもフォロワーなどがいて交流するタイプではなくいわゆる「見る専」なのだ。

どこにも行く宛のないこの話を、ここで聞いてもらいたい。女性によくある話を聞いてもらうだけでいい、というやつなんだと思う。

きっとそれだけ。

途轍もない長い前置きですみません。順を追って話しますね。

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