第2話 『帰郷』

 ペパーミントグリーンの髪にシルバーの瞳、そして尖った耳はまさに異形のものと映るだろう。

 なのでオフェーリアは姿変えの魔法を使った平凡な姿で、あの侯爵邸に滞在していた。

 だが今は一切の偽装を解き、一瞬の転移で【マザー】と呼ばれる、魔法族の女王の宮殿にやって来た。


「ここも半年ぶり、かしらね」


 魔法族は個人差はあるが1000年以上の寿命があると言われていて、現に【マザー】は3000年以上生きていると言う。

 それでも見た目は40代の美熟女である。


「そなたが破談になるところは視ておった。

 かねてからの約定により、これからの余生はそなたの自由じゃ。

 当方に納められていた結納金も全額譲り渡すことにする。

 ……オフェーリア、苦労をかけたのう」


「いえ、マザー。

 あの男はいけすかない奴でしたが、その他のものたちには良くしてもらいました。

 あの男に関しては業腹ですが、それは本人がこれから味わうだろう事を考えると……

 私自身としては感謝以外何ものもないですけどね」


 何しろ50年は覚悟していた人間との結婚生活だ。

 もちろん最低1人の子供も生まなければ契約違反となるので、それなりの関係を結ばなければならない。


「そもそもどうしてこのような契約を結ぶことになったのでしょう?

 我々が得をするとは思えませんが」


 これは非常に高度な政治的な問題なので、オフェーリアには理解できないであろう事だ。

 あやすように微笑み返されて、彼女はこの話は終わりなのだと悟った。


「ではマザー、これ以降私は自由に過ごして良い、と言う事でよろしいのですね?」


「ホホ……いつでもそなたのことを見護っておりますよ」


 こうして魔法族は一定の義務(人との婚姻)を終えた(伴侶との死別を含む離別)あと、残りの生を好きに生きる事が許されるのだ。


「では御前、失礼します」


 頷き返す【マザー】に見送られ、オフェーリアは謁見の間から退出して行った。


「オフェーリア、我々の愛し子よ。

 そなたのこれからの生に幸あらんことを」


 そう呟いた【マザー】も姿を消した。




「さて、何を持っていくかね?」


 魔水晶と白大理石、そして聖霊樹を組み合わせて造られた宮殿から出てきたオフェーリアに声をかけてきた老婆がいた。

 もう一体いつから生きているのかわからないほどの年月を重ねてきた老婆は、こうして義務を終えた同族に対してこれからの生活をサポートする仕事を行なっている。


「婆様!

 相変わらずお元気そうですね」


「儂が元気でなくなるときは寿命を全うするときじゃ。

 さて、どうするのじゃ?」


 20年ぶりに生まれた同族のために、老婆は最大の便宜をはかるつもりだ。

 何しろオフェーリアのあとに続くものもいないのだから。


「そうねぇ、まずはお家でしょうか。

 こぢんまりしたウッドハウスがいいです」


 おや、彼女は街中に住むつもりはないようだ。


「もちろん持ち運びできる魔法の家ですよ?

 それから色々カスタマイズできるものでなくては」


「ほう、どのように改造するつもりじゃ?」


「地下室は必須ですね」


 オフェーリアは嬉々として説明を始めた。

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