身近な怪異譚
@compo878744
第1話 そのまんま
僕が小学1年生の話です。
僕の実家は東京近郊の私鉄沿線の街に、高度経済成長期に建てられました。
今でこそ地価が上がり、非常に開発が進んでいますが、その頃は畑と林がたくさん残っていた田舎でした。
近所に同級生の間で、夜になると幽霊が出ると噂される林がありました。
昼間は下草が刈られて手入れされている明るい林です。
そこは徳川幕府が土手を作っていた跡で、俗に言う土塁と空堀が年月で崩壊した形で残っていました。
空堀の跡が浅い谷になっていたんですね。
その谷には、穴が二つ掘られていました。
防空壕の跡です。
昭和の末期まで残っていたと思います。
その日、僕は当時、町内会ごとに組織されていたソフトボールチームの練習を終えて帰宅途中でした。
練習グラウンド(ただの原っぱ)は、子供用自転車で5分くらいの場所にありました。
その日はたまたまいつも一緒に帰るチームメイトが休んでいた為、グローブを前カゴに放り込んで、何の気なしに遠回りして帰りました。
駄菓子屋にでも寄ろうとしたんでしょう。
普段なら狭い道に、車が必ず行き交い、買い物帰りのおばちゃん達の自転車が目立つのに、何故か誰も通りがからない夕焼けでオレンジ色に染まった街角でした。
その左角には、その林があります。
お化けの出る林と言っても、明るい日曜日の夕方です。
僕は鼻歌混じりでその街角にやって来ました。
空気が違いました。
なんかこう、カチンと固まる感じなんですよね。
そこは住宅街の外れですから、左手は普通の住宅が並んでいます。
でも、人の気配というものがありません。
いつもなら盛んに来る自動車も自転車も、一台も来ません。
誰も歩いていません。
と言っても何しろ明るいのですから、僕は普通に自転車で街角に進入します。
本当に何気なく「林」を見ました。
林の管理の為に作られた細い踏み分け道があります。
僕らは時々カブトムシを捕りに中に入っていましたから、噂は噂として特に怖がったりはしてなかったんですね。
でもその時、僕が見たものは。
白い着物を着て、人魂と一緒にふわふわ浮いている女の人でした。
それこそ円山応挙が描くような、典型的な「幽霊」。
しげしげと見つめましまが、明らかに宙に浮いています。
その時僕が恐怖を感じたのは、幽霊を見ているという事ではなく、普段賑やかな街角の夕方に誰もいない、という事でした。
僕は居てはいけない世界にいるのかも?
僕は慌てて自転車で引き返しました。
その後、この体験が本物なのか、夢か何かを思い込んだ、自分の記憶違いなのか長い事わかりませんでした。
だって人魂と一緒にふわふわ浮いてる、白い着物着た幽霊ですよ?
あまりと言えば、あまりじゃないですか。
ただ大人になって、帰省した拍子に、ここでもう一度、体験した事を思い出しました。
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