孤児院の魅惑 18話

 レイシア様は、孤児院での先生でもある私バリューから見ても、アリシア様が実家に帰られてから見違えるように変わられました。どうやら、[素敵なお姉さま計画]とやらを、サチと立てているようです。


 まあまだ勉強は始めたばかりです。楽しみながら孤児院ここの子供達と仲良く過ごす所から……って掃除、洗濯、裁縫、薪割り? お嬢様はそんな事などしなくても……えっそれが [素敵なお姉さま計画] なのですか? 何か間違っておりませんか?


「あたしが孤児院ここ流儀シゴトを仕込んでやるよ。レイはあたしの妹分だ。二週間しかないからスパルタだよ」


 レイシア様とサチは盛り上がったと言うか暴走したと言いますか……。まあ二週間だし見守りましょう、怪我だけはしないように。土日はちゃんとお家で休むのですよ。レイシア様。



「レイ。あたしがあんたに教える事は、もはや何も無い。あたしのスピリッツを継げるのはレイ、いえレイシアあなたよ」

「………リサ、次のリーダーはあなたよ。大丈夫、あんたになら出来るって。……泣くなよ」

「………ケイ、あんたはね………」


 サチの卒院の前日、ささやかなお別れ会を開きました。サチは一人ひとりに言葉を掛け、孤児院は温かい涙であふれていました。


「みんな、笑って見送ってくれ。みんなの笑顔を忘れないようにしたいんだよ。じゃ、これでお別れだ。元気でなー」


 そう言い残してサチは孤児院を卒業しました。みんなは、笑顔で見送りました。


………でもサチ、就職先そこの温泉ですから、毎日でも顔合わせますよね、みんなと。



 もちろんレイシア様は、サチと特訓してあそんでいただけではありません。きちんと読み書きの勉強もしておりました。と言いますか、素敵なお姉さまになると言うモチベーションは、わずか三ヶ月で、学園入学前に覚えておくべき内容まで終わらせてしまいました。


 もっと学びたいのですか? ならば学園で習う内容にも踏み込みますか?



 最近は、読書にもハマっておられます。

 この間、王都から来た商人が、売れ残りの小説をいくつか寄贈して下さいました。


 レイシア様はファンタジー小説を読んでいろいろ疑問を持たれたようです。良い傾向ですね。空想から科学に興味を持つ。それも勉強です。


「先生、ファンタジーってなんですか?」


「そうですね。空想、現実にはないけれど、こうであったらいいな、と言う事を書いたお話を、ファンタジー小説と言います」


「じゃあ、ここに出てくるフワフワのパンとかケーキって王都にもないのですか」


「この世界にはないですね。作者は、おいしそうな食べ物を考えたのですね」


「おいしそうなのに」


「そうですね。でもねレイシア。頭の中で考えられる事はやがて作る事ができるかも知れませんよ。科学は人の願いで発展しているのですから」


 私は科学の発展について話すのもいいかなと思いました。


「じゃ、魔法もないの」


 おや、魔法に興味を持ちましたか。


「魔法、ですか。あるにはあるのですが、そのお話みたいに便利なものではないですよ。出力調整が効かないので」


 ファンタジー小説では、『ファイアーボール』とか『ファイアーランス』とか『ファイアーウォール』とかいろいろ考えられていますが、現実の魔法は脳筋。最大出力でぶっ放つだけなのです。一般の役に立つのは光魔法の治療ヒールくらい。調整出来ない魔法は戦争ぐらいにしか使えないのです。


「先生、魔法について教えて下さい」


 私は、ファンタジーの魔法と現実の魔法の違いについて教えました。そのついでに関数も混ぜ込ませました。レイシア様は「魔法ツマンナイ」と魔法への興味を失墜しましたが、関数は理解した模様です。関数は学園でも余程のエリート変わり者しか興味を持たない選択科目なのですが……。まあ、いいでしょう。


 レイシア様、私の知識は全てレイシア様にお伝えしましょう。それが私をすくい上げて下さった、クリフト様への恩返しです。

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