○○をしてきたお姉さんが少女になってしまったので、僕が責任を持って彼女と同棲しようと思います。

神野 兎

第1話 どっちが悪い?って聞かれたら多分向こうが悪い

「やばい。ギリギリだ」


 鳳まつりは大学に通うため、いつもと同じ電車に何とか乗り込んだ。

 この時間帯の電車は通勤 通学ラッシュと重なるため車内はかなり混雑する。

 何とか入れても、すぐにおしくらまんじゅう状態になってしまう。

 そんな中、まつりは壁際に追いやられ、身動きが取れず、つり革や手すりも掴めない状況だった。


 こんな時、まつりには必ずしていることがあった。

 痴漢冤罪を防ぐため、まつりは必ず手を前にする。背負っているリュックサックの上に手を置いて痴漢だと誤解されないよう、未然にトラブルを防いでいる。

 ただ、そんな時だった。

 誰かの手がまつりの股間辺りをフェザータッチしているのだ。


「いや、気のせいか」


 まつりは心の中でそう思った。

 だがしかし、確実に当たっているというレベルではなく揉まれている。

 唐突なことでびっくりしたまつりは思わず「うっ」と変な声が漏れた。


 突き刺さる周りからのまつりへの視線。

 そんな周りを尻目にまつりは犯人探しを始めることにした。


 まず隣の男の人か。

 いや、違う。男の人も左手で鞄、右手で手すりを持っている。

 じゃあ、反対側の女の人。

 女の人はスマホを持っており、もう片方の手も見える状況だった。


 じゃあ……犯人はただ1人。

 まつりの前にいるむちゃくちゃ美人なOLさんのような人に違いない。

 まつりのリュックサックが死角となり、まつり以外からは完全に犯行現場が見えない。

 ましてやまつりにすら見えてない。


「あのーすいません。当たってますよ」


 まつりは意を決して女の人に声をかけた。


「あぁー。ごめんなさい」


 ごめんなさいという言葉だけの返事だけで終わり、手はそのままであった。

 いつの間にか女の人の左手はまつりの手をつかんでおり、今度は自分の方へと手を持っていく。


 尻、腰、と段々上がっていくまつりの手。

 まつりにとってその手触りの感触はなんと蠱惑的で淫靡なものだったのだろうか。

 そのまま胸辺りまで手を連れ去られた時、確実に女の人のもう一方の手によってまつりのチャックはあけられていた。

 中へと侵入する女の人の手。

 これはやばいとまつりは逃げようともがく。

 しかし、ここは満員電車。

 下手に動けばまつりが痴漢をしているがわと見られてもおかしくない状況だった。


(ダメ……ダメだ)


 まつりがもう理性の限界に達した瞬間。

 後ろのドアが開く。

 まつりにとってここがチャンスであった。

 唯一この場の状況から逃げられるチャンス。

 それを逃すまいとまつりは無理やりその駅に降りようと後ろに後ずさりする。

 もちろんまつりの手を掴んでいた女の人ごと。


 降りたまつりたちを置いていくようにそのまま電車は出発する。


 ふたりが降りた駅はほとんど人の出入りがない珍しい駅。

 降りる人も2人しかいなかった。


「あなた、何してるのよ」


「何って、あなたこそ何してるんですか? あなたがやっていること痴漢ですよ痴漢」


「してないわよ。それなら証拠を出しなさい。あなたこそチャック開けて私のこと襲おうとしてたんじゃないの」


 普段あまり揉めたり、怒らないと自称しているまつりでもかなり怒った。

 チャックをジーと上げながらとても怒った。


「はあ? な、何言ってるんですか?」


 あいにく、怒り慣れていないため言葉は少ししどろもどろであった。


「私今から行くのでもういいですか? こんなこと二度としないでくださいね。では」


 まつりにとってはただ?しか浮かばなかった。

(なぜ、僕が悪者扱いされているのだろう)しかし、そんな考えをめぐらしているうちに既に女の人はもう階段の方へと行ってしまっていた。

 まつりは正義感の強い男だ。

 ここでこの女の人を逃してしまっては、必ず次の犠牲者が現れる。

 それだけは許しておけない。


「待ってください!」


 階段を上る女の人に追いついたまつりは腕を掴む。


「離して。離してよ!」


「ダメですよ。反省してください」


「助けてー。誰かーー!!!」


「ちょっとまっ」


「キャッ」


 揉めあった末、女の人がまつり諸共階段から転げ落ちる。


 まつりは(俺は痴漢犯で人殺しになって死ぬんだ)という考えが巡った。


 ドサッ


 倒れる2人の音。

 いや、正確には1人であった。何せ少女がまつりの上に乗っかっていたからだ。


「イタタ」


「ちょっとあなた本当に何してるの?」


「えっ?」


「なに? 聞いてるの? 誰のせいでってあれ?」


「私の体が……」


「あ、あの僕。ちょっとお腹が……」


 正義感の強いまつりでも、超常現象的なことには関わりたくないようだった。


「ちょっと待ちなさい」


 今度はまつりが腕を掴まれる。


「ねえ、あなた。こんな幼気な少女を放っておくの?」



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