環ル魔法は少女の指に
薪原カナユキ
0.少女と少年、想いは流れる星となり
私のヒーローは小さな男の子だった。
私よりも背が低くて、細くて、うつむきがちで。
女の子みたいな弟って、ずっと思っていた。
でも伸ばしかけた手を私が取ると、貴方は力強く握り返してくれる。
かたい意志を瞳に宿して、くじけても前を向くことを諦められなくて、気がついたら私が手を引っ張られていて。
そんな貴方は、あの日もそうだったね。
「流れ星。見に行くんでしょう、ノエル」
「……うん! 行きたい。ユノ、キミと一緒に」
貴方のスミレの花みたいな色の瞳を、
私の宝石みたいな青の瞳に、
それから私たちは星空の下で、薄暗いさびれた街を駆けだした。
仲間たちが寝ている
走り続けると町の色が変わっていく。
どんどん薄く、人も建物も色々減って、町の外へ出た頃には使っているパレットは別の物。
走る道は石畳から荒れた地面に、より取り見取りな建物は豊かな木々なって、人は見知らぬ生き物たちに変わってしまった。
だから一滴の感情が、私の中で生まれてしまう。
こわい、って。
町の外に出たという自覚が大きく胸を
せき止められない不安の流れ。
水は足につたい、しみ込んでは重さを与えて、一歩ごとに速度を
でも──
「大丈夫? ユノ」
私の手を握っていた子が前に出ると、そんな声が耳に届いた。
手に伝わる
進みたがっている瞳が、表情を硬くする私をとらえて。
聞くのが当然だって。
笑いも怒りもせず、私の手の
だから答えたんだ。
「それはこっちのセリフ。はしゃぎすぎて離れないでよ」
「離さないよ。そうしたらキミと一緒に見れなくなるじゃん」
二人で一緒、この手は離さない。
何度もした小さな口約束。
そう、いつも通りなんだ。なら、いつものようにするだけ。
立ち止まってしまった私を、キミが手を握って待ってくれて。
私が笑えたら、また一緒に進もう。
「バカ。そういう意味じゃない」
私の言葉にキョトンとする少年を、再び前を制して引っ張っていく。
なぜなら頬の熱を風に乗せたいから。
でも強く握った手は少年と繋がったままで、背中から伝わる不思議がった視線には、何でもないと言い続ける。
何でもない、何てことのない。
出会ってからずっと、姉弟みたいに一緒にいた少年と夜空を駆ける星を見る。
それだけなんだ。
たったそれだけで星より眩しい光を生む私の心は、他の何でもないのだろう。
「……きれい」
頬の熱さは容易には抜けず、結局振り返ることなく森を駆けた。
辿り着いたのは開けた丘の上。
私たちと仲間だけが知っている、秘密の小さな遊び場。
そこへ踏み入った時には既に流れ星は夜空に描かれていて、
私もノエルも初めて見た光景で、幻想的としか表せない特別な空に、たった一言だけの感想を投げかけた。
手を繋いだ少年は言葉すら出なくて、ジッと落ちていく光に目を奪われていて。
すごいねって、声をかけようとしたら彼と目が合った。
すると
「うん、きれいだね。またキミと見たいって思うくらいに」
「またって。もう一回これやるの?」
「ダメかな」
「ダメと言ってもやるんでしょ。仕方ないから付き合ってあげる」
私もまた一緒に見たいから、なんて目の前の少年みたいには言えなかった。
けれど想いは手と同じくらいに繋がっていて、自分の心を否定なんてしたくなくて。
だからこれが私の精一杯。
彼が引き寄せてくれたのなら、私も引き寄せるんだ。
「アンタが私のことを嫌いになってなかったらね」
この手を離さないのなら、ずっと一緒だよ。
そうしていればきっといつかは言える、嫌いに置き換えた赤い言葉。
飲み込んでしまった、たった一言。
その
落ちてきた星が貫いた、赤い心に──
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