ぐうたら剣姫行 補遺集

シルバーブルーメ

ファラとセルイの子供たち

※「ぐうたら剣姫行」に登場する、性格破綻者のメガネ巨乳魔導師ファラ・リスティスと、その夫セルイ(ライズ)との間にたくさん生まれた子供たちについてのメモです。

「ぐうたら剣姫行」の後日談要素も色々と。





1 長男ライル


 受精直後でまだ着床すらしていない時期に死神ザグルの力を浴び母親が神の世界に行くという、人間側からの再現がほぼ不可能な状況によって、魂に神の一部が入りこんで生まれてきた世界最強の魔導師。


 名は幼い頃に失ったファラの弟のもの。


 当たり前のように神の世界を見ているため、外からは浮き世離れした、何を考えているのかよくわからない妙なやつに見える。もっとも本人的には逆で、意識して人の世に身を置き、母や弟妹たちと共にいようとしている。


 魔法よりさらに上位の神の力を混ぜこんだ術を使えるため、どのような人間相手でも勝てる。戦えば必ず相手を倒せるためについた異名が「死神」。ただしめったに戦ってくれない。


 カラント王国筆頭魔導師にされるが、現世の利益に一切興味がないのでまともに働かず後進の指導もしようとしなかった。ある時期からは「最高魔導顧問」という役職につけられ、何もしなくていいからカラントにいてほしいとカルナリア女帝に要望されて受け入れる。その際女帝から、あのひとがうらやましがるでしょうねとしみじみと言われた。


 家族を除けば、彼にとって「同じ人間」なのは神の力に関わるフィンとカルナリア、マリエだけ。したがって初恋相手はフィン。マリエに童貞を狙われているがおぞましいものを感じて逃げることにした。どうなったかは不明。


 結婚はせずそれほど老化もせず、カルナリアが世を去ったあともひとり超然として生き続けるが、他のすべてのきょうだいたちが世を去った後、100歳を超えた頃に姿を消す。ぼろ布をかぶったふたり連れにフラフラとついていったところを目撃されたのが最後。




2 長女カイラ


 ライルが間違いなく普通ではない存在となって産まれてきてしまったのはまずかったかと反省し、またガルディスの乱も終わっていない時期だったので、何一つおかしなことはやらずに普通に妊娠出産。結果、才能も魔力も何一つきわだったもののない、凡人きわまりない子として生まれてくる。これもかつて失ったファラの妹の名前。


 無能力だが、包容力の天才。にこにこしながらいい子いい子されると誰もが赤ん坊に戻されてしまう。母譲りで胸も大きく育ち、ファラに続いて第二の「大母」「みんなのお母ちゃん」となりカラント王国の見えざる中心人物となる。


 問題児の次男グリスも三男ダイラスも、このカイラにだけは絶対に頭が上がらないし逆らえない。また「死神」ライルも、乳児期からこの「無能力者」が身近にいてくれたことで「人間」というものを理解することができるようになっていた。いなかった場合、もしくは下の二人のような特別な者としか接していなかった場合は、ライルは普通の人間のことをまったく理解しない怪物となっていた可能性が高かった。


 ルーマ戦役に際して、基本的に国内に居残っていたが、慰問のため前線に赴いたところを奇襲され、結果カラント全軍が激怒し勝利するという一幕も。


 ナルドルの子すなわち王子と結婚して王族となる。四子をもうける。色々なところに行って色々な人と会い、おいしいものを食べるのが好きで、「グライルの裁き」ことグンダルフォルム襲撃による帝都レイマリエ消滅時にはたまたま別な土地にいたため難を逃れる。同行していて生き残った四番目の子ルイダールがのちにカルナリアより王位を譲り受けカラント国王となり、カイラは本当の意味で「国母」となる。カルナリア失踪後も長く生きて、88歳にて没。




3 次男グリス


 カイラがあまりにもライルと違う「普通の子」だったために、次の子はやっぱり特別な何かにしたいという欲望にさいなまれていたファラが、複数の神の力を使えるマリエという「同類」が現れたことでついにやってしまう。マリエを助手に、胎児にグンダルフォルムのエキスを投与しかつ身体強化魔法を施す。結果、魔力、体力ともに標準以上に優れた戦士として生まれてきた。


 幼少期からなまじな大人より力が強く傲慢になっていたが、あるとき姉のカイラに連れられ王宮の裏庭へ赴いた後、人が変わったようになって戻ってきた。とてつもない怖い目に遭ったらしい。また自分より強い者はいくらでもいるということも理解したらしく、以後は真っ当に育っていった。


 また長男ライルがふわふわしすぎているので、実質的に長男として数多い弟妹たちの面倒を見る時期が長く続き、性格も真面目になってゆく。


 魔法にも武芸にも優れた彼を含めて「五天将」ではなく「六天将」と呼ぼうという意見もあったが、カラントにおける信仰的に五というのは重要な数字であり、また弟ダイラスが先に五天将のひとりとされていたために兄弟ふたりが並ぶのは権力構造的にもよろしくないと外されてしまう。ゆえにあだ名は五天将の六番目で「第六天将」である。


 二度のルーマ戦役で功績を立て、大将軍となり王国軍を統率する立場となり、長く国家の守護者としてあり続けたが、レイマリエをグンダルフォルムが襲撃した際に死亡。生存者がゼロのため記録には残っていないが、痕跡から見ると、「若い」グンダルフォルム三頭が争った中で一頭が死んだ、それに致命的な一撃を入れたのがこのグリスだったらしい。相手が三頭でなければ人類史上二度目の快挙となっていたところだった。もっともその一頭を他の一頭が食ったことにより最強の一頭となってしまったので、功罪相半ばといったところか。




4 三男ダイラス


 グリスの「成功」で盛り上がってしまい、意気投合したマリエと共にさらに手を加えて誕生。結果として強すぎる人間として生まれてきてしまった。強靱すぎる肉体と、生まれついての治癒能力。切っても刺しても刃はほとんど通らず、ついた傷もすぐ治ってしまい、力は尋常ではなく強く、魔法の才能には乏しかったが浴びせられた魔法を吸収し使えるようになってしまう。「人の形をしたグンダルフォルム」というのがファラのひそかな評価。


 グリス以上に傍若無人に育ちかねなかったので全力でしつける。


 何とかまともに育ったものの、無口無表情で淡々とすさまじい戦闘力を発揮する、ある種のマシーンのようになってしまった。


 真鏡王十五年の第一次ルーマ侵攻が初陣。まだ未成年であり出陣は許可されないはずだったが勝手に参戦。体格がなまじな大人以上だったため誰も気づかなかった。戦場で暴れ回って発覚。ルーマの歩兵戦列をひとりで蹂躙するすさまじさに、ついたあだ名が「石人」。成長してあだ名は「鋼」に変わり、五天将の一人に加えられる。


 真鏡王二十六年の第二次ルーマ侵攻では、加齢により衰えてきていた各将の代わりを見事につとめて、兄グリスと共にルーマ軍撃退の功労者となった。


 そののち結婚し「初めて、他人の幸せを望む気持ちがわかった」「人間が生まれてくるとはこれほどに大変なものなのか、妊娠した女性というものがこれほどに危ういものなのか」「自分もこうして生まれてきたのかと思うと命というものについて深く考えるようになった」などの大母ファラが目を細める発言をいくつも残したが、ついに妻の出産を迎え、自分の命を継ぐものが誕生した喜びのあまりに常人の肉体強度をつい忘れてしまい、出産直後の妻と子をまとめて抱きつぶしてしまった。その後あらゆる慰めも許しの言葉も受け入れず自らに最も深い牢に閉じこもる。死ぬつもりだったが死ねるように生んでもらえなかった、と後日わずかに漏らしている。

 五年を経て外に出て以後は、軍には所属しない流浪の騎士となり、一所ひとつところに落ちつくことなく、各地をひたすら旅して回った。ある土地では「寝ないとダイラスが来るよ!」と恐れられることとなり、ある土地では危機からの救い主としてあがめられ、様々な民間伝承の元となる。


「幼い頃ではなく、今の自分のすべてで、フィン・シャンドレンと戦ってみたかった」と姉のカイラに漏らしたことがある。


 レイマリエ消滅時、次男グリスだけでなく長男ライルとこの三男ダイラスがいればグンダルフォルムを撃退することもできていたかもしれなかったが、滞在していなかったので、いくら無敵の肉体を持っていてもどうすることもできなかった。


 その後はカラントおよびバルカニアの両国をうろついて治安維持の手伝いをしてくれるが、母ファラを看取った後にふらりと姿を消す。以後の行方は知れない。





5 次女リゼル

6 三女アゼル


 一卵性双生児。グリス、ダイラスと尋常ではない子供が続いたため疑われ、ライルの告げ口もあってすべてばれる。ファラとマリエはこっぴどく怒られて、その結果何も手を加えることなく誕生。


 それでもカイラと違い、身体能力にも魔導師の才能にも恵まれる。カルナリア女王の推薦もあって忍び組「風魔」に所属、幼少期から修行に励み凄腕の忍びとなる。


 親きょうだいでも見分けがつかない二人組として、入れ替わりによる撹乱や幻惑を得意とする。


 のちにトニアの後を継いで「風魔」の長、「ふたりの『1』」となった。


 父親不明、どちらが産んだのかもよくわからない子供を大量に残す。


 なお「ぐうたら剣姫行」298話「カラントつれづれ」においてこの二人が言う「あのひとに遊んでもらったこともあるんだ」は、この姉妹が最後。次のディレルから先は幼すぎてもう超絶の美剣士の記憶はない。




7 四男ディレル


 こちらも何の手も加えず誕生。


 とにかく無難、平凡、地味。飛び抜けたものがまったくなく、すべてにおいて普通という、ある意味すごい存在。


 しかし逆に言えば何でもできるということでもあり、どんな組織や集団でも警戒されることなくその一員におさまることができて、とてつもなく顔が広い存在となる。「主力」にはならないが「主軸」「潤滑油」「人間関係の中枢」となれる人物。カルナリア女王いわく「レントの再来」。のちに王国宰相として、あらゆる局面に対処させられる便利屋となる。


 こちらも平凡に妻を迎え三人の子に恵まれその子供たちも順当に育つが、レイマリエ消滅時に一家全滅。




8 五男ギルディル


 様々な面において秀でてはいたが突き抜けた天才性の能力はなく、十分に優秀な人物ではあったのだがとてつもない能力を発揮する上の兄たちに比べると常人の枠内にとどまるため、劣等感から荒れ、歪み、ついには単身出奔し修行の旅に出る。それでもやはり常人ゆえに本人が望むような成果は得られず、第二次ルーマ戦役に傭兵として個人で参戦し無謀な突撃をかけて戦死。ディレルと違いなまじ優れた能力があり夢を見られたせいで悲しい人生となってしまった。




9 四女ネレイア


 魔導師の才能があり、長兄ライルにも幼少期から感覚的に色々教わって大魔導師と呼ばれるまでに成長するが、それ以上に夜の営みの天才であることを女王に見抜かれており、トニアより全ての技を伝授され「夜の姫」の座を継ぐ。「風魔」の女忍びたちを養成するのに大いに力を発揮した。とにかく破天荒な性格で、過去を知る者いわく「最も母親に似ている」とのこと。




10 五女マイネリス


 兄姉たちが優秀すぎるので、何をしてもどうせかなわないと、ディレルやギルディルと共に無気力組に。だが剣の天才であることが女王に見抜かれており、成長し背丈が伸びるとその通り無敵の剣士となる。初陣は成人直後、第二次ルーマ戦役。たたずまいはだらしなく戦い方もめんどうな打ち合いなどやりたがらない一撃必殺のもので、それがある人物によく似ているらしく女王に気に入られ、身辺警護の任につく。

 幾度となく女王の夜の相手をつとめたということにされているが、夫を迎え五人の子供を産んでいる。なお夫は五天将が一「騎士の中の騎士」テランス・コロンブの息子。

 子育てを終えた後はまた女王の警護の役目に戻った。

 女王の「死」に伴い、警備体制の不備の責任を取り自害(殉死)しようとしたのを長兄ライルと長女カイラに止められる。以後は女帝の墓守として生涯を過ごす。

 臨終の際にぼろ布をかぶった正体不明の女性たちが枕元に現れた……かもしれない。




11 六男セルイ


 夫セルイとの最後の営みによりできた子。


 とてつもない美形で、男性を好む人物に育った。


 どんな男でもとりこにできる魔性のまなざしを発揮し、到る所で害悪をばらまくようになる。「絢爛たるノエル」の後継者として一部貴婦人たちからすさまじい人気を博す。長兄ライルの「好意」により女性にもなれる肉体に改造してもらえた、あるいは手を出した相手を女性にしてしまえる能力を得た、いやどのような男性でも愛欲の泥沼に落としこむことができるようになったなどの、無数の真偽不明の噂があり、後代には「セルイの子」を名乗る者がカラントの夜の街に山ほど現れることとなった。




番外 猶子ゆうしティリ(実子ではないが一族として扱う)


 グライル族の女性エンフの次男。


 魔導師の素質があるため、医師となるべくカラントに出てきて、ファラの猶子という身分を得て下界の習慣を学び医術を修める。ライルやグリス、ダイラスらのよき兄貴分となった。


 薬草探しや見聞を広めるため各地を旅して、地理感覚の鋭さや商売の才能も発揮し始め、セルイ(ライズ)やノエルからも教えを受けて政治の世界に関わり始める。カラント生まれではないために根本の感覚が違うところが、ついつい「常識」にとらわれがちなカラント人たちにとって大いに役に立った。


 のちには五地臣の一と呼ばれるほどの存在になるが、グライルで族長ドランが死亡、母エンフが重傷という知らせを受けたことをきっかけにグライルへ戻っていった。


 あらゆる人間をわけへだてなく治療する「先生」となって、グライルの情報を一手に握るようになり、真鏡王の五十二年には成長したグンダルフォルムが動き出したことをいちはやくつかみカラントに警告するも、長きにわたって何事も起きず繁栄に酔いしれていたレイマリエの者たちがそれを深刻に受け止めることはなかった。




子孫(?) ファラ


 カルナリアの死後二十年ほどして、「『鋼』ダイラスの子」「大母の孫にして再来」と名乗って現れた強力な魔導師。メガネ巨乳という外見と破天荒な性格、強大な魔力の持ち主。

 代替わり直後の若いカラント国王を魅了し王国筆頭魔導師の座につき、魔導大学を支配下においてカラントの魔導師すべてを配下におさめんと狙う。

 しかしその過程において多くの犠牲を出したこと、カラントを支配した後には神の世界に踏みこみたいという欲望を示したこと、何よりもまだ存命で一族の長だった「国母」カイラに対する態度がきわめて不遜だったことから、リスティス一族が結集。「大母」ファラとその子「死神」ライルが作成したと言われる、子孫それぞれに伝えられてきた魔宝珠を七つ集めて祈願。するとぼろ布をかぶった妙な人物が数人現れ、あらゆる抵抗や防御を打ち破って「ファラ」を拉致、いずこかへ連れ去ったという。


 その人物たちの漏らした言葉とされているもの。「人体を構成する悪い実例を残してしまった私の責任でもあるからな、まったくめんどくさい」「やっと本物を揉めます。お覚悟を」「本当に戻ってくるんじゃねえ淫ら豚」「母の不祥事をわびる」「ダイ君の調整でがまんしようよぉ」






【後書きと余談】

最初はカルナリアの敵として出てきた巨乳メガネが、無数の出来事を経て、まさかこれほどに関わってこようとは。


子供たちの設定を書いていて、ここからも新しい物語を色々展開させられそうだなと。三男ダイラスはヘラクレス系の神話的物語に。五男ギルディルはとにかく悲惨な話になってしまいそう。


最後の「ファラ」は、本当は四世代ほど後に現れた詐称人物ということにしようと思っていたのですが、書いているとふと何かが降りてきて「あれだけ色々やらかしてるあのイカレ魔導師が、自分自身について何もしてないわけないよな」と……まあそういうことになりました。七つの宝珠は勢いでつい。子供たち十人(双子はまとめてひとつ)に一枚ずつ持たせたコイン、というつもりだったのですけどね……もういなくなってしまった者もいるので全部じゃなくてもある数があれば、七つくらい、七つか、そうか……とアレになってしまいました。出てくるのは竜ではありませんが。

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